富豪外科医は、モテモテだが結婚しない?

青夜

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パムッカレ 緊急防衛戦 XⅥ

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 地上に降りる前に、既に《刃》が俺たちを認識した。
 俺たちももう取り囲んでいる。
 「ガンスリンガー」たちが特殊な銃を構えている。
 高虎のソルジャーたちの武器「カサンドラ」の改造型「サザンクロス」だ。
 スーパーレッドホークに似た外見で、あいつらの使い慣れた形にしたそうだ。
 《刃》が動こうとした。
 その瞬間に、幾つもの「サザンクロス」の攻撃が入る。
 《刃》を傷つけることは出来ないが、兆しを潰していく。
 実に見事な「止め」で、《刃》は何も出来ないでいた。

 「喰らえぇぇぇぇぇーーー!」

 虎蘭が隠蔽「魔法陣」を使い、超「連山」を放った。
 《刃》の右半分が消し飛んだ。
 《刃》は「界離」を使ったはずだが、それが無効化されている。
 時空ごと引き裂く「魔法陣」の威力だ。
 すぐに別な剣聖が虎蘭の裂いた次元の亀裂に超「雲竜」をぶち込む。
 
 「待て!」

 他の剣聖が攻撃しようと動いたのを止めた。
 《刃》の様子がおかしい。
 身体の周囲が歪んでいる。
 不味い予感がする!

 「全員! 飛べ!」

 剣聖たちは空中に上がり、上級剣士たちは「ガンスリンガー」たちを抱えて飛んだ。
 その下で、空間が揺れながら円状の波紋が拡がって行った。
 凹凸のある地面が吹き飛んで行く。

 「なんだありゃ!」
 「分からねぇ! でも、相当ヤバいぞ!」

 恐ろしいほどの波動を感ずる。
 あれは剣技ではかわせない。
 今は水平方向に地表へ拡がったが、空中に向けられないはずがない。

 「各自、全力でぶちかませ!」
 
 そう命じた時、地面から何かが現われた。
 《地獄の悪魔》だった。
 見たことも無い、金属の輝くような表面の人型だ。
 体長は5メートルで、頭頂に無数の長い髪のようなものが垂れ下がっている。
 
 《刃》は再生を始めていた。
 やはり、そういう能力があったか。
 全員が攻撃しようとした瞬間、また《刃》からあの波紋が放たれた。
 ギリギリで回避したが、あれは不味い!

 「虎白さん! 私が突っ込みます! 私の座標を避けて他の皆さんで!」
 
 虎蘭が言いながら突っ込んだ。
 あいつ!

 「待て!」

 言うことなぞ聞かない。
 《刃》がまた波紋を放とうとした。
 その時、隣にいた《地獄の悪魔》が《刃》に襲い掛かった。
 何がなんだか分からん!

 「撃てぇー!」

 虎蘭が真っ先に超「煉獄」を撃つ。
 他の剣聖たちも、間髪入れずに撃った。

 《刃》と《地獄の悪魔》が四散していく。
 全員が無心に攻撃したので、幾つもの時空の裂け目が生じた。
 俺たちは重ねて超剣技を撃って、幾つもの次元の裂け目を必死にぶちのめしていく。
 上級戦士たちも、「ガンスリンガー」たちも、夢中で撃ち込んだ。
 何とか空間が戻った。

 「虎白……」
 「ああ、終わったぜぇ」
 「そうだな」

 全員が地上に降り、散らばって塵になっていく《刃》と《地獄の悪魔》を見た。
 虎蘭が俺の隣に来た。

 「あの《地獄の悪魔》、なんだったんでしょうか」
 「……」

 明らかに、《刃》の邪魔をしていた。
 
 「天豪かもな」
 「え!」
 「高虎が言ってた。妖魔に乗っ取られても、意識を残す奴がいるんだとよ。相当精神力が強い奴だけだそうだが」
 「じゃあ……」

 瞬時のことで、よく分からん。
 でも、俺には俺たちを護って《刃》に襲い掛かったように見えたのだ。

 「分からんよ。でもな」
 「はい、私もそう思います」

 虎蘭が合掌した。
 
 「おい、お前生き残ったな」
 「はい!」

 虎蘭が笑った。
 他の剣聖が近付いて来て言った。

 「虎白、パムッカレにも《刃》が出たってよ」
 「蓮花研究所は大丈夫だ。高虎が行ったからな」
 「じゃあ、パムッカレに行くか」
 「おう!」

 パムッカレには聖が向かった。
 でもあいつは本調子には程遠い。
 まあ、高虎の親友だ。
 滅多なことはねぇだろう。





 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■





 《刃》はまだ移動出来ないようだった。
 それに先ほどの攻撃から、次の攻撃が来ない。
 ダメージがあるのだ。
 諸見さんの最終奥義を喰らったせいだろう。
 諸見さん……

 私たちは急いで保奈美さんの確保に向かった。
 「Ωコンバットスーツ」を着て倒れている女性が見えた。
 周囲の人間はみんな斬り裂かれていた。
 あの猛攻をも、保奈美さんの「Ωコンバットスーツ」は護ったのだ。
 バイタルはある!
 同じ「Ωコンバットスーツ」を着ているので、それが分かる!

 「保奈美さん!」

 茜さんが抱き起した。
 保奈美さんが意識を取り戻した。
 同時に驚いている。

 「え、まさか! 茜!」
 「保奈美さーん!」

 茜さんが泣きながら抱き着いた。
 
 「茜! どうしてあんたが!」
 「保奈美さーん!」

 「急いで飛びますよ!」
 
 私が言った瞬間。
 恐ろしいプレッシャーが来た。

 「来る!」

 《刃》から何かが放たれたことが分かった。
 相当不味い攻撃なのが分かる。
 即座に「大闇月」を展開した。
 葵が茜さんの前に立った。
 そして!

 「保奈美さん!」
 
 保奈美さんが茜さんに覆いかぶさった。
 その瞬間、全員が吹き飛ばされる。
 数百メートル吹っ飛ばされ、私は一瞬意識を喪った。
 みんなは!
 次のプレッシャーが来た。
 これはかわせない!
 朦朧とした意識で、タカさんの顔が頭に浮かんだ。

 周囲が真っ白になった。
 目を開けていられない。
 続いてもう一度、白光が光る。
 衝撃波が来てまた吹き飛ばされ、今度こそ完全に意識を喪った。

 



 「おい、亜紀! 大丈夫か!」
 
 抱き起されて目を開いたが、まだよく見えない。
 だから、先ほどの白光からさして時間が経っていないのだと気付いた。
 まだ、目が瞳孔の調整に戸惑っているのだ。
 でも、その声で分かった。

 「聖さん!」
 「ああ、大丈夫か?」
 「はい!」

 身体のあちこちが痛んだが、それは《刃》の攻撃を喰らったせいだろう。

 「柳も無事だ。まだ立てねぇけどな」
 「そうですか!」
 「あと、茜もなんとかな。お前らよりひでぇ状況だが、生きている」
 「え、保奈美さんは!」
 「……」

 聖さんが応えなかった。
 目が見えずとも分かった。
 徐々に目が馴染んで来た。
 聖さんが苦しそうな顔をしている。
 前回あれほどの重傷を負ってもそんな顔をしていなかった。
 じゃあ、保奈美さんは……

 「聖さん……」
 「……」

 「聖さん、泣いてるんですね」
 「だってよ……」
 「はい」
 「トラが俺に頼んだんだ。保奈美を助けてくれってよ」
 「はい」
 
 ようやく目が見えるようになり、何とか立ち上がった。
 聖さんに肩を借りて向かった。
 
 茜さんの周囲に、保奈美さんの身体が散らばっていた。

 「茜を護るつもりだったんだろう」
 「そうですね」

 聖さんが地面に崩れた。
 悲痛な声で叫んだ。

 「トラ、済まない!」
 「聖さん」
 「トラ! 済まない!」
 「……」

 聖さんが泣き叫んでいる。
 私が今度は支えようとした。
 一緒に崩れた。

 「トラぁ―!」

 聖さんが慟哭の叫びを挙げた。
 全てが終わった。





 私たちは負けたのだ。
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