富豪外科医は、モテモテだが結婚しない?

青夜

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空に咲く花 Ⅳ

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 自分の気持ちがよく分からない私は、小春さんに御相談した。
 小春さんは東雲さんのパートナーだ。
 何かあればいつでも気軽に私と同じユニークタイプ(ネイムドとも呼ばれる)の方々に相談するように、蓮花様に言われていた。
 私は何故か森本少尉のことが気になるのだとお話しした。
 言葉としてはそういうことなのだ。 
 そして私たちは、言葉の他に多くのデータの遣り取りが出来る。
 私が見聞きしたことの多くがデータリンクされ、小春さんにも伝わる。

 「あたしにも分からないねぇ。でも、誰かを気になるっていうのは、ままあることだよ」
 「そうなんですか」
 「でもね、それはデータ化出来ないんだ。つまり言語化、ロジックには出来ない。逆に言うとね、石神様や蓮花様が、どうしてあたしたちに誰かを愛することが出来るようになったのか、いつも不思議に思うんだよね」
 
 小春さんはそういうことを仰った。
 でも、私には失礼かもしれないけど、一つの質問をした。

 「あの、こんなことを言うと失礼だとは思うんですが、小春さんは東雲様を本当に御自分で愛していると思っていらっしゃるんですか?」
 「アハハハハハハ!」

 小春さんが大笑いされた。

 「あんたね、そんなことはさ、自分で分かるようになるよ!」
 「そういうものですか」
 「保証するよ。だからさ、言葉にして説明は出来ないよ。でもさ、確実に分かる。まあ、自分でもどうしようもない程にね。本当にさ、どうにもならないんだよ。まあ、自分でもびっくり!」
 「ウフフフフフフ」

 まったく説明にもなっていないが、私にも信じることが出来た。
 第一、私たちは嘘が言えない。
 それ以上に、小春さんの言葉は私の中に沁み込んで来た。

 綾さんには直接お会いしたことがある。
 まだ諸見様と一緒にアラスカにいらっしゃった時だ。
 綾さんの諸見様への愛は、アラスカでも評判になっていた。
 非常に真面目だが他人と関わることが苦手な諸見様が、綾さんとご一緒になってから明るくなられたと聞いている。
 その時はまだ森田少尉とはお会いしていない。
 今回、あらためてご連絡して相談した。

 「綾さんは諸見様のことをどう思われているのですか?」
 「私の全てです。私の存在の全てが諸見さんと共にあり、諸見さんに捧げられています。私はそのことが嬉しくてたまりません」
 「そうなのですか。私はまだどなたかをそういう方と感じたことはありませんが、綾さんは諸見様と出会った時からそうだったのですか?」

 私はプログラム、セッティングでそうなっているのかと考えていた。
 
 「そうではありませんよ。私が石神様と蓮花様に言われていたのは、諸見さんを大切にすることだけです。出来るだけのお世話をし、諸見さんをお幸せにするということだけです」
 「幸せに、ですか」
 「はい。正直に言って、私は「幸せ」ということはよく分かってはいませんでした。ですから諸見さんのお世話をしながら、諸見さんがどう感じ、何をお考えなのかを感じようとしていました」
 「なるほど。そうやって諸見様のお好みを知ろうとなさったのですね」
 「最初はね。でも、そうやっているうちに、諸見さんが非常に優しく繊細で、私などのことを労わって下さろうとしていることが分かって来ました」
 「そうなんですか!」

 私には経験は無いが、何か大切なお話を聞いた気がした。

 「ある日、私がメンテナンスで家を留守にしていたんです。戻った時に、諸見さんが私を描いたスケッチを見たら、私の中に何かが突然光ったのです」
 「光った?」
 「そういう表現しか出来ません。私はその絵を見て、もう諸見さんが愛おしくてたまらなくなりました。それ以来、その気持ちが増していく一方です」
 「そうなのですか!」

 私は嬉しくなった。
 私にもいつか、そういうお相手が出来ると良いと思った。
 綾さんは諸見様にも会わせてくれ、綾さんが仰る通りにお優しい方であることがよく分かった。

 ディディさんともお話ししたが、小春さんと綾さんと同じだった。

 「最初はね、私などいらないと言われたの」
 「そうなんですか!」
 「だからね、一生懸命に武彦さんのために働いたの。時々やり過ぎちゃってね、叱られもしたのよ」
 「ウフフフフフフ」
 
 デュールゲリエの私たちが本気になったら、どれほどのことをするのかが想像出来た。
 多分、ディディさんのデータなのだろうけど「やり過ぎ」の概念が私の中にある。

 「メンテナンスで蓮花様の研究所に運ばれたのね。その時に、武彦さんがトラックの床に毛布を敷いて下さったの」
 「え、毛布ですか?」
 「ええ、私にはまったく必要の無いもの。私も最初は当惑してしまって、必要無いのでお断わりしようとしたのね。でも、武彦さんが心配そうな顔をして持っていらっしゃるので、そのまま受け取って床に敷いて蓮花様の研究所へ行ったのですね。そうしたら蓮花様が大変驚かれて」
 「そうなのですか?」
 「「乾様は最高です!」と両手を挙げて叫ばれました」
 「はぁ?」

 よくは分からなかった。
 でも、ディディさんは微笑んでおられた。

 「私にも分からなかったんですよ。でも、帰りのトラックで蓮花様は大きなソファに私を座らせたのです。そのまま帰ると武彦さんが大層喜ばれていました。その時、私はやっと自分が武彦さんに愛されているのだと分かったのです、そして私もとっくに武彦さんを愛しているのだと自覚しました」
 「はい!」
 「毎日、武彦さんの良さ、優しさを見出していくんです。私は幸せです」
 「そうですか、ありがとうございました」

 私はお礼を申し上げてお話を終わった。
 具体的には理解することは無かったのだが、私の中に、何かが産み落とされた気がした。

 紅さんにもお聞きした。
 あの方は、他の三人の方とは少し違っていた。
 羽入様のパートナーになることは決まっていたのだが、羽入様のお世話をするだけで、最初は何もさせないことで御守りしようとされていた。

 「最初はね、羽入に自分の言うことを聞いて従わせようと思ったの。そうすれば危険な目に遭わせずに済むから」
 「なるほど」
 「だからね、羽入と会った時に屈服させようとしたの」
 「え!」
 「そうしたら、負けちゃって! 羽入は本当に強いのよ! アハハハハハハ!」

 紅さんが大笑いしていた。

 「本当はね、私が最初から油断していなければ勝てたと思うの。でもね、羽入は絶対に負けない」
 「え、それはどういうことですか?」
 「今でもそれは分からないの。何度も二人でもう終わりだと思った。でもね、必ず羽入は勝つの。羽入は最高なのよ!」
 「ウフフフフフフ」

 四人のユニークタイプの方々にお話を伺い、私の中に何かのうねりのようなものが存在するようになった。
 まだ「愛」のことはよくは分からなかったが、それが自分にも分かる日が来ることを確信した。
 森本少尉のことが常に頭に浮かんだ。
 でも、それが「愛」であるとは、自分には思えなかった。





 思えなかったのに、私は森本少尉のことばかり考えるようになっていた。
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