富豪外科医は、モテモテだが結婚しない?

青夜

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寮歌祭 発表 Ⅲ

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 タカさんがマイクを持って微笑んだ。

 「えーと……なんかとんでもないことを言っている方たちがいますが、俺、全然聞いてないんですけど!」

 会場が一瞬静まり、そして大爆笑になった。

 「ほんとに困るんですよ! 俺、自分の勝手で喧嘩を始めただけで。「業」の奴が俺と俺の大事な人間を殺すって言うから! だから、ふざけんなって喧嘩を始めただけなんです。ほんとですよ? 今じゃなんだか世界の運命とか人類の存亡とか言ってる人もいますけど。俺はそんな大きなことを考えたこともありません!」

 また爆笑だ。
 タカさんが本気で困っているように見えるからだ。
 
 「俺って、いい加減な人間なんですよ! 親友の子どもを引き取ったのは事実ですけど、みんな偉いねって言うんです。全然そんなんじゃないんですよ! ただ、親友の山中と前に約束してたから。それに子どもたちが俺に懐いてカワイイから。今じゃ全員俺の奴隷ですって! 毎日家中の掃除をして洗濯して、食事を作って。不味かったら怒るし、ちょっとミスしたら殴る蹴るだ。な、そうだよな?」

 私たちに向かってタカさんが言うので、ちゃんと答えた。

 「全然違います! 大事にされてますよ!」
 「「タカさん、大好きぃー!」」

 またみんなが笑う。

 「まあ、普段からそう言えと脅してるんで。今、俺の小遣いとか、双子のルーとハーから奪い取ってます。金を稼がせて全部、そうだよな?」
 「「大体そうです!」」

 みんなが爆笑した。

 「まあ、そんな感じで。戦争だって、危険な場所は他の人間行かせて。俺は大体後方でふんぞり返ってます。みんな、ご苦労さん」

 また爆笑。

 「周りの人間が優秀で強いんです。だから何とかやってるし、そのせいで何か勘違いもされてる。俺は人類なんか救いませんよ? 俺の大事な人間だけです。あ、みなさんは大事なんでちゃんと守りますから、ご協力下さい。でも、俺なんかよりも御堂を宜しく。こいつは本当に信用出来る奴ですから」

 小島将軍が隣で笑っていた。
 御堂さんもだ。

 「今後、世界は大きく変わります。俺たちだけじゃなく、否応なくみなさんの周囲も変わっていく。「業」は全世界に敵対し、攻撃してきます。俺たちも、必ず勝つとは言えない。まあ、言ってもいいんですが、聞きたいです?」

 また大爆笑だ。
 拍手も沸いた。

 「じゃあ、言います、必ず勝ちますから! 今後とも、宜しくお願いします! 以上!」

 タカさんがマイクを司会の方に渡して、さっさとステージを降りた。
 会場が大きな拍手に包まれた。
 司会者の人がタカさんや御堂さんたちは個人の立場でいらっしゃっているので、挨拶等はご遠慮くださいと言っていた。
 檄文が読まれ、いつものように寮歌祭が始まった。




 

 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■






 「まったく石神は」
 「おい、勘弁してくれよ」

 御堂が大笑いして俺の肩を抱いた。
 こいつのこういう仕草は珍しい。
 本当に楽しそうだ。
 俺は御堂と澪さんにビールを注いだ。
 子どもたちはとっくに料理を漁りに行っている。

 「いよいよお前も表に出るんだね」
 「仕方ねぇ。まあ、完全にじゃないけどな。知る人間は多くなるだろう」
 「そうだね。そうだ、前から考えていたことがあるんだ」
 「おい、なんだよ?」
 「石神が大統領になれよ」
 「バカ言うなぁ! そんな面倒なもの、誰がやるかぁ!」
 「おい、それを僕に言うのか?」
 「ワハハハハハハハ!」
 「ウフフフフフフ」

 澪さんと笑った。
 御堂も笑っている。

 「まあ、僕も覚悟を決めているからね」
 「頼むぜぇ」
 「まったくなぁ。石神が相手だと、どこまでも甘くなるよ」
 「俺に惚れてるからな!」
 「うん、そうだよ」
 「ウフフフフフフ」

 驚いたことに、小島将軍が来た。
 柳が最初の料理を抱えて来て、ビビって近寄らない。

 「おい、俺にも注げ」
 「はい」

 俺が空いたグラスにビールを注いだ。
 小島将軍が座り、俺たちにグラスを合わせて乾杯した。

 「これからも宜しく頼む」

 小島将軍が頭を下げたので、三人で驚いた。

 「もちろんですよ! これまで以上にやりますって!」

 小島将軍が御堂を見据えた。
 御堂も姿勢を正す。

 「御堂、一つ聞きたい」
 「はい、なんでしょうか?」
 「お前、覚悟は出来ているな」
 「もちろんです」
 「では聞こう。お前、こいつが死んでもやり続けるか?」
 「!」

 御堂の顔が強張った。

 「お前はこいつの遺志を継いで、その後も「業」と戦うか?」
 「……はい」

 御堂が死にそうな声で言った。
 俺も胸が引き裂かれるほどに辛かった。

 「僕は石神がいない世界には興味がありませんでした。でも、石神の指示で総理大臣になってから、やっと石神の本心が分かりました」
 「そうか」
 
 御堂が俺を見た。

 「石神は僕を死なせないようにした! 僕を騙して死ぬことが出来ないように! 石神! お前は本当に酷い奴だ!」
 「悪かったよ」
 「石神がいなくなっても、僕は石神が向かった道を進むしかなくなってしまった。もうどうしようもない! お前が護ろうとしたものを僕は捨てられなくなってしまった。本当にお前は……」
 「悪かったな、御堂。お前にしか頼めなかったんだ。お前と聖と蓮花だけだよ、俺が託せるのは。お前たちがいるから、俺は思い切りやれる。俺が最大の信を置くお前たちがいるからだ」
 「石神!」

 小島将軍が俺たちを見ていた。

 「分かった。済まなかったな、お前に覚悟を聴きたかった。わしも長い年月を待った。ついに始まった。だからわしも思い切りやるぞ」
 「小島将軍?」
 「今日はそれだけが聞きたくて来た」
 「そうなんですか」
 「おい、また一緒に飯を喰おう」
 「はい、いつでも」
 「御堂もな」
 「はい、喜んで」

 小島将軍が立ち上がり、出口に向かった。
 俺と御堂はその背中にずっと頭を下げていた。

 柳がやっと戻り、亜紀ちゃんも戻って来た。
 両手に大量の料理を持っている。

 「小島将軍、帰られたんですか?」
 「ああ、忙しい方だからな」
 「折角お料理を持って来たのに」
 「お前ら近づかなかったじゃんか!」
 「「アハハハハハハハ!」」

 二人はまた次の料理を取りに出た。
 俺たちは遠慮なく皿の料理を食べる。
 子どもたちは次々に料理を運び、俺たちのテーブルは一杯になった。
 みんなでワイワイと食べて行く。

 第一高等学校の番になり、みんなで歌った。
 ほとんど全員が前に出て来て、盛大な大合唱になった。

 全ての校歌が終わり、寮歌祭は閉会となった。

 「石神、いよいよ多くの人間に知られて行くな」
 「まあ、仕方がねぇ。俺の何が変わるわけじゃねぇしな」
 「そうだね」

 御堂が爽やかに笑った。
 御堂、本当に済まない。
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