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竹流と馬込、石神家へ Ⅳ
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連城十五が初めて石神家へ来たのは、彼が16歳の時だった。
「連城流」の嫡男にして格闘技に凄まじい才能を有していることが分かっていた。
百家の人間が石神家へ赴くように予言し、それが両家に伝えられてすぐさま連城十五は石神家へ行くことになった。
連城家には伝えられてはいなかったが、百家が怒貪虎さんに予言を告げたそうだ。
そういう経緯だったので、石神家でも連城十五を歓迎した。
「十五、これはまたとない機会ぞ。あの石神家へ招かれるとはな!」
父・連城晴臣は喜び、十五に石神家のことを話した。
日本の武道家の中でも最高峰であり、どのような勢力も不可侵の家系であること。
その剣技は凄まじく、石神家の人間がその気になれば世界を平定することすら可能であること。
「父上、そのような家がありながら、どうして先の大戦では日本は敗北したのでしょうか?」
「石神家は政治に関わらない。まあ、剣の鍛錬以外には興味が無いのだ」
「そのような……でも、もしも日本がアメリカに支配されていたら」
「その時にはな、アメリカの最期よ。石神家に逆らおうものならば、敵は必ず粉砕される」
「しかし原子爆弾もありますぞ」
「そのようなもの! 打つ前に仕留めておるわ。「花岡家」は戦車を破壊するそうだ。しかし、石神家は機甲師団を壊滅出来る」
「そんな!」
「太平洋戦争で、盛岡にも爆撃機の編隊が飛んだそうだ。恐らくは石神家のことを知っておったのだろう。しかし、全てが一瞬で撃墜された。だから米軍も石神家には触れないようにした。あまりの出来事に、公式な記録にも残されなかった。GHQは石神家に戦後に賠償したそうじゃぞ」
「それほどですか……」
そうして連城十五は石神に向かった。
「お前が連城十五か」
「はい、よろしくお願いいたします!」
「おう、俺は当主代行の虎白ってんだ」
「はい、虎白さん!」
驚いたことに、石神家ではまず最初に「連城流」を教えられた。
しかも、父から教わる以上の高度な技まで伝授された。
「虎白さん、どうして「連城流」を知ってるんですか?」
「ああ、俺らはよ、強い武術は全部平らげてんだ。昔から全国を回って集めてる方がいてな」
「そうなのですか!」
「それらを習得するばかりじゃねぇ。そこからどうやって発展させるかまで考えているのよ。様々な流派の統合もしてる」
「凄いですね。それでは「花岡」もですか?」
「もちろんだ。一度あそこの今の当主が来たこともあるぜ」
「ああ、それでまた教わったのですね?」
虎白が大笑いした。
「そうじゃねぇよ! 斬は殴り込みに来たのよ。もちろん返り討ちにしてやったけどな」
「!」
「花岡」の凄まじさは知っている。
石神家が最高峰とは聞いていたが、「花岡」を難なく降すということか。
そこで一ヶ月ほど手ほどきを受け、幾つかの石神家の剣技も教わった。
その後も連城十五は何度か石神家へ赴き、親交を深めた。
戦うことに貪欲な十五は石神家の剣士たちに気に入られ、ほぼ自由に出入りするようになったようだ。
そうは言っても数年に一度だったが。
十五は防衛大学へ進み自衛隊の幹部候補として進んで行った。
特戦群に配属されるほどの優秀な成績で、やがて「裏鬼」に選抜された。
非正規戦闘集団である「裏鬼」に配属されれば戸籍は喪われ、「連城十五」という人間は消滅する。
その前にもう一度石神家を訪れた。
もうこれからは自由にあちこちへ行くことが出来なくなるためだ。
そういうことを知り、虎白が怒貪虎さんを呼び、連城十五を紹介した。
そして怒貪虎さんが日本中の武術を集大成した本人であることが明かされた。
怒貪虎さんの姿に、連城十五は大分驚いていたようだが。
「俺らの秘密なんだけどな。まあ、亡霊になら話してもいいかってよ」
「虎白さん、ありがとうございます! 怒貪虎さん、一つ手合わせをよろしいですか?」
「ケロケロ」
連城十五は怒貪虎さんと組み手をし、様々なアドバイスをもらった。
「ケロケロ」
「十五、怒貪虎さんは、お前にいずれ高虎の手伝いをして欲しいってさ」
「高虎?」
「ああ、俺らの次期当主だ。途轍もねぇ運命を背負ってる。まあ、今はただの死に掛けたガキだけどな。でも、俺らは高虎の下で強大な敵と戦うことになってんだ」
「その敵というのは?」
「まあ、まだな。でもそいつは世界を相手にして来る。お前もいずれ分かるだろうよ」
「そうですか。日本の敵なんですね」
「そうだ。世界は大きく変わる。俺らと一緒に戦ってくれ」
「分かりました。自分は亡霊になりますが、その時には必ず駆け参じます」
「よろしくな、じゃあ、それまでのおさらばだ」
「はい、お世話になりました!」
連城十五は、その時に一つの願いを口にした。
なぜ彼が虎白たちにそれを託したのかは分からない。
連城十五の中に、何かの予感でもあったのか。
それとも、石神家を信じたのか。
または自分の息子に戦う者としての道を願っていたのか。
「自分には別れた女房と息子がいます」
「おう、そうなのか」
「自分は呼んで頂ければ、必ず役に立ちます」
「まあ、期待しているよ」
「だからというわけじゃないんですが」
連城十五が口ごもった。
「なんだよ、なんでも言えよ」
「息子は女房が引き取って、自分のような戦いの人生から遠ざけたいと考えています」
「そうか」
「自分もそれでいいと思っています。女房は優しい女なので」
「ふーん」
「だけど、もしも、万一息子が戦う道に入ったとしたら」
「おう」
「ここで鍛え上げていただけませんか?」
「そんなこと! 当たり前だろう。お前の息子が来たいって言ったら、いつだって俺たちが相手してやる」
「ありがとうございます!」
「ケロケロ」
「本当ですか!」
「ケロケロ」
「はい! よろしくお願いします!」
連城十五は荷物を持って立ち上がった。
「じゃあな。いつかお前と息子が一緒に来るといいな」
「はい、でもまあ、それはないでしょう」
「そうか」
「でも、そんな日が来たらいいですね」
「そうだな!」
連城十五は山を降り、二度と虎白たちと会うことは無かった。
男たちの、約束だけが残った。
「連城流」の嫡男にして格闘技に凄まじい才能を有していることが分かっていた。
百家の人間が石神家へ赴くように予言し、それが両家に伝えられてすぐさま連城十五は石神家へ行くことになった。
連城家には伝えられてはいなかったが、百家が怒貪虎さんに予言を告げたそうだ。
そういう経緯だったので、石神家でも連城十五を歓迎した。
「十五、これはまたとない機会ぞ。あの石神家へ招かれるとはな!」
父・連城晴臣は喜び、十五に石神家のことを話した。
日本の武道家の中でも最高峰であり、どのような勢力も不可侵の家系であること。
その剣技は凄まじく、石神家の人間がその気になれば世界を平定することすら可能であること。
「父上、そのような家がありながら、どうして先の大戦では日本は敗北したのでしょうか?」
「石神家は政治に関わらない。まあ、剣の鍛錬以外には興味が無いのだ」
「そのような……でも、もしも日本がアメリカに支配されていたら」
「その時にはな、アメリカの最期よ。石神家に逆らおうものならば、敵は必ず粉砕される」
「しかし原子爆弾もありますぞ」
「そのようなもの! 打つ前に仕留めておるわ。「花岡家」は戦車を破壊するそうだ。しかし、石神家は機甲師団を壊滅出来る」
「そんな!」
「太平洋戦争で、盛岡にも爆撃機の編隊が飛んだそうだ。恐らくは石神家のことを知っておったのだろう。しかし、全てが一瞬で撃墜された。だから米軍も石神家には触れないようにした。あまりの出来事に、公式な記録にも残されなかった。GHQは石神家に戦後に賠償したそうじゃぞ」
「それほどですか……」
そうして連城十五は石神に向かった。
「お前が連城十五か」
「はい、よろしくお願いいたします!」
「おう、俺は当主代行の虎白ってんだ」
「はい、虎白さん!」
驚いたことに、石神家ではまず最初に「連城流」を教えられた。
しかも、父から教わる以上の高度な技まで伝授された。
「虎白さん、どうして「連城流」を知ってるんですか?」
「ああ、俺らはよ、強い武術は全部平らげてんだ。昔から全国を回って集めてる方がいてな」
「そうなのですか!」
「それらを習得するばかりじゃねぇ。そこからどうやって発展させるかまで考えているのよ。様々な流派の統合もしてる」
「凄いですね。それでは「花岡」もですか?」
「もちろんだ。一度あそこの今の当主が来たこともあるぜ」
「ああ、それでまた教わったのですね?」
虎白が大笑いした。
「そうじゃねぇよ! 斬は殴り込みに来たのよ。もちろん返り討ちにしてやったけどな」
「!」
「花岡」の凄まじさは知っている。
石神家が最高峰とは聞いていたが、「花岡」を難なく降すということか。
そこで一ヶ月ほど手ほどきを受け、幾つかの石神家の剣技も教わった。
その後も連城十五は何度か石神家へ赴き、親交を深めた。
戦うことに貪欲な十五は石神家の剣士たちに気に入られ、ほぼ自由に出入りするようになったようだ。
そうは言っても数年に一度だったが。
十五は防衛大学へ進み自衛隊の幹部候補として進んで行った。
特戦群に配属されるほどの優秀な成績で、やがて「裏鬼」に選抜された。
非正規戦闘集団である「裏鬼」に配属されれば戸籍は喪われ、「連城十五」という人間は消滅する。
その前にもう一度石神家を訪れた。
もうこれからは自由にあちこちへ行くことが出来なくなるためだ。
そういうことを知り、虎白が怒貪虎さんを呼び、連城十五を紹介した。
そして怒貪虎さんが日本中の武術を集大成した本人であることが明かされた。
怒貪虎さんの姿に、連城十五は大分驚いていたようだが。
「俺らの秘密なんだけどな。まあ、亡霊になら話してもいいかってよ」
「虎白さん、ありがとうございます! 怒貪虎さん、一つ手合わせをよろしいですか?」
「ケロケロ」
連城十五は怒貪虎さんと組み手をし、様々なアドバイスをもらった。
「ケロケロ」
「十五、怒貪虎さんは、お前にいずれ高虎の手伝いをして欲しいってさ」
「高虎?」
「ああ、俺らの次期当主だ。途轍もねぇ運命を背負ってる。まあ、今はただの死に掛けたガキだけどな。でも、俺らは高虎の下で強大な敵と戦うことになってんだ」
「その敵というのは?」
「まあ、まだな。でもそいつは世界を相手にして来る。お前もいずれ分かるだろうよ」
「そうですか。日本の敵なんですね」
「そうだ。世界は大きく変わる。俺らと一緒に戦ってくれ」
「分かりました。自分は亡霊になりますが、その時には必ず駆け参じます」
「よろしくな、じゃあ、それまでのおさらばだ」
「はい、お世話になりました!」
連城十五は、その時に一つの願いを口にした。
なぜ彼が虎白たちにそれを託したのかは分からない。
連城十五の中に、何かの予感でもあったのか。
それとも、石神家を信じたのか。
または自分の息子に戦う者としての道を願っていたのか。
「自分には別れた女房と息子がいます」
「おう、そうなのか」
「自分は呼んで頂ければ、必ず役に立ちます」
「まあ、期待しているよ」
「だからというわけじゃないんですが」
連城十五が口ごもった。
「なんだよ、なんでも言えよ」
「息子は女房が引き取って、自分のような戦いの人生から遠ざけたいと考えています」
「そうか」
「自分もそれでいいと思っています。女房は優しい女なので」
「ふーん」
「だけど、もしも、万一息子が戦う道に入ったとしたら」
「おう」
「ここで鍛え上げていただけませんか?」
「そんなこと! 当たり前だろう。お前の息子が来たいって言ったら、いつだって俺たちが相手してやる」
「ありがとうございます!」
「ケロケロ」
「本当ですか!」
「ケロケロ」
「はい! よろしくお願いします!」
連城十五は荷物を持って立ち上がった。
「じゃあな。いつかお前と息子が一緒に来るといいな」
「はい、でもまあ、それはないでしょう」
「そうか」
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男たちの、約束だけが残った。
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