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予言者 Ⅱ
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「「タイニー・タイド」はアメリカ人です。アメリカである組織に追われてロシアへ逃げました。「タイニー・タイド」という名は、実はその組織から付けられたものだと言っていました」
ユーコフ博士が驚くべき内容を口にした。
その組織とは!
「組織が付けた名前を今も自分で名乗っているのですか?」
「そうなのです。「タイニー・タイド」は、《予言》の能力の故にその組織に追われていたそうです。超能力者を根絶やしにするその組織が彼をコードネームでそう呼ぶようになったと」
「その組織というのは「ガンドッグ」ですか!」
「そういう名前だったと聞いています」
「なんてこった!」
「ガンドッグ」は以前は超能力者狩りをしていた。
いずれ現われる、世界を滅ぼす者の存在を殺すために、だ。
しかしそれが「業」であることを悟り、今は「ガンドッグ」は俺たちの仲間になっているのだが。
「「タイニー・タイド」がロシアへ逃れたのも、自分の予言のせいです。自分が「業」と接触し、「業」の中枢に加わることになること、そして自分が「業」と対立する者に役立つということ。その予言によって、「タイニー・タイド」は今も「業」の傍に仕えているのです」
「そんな人物が……」
「名前を変えないのは、「業」に信用されるためだそうです。自分を追い回しアメリカから逃げなければならなかった怨みを晴らしたいと「業」には話しています。超能力を持たない人間たちへの復讐だと。だから「タイニー・タイド」という名を名乗り、自分が復讐者であることを示したいと示しているのす」
「……」
俄かには信じられないことだったが、俺は以前からの疑問が氷解した気がした。
俺たちを危地に陥れながら、俺たちを強くしてきた何者かの存在。
それが「タイニー・タイド」だったのではないのか。
そしてそのことを俺に伝えるために、ユーコフ博士らを俺に救出させたのではないのか。
「「タイニー・タイド」からのメッセージです。一つは「カルマ」が数年後に《ニルヴァーナ》を完成させること」
「数年後ですか?」
「はい。「虎」の軍の攻撃によって、現在は研究が途絶えているのです。それでも、5年以内には完成すると「タイニー・タイド」は言っていました」
「そうですか」
俺たちの《ハイヴ》攻略などが功を奏しているのかもしれない。
様々な資源を取り上げていることも関係しているだろう。
「もう一つはキリール・イワノフという少年についてです」
「キリール・イワノフ?」
「はい。タイガーに激しい怨みを抱いている者です。その怨みの激しさが「カルマ」と結びつき、今では「カルマ」の《ニルヴァーナ》計画を支える頭脳となっています」
「そうなのですか」
「キリール・イワノフは、父親をタイガーに殺されたことで憎んでいます」
「俺を……」
覚えは幾らでもある。
これまでロシア軍人を大勢殺して来たし、俺たちを襲うための生贄として犠牲になった人たちも膨大にいる。
「キリール・イワノフはソユーズXX計画で、宇宙飛行士である父親が殺されたと聞かされています。宇宙ステーション「ズヴェダ」にドッキングし、その後でタイガーによって殺されたと」
「宇宙ステーション……あ! あの時か!」
「覚えがあるのですか?」
「あります。確かに俺が宇宙ステーションごと、妖魔を斬りました。そうか、あの時か……」
イリスに連れられ、「虎王」で宇宙ステーションを斬った。
「虎王」から伝わって来たが、宇宙ステーションの中には数体の凶悪な妖魔と合体した人間たちがいた。
宇宙空間での合体の実験であることも分かっていた。
あの時中にいた一人が、ライカンスロープとなったキリール・イワノフの父親だったのか。
キリール・イワノフは誘導されてはいるが、そのことが真実であることを悟った。
だから俺を強く恨んでいるのだろう。
「確かに俺は宇宙ステーションを破壊しました。事実です。中に妖魔を埋め込まれた者がいたためです。俺にはキリールに恨まれる事実が確かにある」
ユーコフ博士は微笑んで俺に言った。
「「タイニー・タイド」も分かっています。タイガーは人間ではなくなった者を斃したということを。元は「カルマ」が卑劣な手段でやったことです。もちろん、キリールには嘘の情報が伝えられたのでしょう。その後に「カルマ」に洗脳され、「虎」の軍、タイガーへの激しい憎悪になったのだそうです。「タイニー・タイド」は未来も過去も見えるそうですから、そういうことも分かっていました」
「そうなんですね。それで今はそのキリール・イワコフが中心となって《ニルヴァーナ》を開発していると」
「その通りです。妖魔を植え付けられ、頭脳を飛躍的に高度化した存在になったようです。彼がいなければ《ニルヴァーナ》は「カルマ」の思い通りのものが出来ないと」
「分かりました」
この情報は、俺に何らかの手段でキリール・イワノフを殺せということだろう。
「最後に、「タイニー・タイド」は自分はタイガーの味方であると」
「そうですか!」
「でも、最後まで「カルマ」の傍にいることでタイガーの力になると」
「いいえ、必ず救出します! どこにいようとも、必ず探し出して俺たちが!」
「そうではないのです。「タイニー・タイド」は自分が「カルマ」の傍にいることが必要なのだと言っていました。そのことで「虎」の軍を有利に導き、タイガーのために尽くせるのだと」
「……」
「それも彼の予言なのです。自分の役割を知り、最後までタイガーと共に戦うのだと言っていました。タイガーこそが人類を、そして宇宙を救う唯一の存在なのだと言っていました。自分はそのために喜んで捧げるのだと」
「そんな……」
「タイニー・タイド」は自分の命を懸けている。
「最後」ということは、自分の死を知っているということだ。
「もういいんだ。もう十分にやってくれた。だから俺は……」
「ダメです。「タイニー・タイド」はこうも言っていました。自分を救いに来た場合には「カルマ」に取り込まれると。今、それが為されないのは、「カルマ」が自分を信頼しているためなのだそうです。もしも自分が「カルマ」に取り込まれれば、自分の「予言」の力を「カルマ」が得ることになってしまう。だから絶対に来るなと言っていました」
「……」
俺は諦めるつもりは無かった。
だが、今迂闊に動けば、必ずそういうことになるのだろう。
「タイニー・タイド」は明確に物事の流れを掴んでいると感じた。
「分かりました。貴重なお話をありがとうございました」
「いいえ、御伝え出来て良かった」
「今後はあなた方を必ず護ります。もうすぐ退院出来ますが、何かご希望はありますか?」
「是非「虎」の軍で働かせて下さい。他の者もそう申しております」
「大歓迎です。退院されたら、いろいろ話して行きましょう」
「よろしくお願いします」
ユーコフ博士が部屋を出て行き、俺とターナー大将は「ヘッジホッグ」に戻った。
人類の運命、まして宇宙のことなど俺の知ったことではない。
でも、俺は「タイニー・タイド」を救いたかった。
地獄に自ら居つき、最悪の悪魔の傍にいようとする「タイニー・タイド」。
「業」の信を得るために、外道の行ないもしなければならない彼の涙を思った。
俺たちは「涙」のために戦っているのだ。
どうして「タイニー・タイド」をそのままにしておけるものか。
ユーコフ博士が驚くべき内容を口にした。
その組織とは!
「組織が付けた名前を今も自分で名乗っているのですか?」
「そうなのです。「タイニー・タイド」は、《予言》の能力の故にその組織に追われていたそうです。超能力者を根絶やしにするその組織が彼をコードネームでそう呼ぶようになったと」
「その組織というのは「ガンドッグ」ですか!」
「そういう名前だったと聞いています」
「なんてこった!」
「ガンドッグ」は以前は超能力者狩りをしていた。
いずれ現われる、世界を滅ぼす者の存在を殺すために、だ。
しかしそれが「業」であることを悟り、今は「ガンドッグ」は俺たちの仲間になっているのだが。
「「タイニー・タイド」がロシアへ逃れたのも、自分の予言のせいです。自分が「業」と接触し、「業」の中枢に加わることになること、そして自分が「業」と対立する者に役立つということ。その予言によって、「タイニー・タイド」は今も「業」の傍に仕えているのです」
「そんな人物が……」
「名前を変えないのは、「業」に信用されるためだそうです。自分を追い回しアメリカから逃げなければならなかった怨みを晴らしたいと「業」には話しています。超能力を持たない人間たちへの復讐だと。だから「タイニー・タイド」という名を名乗り、自分が復讐者であることを示したいと示しているのす」
「……」
俄かには信じられないことだったが、俺は以前からの疑問が氷解した気がした。
俺たちを危地に陥れながら、俺たちを強くしてきた何者かの存在。
それが「タイニー・タイド」だったのではないのか。
そしてそのことを俺に伝えるために、ユーコフ博士らを俺に救出させたのではないのか。
「「タイニー・タイド」からのメッセージです。一つは「カルマ」が数年後に《ニルヴァーナ》を完成させること」
「数年後ですか?」
「はい。「虎」の軍の攻撃によって、現在は研究が途絶えているのです。それでも、5年以内には完成すると「タイニー・タイド」は言っていました」
「そうですか」
俺たちの《ハイヴ》攻略などが功を奏しているのかもしれない。
様々な資源を取り上げていることも関係しているだろう。
「もう一つはキリール・イワノフという少年についてです」
「キリール・イワノフ?」
「はい。タイガーに激しい怨みを抱いている者です。その怨みの激しさが「カルマ」と結びつき、今では「カルマ」の《ニルヴァーナ》計画を支える頭脳となっています」
「そうなのですか」
「キリール・イワノフは、父親をタイガーに殺されたことで憎んでいます」
「俺を……」
覚えは幾らでもある。
これまでロシア軍人を大勢殺して来たし、俺たちを襲うための生贄として犠牲になった人たちも膨大にいる。
「キリール・イワノフはソユーズXX計画で、宇宙飛行士である父親が殺されたと聞かされています。宇宙ステーション「ズヴェダ」にドッキングし、その後でタイガーによって殺されたと」
「宇宙ステーション……あ! あの時か!」
「覚えがあるのですか?」
「あります。確かに俺が宇宙ステーションごと、妖魔を斬りました。そうか、あの時か……」
イリスに連れられ、「虎王」で宇宙ステーションを斬った。
「虎王」から伝わって来たが、宇宙ステーションの中には数体の凶悪な妖魔と合体した人間たちがいた。
宇宙空間での合体の実験であることも分かっていた。
あの時中にいた一人が、ライカンスロープとなったキリール・イワノフの父親だったのか。
キリール・イワノフは誘導されてはいるが、そのことが真実であることを悟った。
だから俺を強く恨んでいるのだろう。
「確かに俺は宇宙ステーションを破壊しました。事実です。中に妖魔を埋め込まれた者がいたためです。俺にはキリールに恨まれる事実が確かにある」
ユーコフ博士は微笑んで俺に言った。
「「タイニー・タイド」も分かっています。タイガーは人間ではなくなった者を斃したということを。元は「カルマ」が卑劣な手段でやったことです。もちろん、キリールには嘘の情報が伝えられたのでしょう。その後に「カルマ」に洗脳され、「虎」の軍、タイガーへの激しい憎悪になったのだそうです。「タイニー・タイド」は未来も過去も見えるそうですから、そういうことも分かっていました」
「そうなんですね。それで今はそのキリール・イワコフが中心となって《ニルヴァーナ》を開発していると」
「その通りです。妖魔を植え付けられ、頭脳を飛躍的に高度化した存在になったようです。彼がいなければ《ニルヴァーナ》は「カルマ」の思い通りのものが出来ないと」
「分かりました」
この情報は、俺に何らかの手段でキリール・イワノフを殺せということだろう。
「最後に、「タイニー・タイド」は自分はタイガーの味方であると」
「そうですか!」
「でも、最後まで「カルマ」の傍にいることでタイガーの力になると」
「いいえ、必ず救出します! どこにいようとも、必ず探し出して俺たちが!」
「そうではないのです。「タイニー・タイド」は自分が「カルマ」の傍にいることが必要なのだと言っていました。そのことで「虎」の軍を有利に導き、タイガーのために尽くせるのだと」
「……」
「それも彼の予言なのです。自分の役割を知り、最後までタイガーと共に戦うのだと言っていました。タイガーこそが人類を、そして宇宙を救う唯一の存在なのだと言っていました。自分はそのために喜んで捧げるのだと」
「そんな……」
「タイニー・タイド」は自分の命を懸けている。
「最後」ということは、自分の死を知っているということだ。
「もういいんだ。もう十分にやってくれた。だから俺は……」
「ダメです。「タイニー・タイド」はこうも言っていました。自分を救いに来た場合には「カルマ」に取り込まれると。今、それが為されないのは、「カルマ」が自分を信頼しているためなのだそうです。もしも自分が「カルマ」に取り込まれれば、自分の「予言」の力を「カルマ」が得ることになってしまう。だから絶対に来るなと言っていました」
「……」
俺は諦めるつもりは無かった。
だが、今迂闊に動けば、必ずそういうことになるのだろう。
「タイニー・タイド」は明確に物事の流れを掴んでいると感じた。
「分かりました。貴重なお話をありがとうございました」
「いいえ、御伝え出来て良かった」
「今後はあなた方を必ず護ります。もうすぐ退院出来ますが、何かご希望はありますか?」
「是非「虎」の軍で働かせて下さい。他の者もそう申しております」
「大歓迎です。退院されたら、いろいろ話して行きましょう」
「よろしくお願いします」
ユーコフ博士が部屋を出て行き、俺とターナー大将は「ヘッジホッグ」に戻った。
人類の運命、まして宇宙のことなど俺の知ったことではない。
でも、俺は「タイニー・タイド」を救いたかった。
地獄に自ら居つき、最悪の悪魔の傍にいようとする「タイニー・タイド」。
「業」の信を得るために、外道の行ないもしなければならない彼の涙を思った。
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