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《轟霊号》初出撃 XⅤ
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ジャンたちと男の人の凄まじい戦いを見ていた。
男の人は「イシガミ」と言う人だと途中で教えてもらった。
僕たちに食事を運んで来てくれた綺麗な東洋人だ。
「リン」という名前だと教えてもらった。
長い黒髪で目が大きく、本当に綺麗な人だった。
僕たちとも白人とも違う見たことのない顔立ちだったが、優しい人であることは一目で分かった。
背の高い人で、僕たちに微笑みながら食事を配ってくれ、説明してくれた。
テーブルに食事が並んだが、僕たちは映像から目が離せなかった。
イシガミさんの全身にたくさんの光の輪が出来て、そこから無数の巨大な光の奔流が伸びていく。
それが怪物たちの群れにぶつかって、吹き飛ばしているのだ。
それと同時にイシガミさんが美しく舞っていて、両手に握った剣を薙ぐ。
そうするとまた巨大なエネルギーが放たれて怪物たちが消えていくのだ。
怪物たちもイシガミさんを攻撃するが、一切を跳ね除けている。
イシガミさんの傍にはほんの少しも近づけない。
「石神様が「虎」の軍を創ったのよ」
「そうなんですか!」
「虎」の軍についても少し教わった。
世界を滅ぼそうとする「カルマ」と戦うために創設された軍隊ということだった。
これまでも何度も激しい戦争をして、今も世界を護っている。
このソーメリアに来たのも、この国が「カルマ」の軍勢に支配されているためだった。
「さあ、食事が冷めないうちに食べて」
リンが笑顔で言ったので、やっと僕たちもテーブルに着いて食事を始めた。
おいしい!
でもまた食事をしながら画面に目が行く。
リンと名乗ったその美しい女性は、僕たちが食事をしている間にまたいろいろ話してくれた、
画面を見てはいるが、食事のあまりの美味しさに徐々に夢中になっていった。
こんなに美味しいものは食べたことが無い。
食事は鳥肉を焼いたものだったけど、信じられないほどに美味しかった。
みんなやがて画面を見ずに食べていく。
誰かが聞くと、鳥肉の香草焼きというもので、あのイシガミさんが大好きなものだそうだ。
それを聞いてますます美味しくなった。
「リンも戦うの?」
リンは腰に大きな剣のようなものを提げていた。
細身の彼女には不釣り合いな大きな武器だ。
「ええ、必要な時には。でも私は救助されて来た人たちのお世話をするのが本来の仕事なの」
「そうなんだ。ありがとうございます!」
僕たちは全員でお礼を言った。
リンが嬉しそうに笑った。
「あなたは食欲がないの?」
リンがジャンに話し掛けていた。
僕とは別なテーブルに座っていたジャンは、見るとほとんど食事に口を付けていなかった。
こんなに美味しいものなのにおかしい。
「ジャン、具合が悪いのか?」
僕は先ほどの戦闘で負傷していたのかと思った。
慌ててジャンの所へ駆け寄ろうとした。
でも、ここに連れて来られて全身を確認していたはずだ。
助けられてすぐに怪我のことを聞かれたのだ。
その時にはジャンも元気そうだった。
負傷していたのならば、申告していたはずだ。
「ジャン?」
ジャンがテーブルに突っ伏して呻いた、
「ジャン!」
リンがジャンの傍に行き、様子を見ようとした。
リンの身体が両断された!
リンの下半身が近付いていた僕の足元へ飛んで来た。
警報が鳴った。
ジャンの腕が大きな鎌のようになっていた。
「みんな、離れろ!」
僕が叫び、ジャンからみんなが離れる。
ジャンの身体が膨れ上がっていく。
ジャンがあの「怪物」になったのをみんな分かっている。
ウゴォ……ガァウガァァァ……バグァグゥ……
今、僕の名を読んだか!
「ジャン! しっかりしろ!」
バァガァグゥゥ……
ジャンが僕の方を見て呻いている。
やっぱり僕を呼んでいるんだ!
「私の「カサンドラ」を取って! 私に寄越して!」
胴を両断されたリンが僕に叫んだ。
良かった、まだ生きている!
「カサンドラ」というのは、腰に提げていたあの武器のことだろうと分かった。
でも、リンは到底戦える状態ではない。
多分、自分が武器を持つことでジャンの気を引こうとしているのだ。
「早く……もう動けなくなる……」
リンが苦しそうにしていた。
僕は「カサンドラ」をリンの下半身から引き抜いて構えた。
「無理! それは私にしか扱えない……」
「僕が戦う!」
「……」
リンが黙り込んだ。
ジャンは呻きながら頭を抱え、床に膝を折っている。
暴れたい衝動を必死に押さえているのが分かる。
「分かった、今認証コードを送った。〈28963〉、口に出して言って!」
「28963!」
僕の手の中で「カサンドラ」が起動し、一度小さく震えた。
「トリガー……を引け、ば……撃て……る」
そう言ってからリンは意識を喪った。
僕はトリガーの位置を確認し、ジャンに構えた。
ジャンは苦しそうにしていたが、立ち上がって来た。
マ、ガァグゥ……コロジデグレェ……
「!」
ジャンが大きな鎌を構えて僕に背を向けた。
バァガァァァゲゥゥェェ……
僕はトリガーを絞った。
反動は無く、光の珠がジャンの身体に突き刺さった。
ジャンの身体が激しく燃える。
ジャンは苦しそうに身を捩った。
僕は3発撃ち、ジャンは倒れて燃えて小さくなって行った。
すぐに部屋に何体ものロボットが入って来た。
一体がゆっくりと僕に近づいて来た。
「「ライカンスロープ」は沈黙しました」
「……」
「武器を渡して下さい」
僕はジャンを殺した「カサンドラ」をロボットに渡した。
子どもたちは無事だった。
リンを見た。
「!」
先ほどは夢中で気付かなかったが、リンの切断された胴から機械が見えた!
「リンは!」
「大丈夫です。今は機能停止していますが、ちゃんと治りますよ」
ロボットの顔は鏡のようになっていて、表情は無い。
でも微笑んでいる感じがした。
「申し訳ありません。みなさんは検査を受けて頂きます」
ジャンが怪物になったのだ。
当然検査は必要だろう。
僕たちは一人ずつ小部屋に入れられた。
ジャン……
一体何があったんだ……
僕たちは見たことも無い機械の中に入れられ、血を抜かれたりした。
あのイシガミさんの戦いはどうなっただろうか。
でも、きっと勝つに違いない。
あの人が負けるわけがない。
僕はそう信じていた。
男の人は「イシガミ」と言う人だと途中で教えてもらった。
僕たちに食事を運んで来てくれた綺麗な東洋人だ。
「リン」という名前だと教えてもらった。
長い黒髪で目が大きく、本当に綺麗な人だった。
僕たちとも白人とも違う見たことのない顔立ちだったが、優しい人であることは一目で分かった。
背の高い人で、僕たちに微笑みながら食事を配ってくれ、説明してくれた。
テーブルに食事が並んだが、僕たちは映像から目が離せなかった。
イシガミさんの全身にたくさんの光の輪が出来て、そこから無数の巨大な光の奔流が伸びていく。
それが怪物たちの群れにぶつかって、吹き飛ばしているのだ。
それと同時にイシガミさんが美しく舞っていて、両手に握った剣を薙ぐ。
そうするとまた巨大なエネルギーが放たれて怪物たちが消えていくのだ。
怪物たちもイシガミさんを攻撃するが、一切を跳ね除けている。
イシガミさんの傍にはほんの少しも近づけない。
「石神様が「虎」の軍を創ったのよ」
「そうなんですか!」
「虎」の軍についても少し教わった。
世界を滅ぼそうとする「カルマ」と戦うために創設された軍隊ということだった。
これまでも何度も激しい戦争をして、今も世界を護っている。
このソーメリアに来たのも、この国が「カルマ」の軍勢に支配されているためだった。
「さあ、食事が冷めないうちに食べて」
リンが笑顔で言ったので、やっと僕たちもテーブルに着いて食事を始めた。
おいしい!
でもまた食事をしながら画面に目が行く。
リンと名乗ったその美しい女性は、僕たちが食事をしている間にまたいろいろ話してくれた、
画面を見てはいるが、食事のあまりの美味しさに徐々に夢中になっていった。
こんなに美味しいものは食べたことが無い。
食事は鳥肉を焼いたものだったけど、信じられないほどに美味しかった。
みんなやがて画面を見ずに食べていく。
誰かが聞くと、鳥肉の香草焼きというもので、あのイシガミさんが大好きなものだそうだ。
それを聞いてますます美味しくなった。
「リンも戦うの?」
リンは腰に大きな剣のようなものを提げていた。
細身の彼女には不釣り合いな大きな武器だ。
「ええ、必要な時には。でも私は救助されて来た人たちのお世話をするのが本来の仕事なの」
「そうなんだ。ありがとうございます!」
僕たちは全員でお礼を言った。
リンが嬉しそうに笑った。
「あなたは食欲がないの?」
リンがジャンに話し掛けていた。
僕とは別なテーブルに座っていたジャンは、見るとほとんど食事に口を付けていなかった。
こんなに美味しいものなのにおかしい。
「ジャン、具合が悪いのか?」
僕は先ほどの戦闘で負傷していたのかと思った。
慌ててジャンの所へ駆け寄ろうとした。
でも、ここに連れて来られて全身を確認していたはずだ。
助けられてすぐに怪我のことを聞かれたのだ。
その時にはジャンも元気そうだった。
負傷していたのならば、申告していたはずだ。
「ジャン?」
ジャンがテーブルに突っ伏して呻いた、
「ジャン!」
リンがジャンの傍に行き、様子を見ようとした。
リンの身体が両断された!
リンの下半身が近付いていた僕の足元へ飛んで来た。
警報が鳴った。
ジャンの腕が大きな鎌のようになっていた。
「みんな、離れろ!」
僕が叫び、ジャンからみんなが離れる。
ジャンの身体が膨れ上がっていく。
ジャンがあの「怪物」になったのをみんな分かっている。
ウゴォ……ガァウガァァァ……バグァグゥ……
今、僕の名を読んだか!
「ジャン! しっかりしろ!」
バァガァグゥゥ……
ジャンが僕の方を見て呻いている。
やっぱり僕を呼んでいるんだ!
「私の「カサンドラ」を取って! 私に寄越して!」
胴を両断されたリンが僕に叫んだ。
良かった、まだ生きている!
「カサンドラ」というのは、腰に提げていたあの武器のことだろうと分かった。
でも、リンは到底戦える状態ではない。
多分、自分が武器を持つことでジャンの気を引こうとしているのだ。
「早く……もう動けなくなる……」
リンが苦しそうにしていた。
僕は「カサンドラ」をリンの下半身から引き抜いて構えた。
「無理! それは私にしか扱えない……」
「僕が戦う!」
「……」
リンが黙り込んだ。
ジャンは呻きながら頭を抱え、床に膝を折っている。
暴れたい衝動を必死に押さえているのが分かる。
「分かった、今認証コードを送った。〈28963〉、口に出して言って!」
「28963!」
僕の手の中で「カサンドラ」が起動し、一度小さく震えた。
「トリガー……を引け、ば……撃て……る」
そう言ってからリンは意識を喪った。
僕はトリガーの位置を確認し、ジャンに構えた。
ジャンは苦しそうにしていたが、立ち上がって来た。
マ、ガァグゥ……コロジデグレェ……
「!」
ジャンが大きな鎌を構えて僕に背を向けた。
バァガァァァゲゥゥェェ……
僕はトリガーを絞った。
反動は無く、光の珠がジャンの身体に突き刺さった。
ジャンの身体が激しく燃える。
ジャンは苦しそうに身を捩った。
僕は3発撃ち、ジャンは倒れて燃えて小さくなって行った。
すぐに部屋に何体ものロボットが入って来た。
一体がゆっくりと僕に近づいて来た。
「「ライカンスロープ」は沈黙しました」
「……」
「武器を渡して下さい」
僕はジャンを殺した「カサンドラ」をロボットに渡した。
子どもたちは無事だった。
リンを見た。
「!」
先ほどは夢中で気付かなかったが、リンの切断された胴から機械が見えた!
「リンは!」
「大丈夫です。今は機能停止していますが、ちゃんと治りますよ」
ロボットの顔は鏡のようになっていて、表情は無い。
でも微笑んでいる感じがした。
「申し訳ありません。みなさんは検査を受けて頂きます」
ジャンが怪物になったのだ。
当然検査は必要だろう。
僕たちは一人ずつ小部屋に入れられた。
ジャン……
一体何があったんだ……
僕たちは見たことも無い機械の中に入れられ、血を抜かれたりした。
あのイシガミさんの戦いはどうなっただろうか。
でも、きっと勝つに違いない。
あの人が負けるわけがない。
僕はそう信じていた。
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