富豪外科医は、モテモテだが結婚しない?

青夜

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御堂 大統領選 X

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 《アイオーン》が俺が命じたことを理解し、即座に闇バイトの関係者を列挙した。
 以前にネットの犯罪検挙を行なったので、《アイオーン》も一定のデータセットを組み上げていたことも大きいだろう。
 怪しい連中は幾らでもいたが、見逃していたものも多い。
 要は御堂へのデマの東征だったので、闇バイトの検挙ではなかったのだ。
 あいつらは今はスマホに特殊な通信アプリを入れ、サーバー内に記録が残らないようにしている。
 しかし、サーバー内の記録を復元して追跡する超量子コンピューター《アイオーン》の手に掛かれば無駄だ。
 《アイオーン》はハードディスクの記録を再構築し、闇バイトの通信記録を復元し特定していく。
 またその人間の行動パターンを類推し、そこカら外れた行動からも推測していく。
 学生であれば、普通は近づかない場所、学校や遊びに関係の無い移動などからも、特定して行くのだ。
 人減の行動は意外とパターン化している。
 交友関係までスマホから洗い出せるので、《アイオーン》は怪しい動きをする連中をピックアップしていくのだ。
 同時に町中の監視カメラ映像からも不審な行動を割り出して行く。
 通常ならばとても出来ない大量の情報を集め関連させ類推する超量子コンピューターならではの解析だ。

 早乙女に連絡し、警視庁総動員で確保に急いだ。
 125か所、総勢498人に絞り込んだ。
 闇バイトは旺盛だ。
 海外にいる連中も同時に捕らえるために、アラスカのソルジャーを向かわせる。
 でも、多分日本国内で十分だろうと俺は考えた。
 中国からの密輸であり、奴らは必ず国内の連中だけで処理する。
 恐らく、中枢は「ボルーチ・バロータ」であり、関わった連中は全員処分される。
 周の手は離れているが、そこから先は「ボルーチ・バロータ」か外道会の連中だ。 
 あいつらが核爆弾の運搬に関わった奴等を生かしておくわけがない。
 だから闇バイトの連中の中でも小規模の組織が使われただろうことが俺の予想だ。
 もちろん他にも外道会自身が運ぶか、宅急便などを利用することも考えられる。
 だが俺には確信があった。
 あいつらは運搬が終わった時点、つまり安田講堂の近くまで行った時点で起爆させる。
 待っているほどに俺たちに発見される危険性が高まるのだ。
 そういうことで、間違いなく運搬する人間は中身を知らない。
 仲間が運ぶにしても、そいつは必ず死ぬ。
 なり手がいないだろう。
 宅急便などにしても、ポストに投函させられるサイズではない。
 置き配ということも考えられるが。
 しかし荒っぽい扱いが万一あれば、運搬途中で爆発することもあり得る。
 それに宅急便には稀に「誤配」の可能性だってある。
 確実な方法は、知らない人間に運ばせることだ。

 俺は連絡が入る間、何度も御堂を攫って移動しようと考えた。
 あいつは絶対に死なせられない。
 亜紀ちゃんにでも言えば、すぐに御堂を確保して飛べる。
 何度もそうしようと考えた。
 だが、その度に御堂の俺を信頼する顔が浮かんだ。
 あのやろう!
 またしても俺をこんなに悩ませやがって!

 蓮花の研究所からの応援が来て、デュールゲリエがこの半径2キロ地点での捜索を終えたと言って来た。
 流石に機動力が高い。
 車両や徒歩などの人間を片端から止めて、瞬時にX線などで荷物を確認してまた移動させた。
 今は念のために建築物の中まで捜索し始めている。
 俺は半径2キロが無事なことに一安心した。
 まだ油断は出来ないが、恐らくはこれから入って来る奴だ。

 豪虎さんが俺の傍に来た。

 「高虎、まだ嫌な感じは消えねぇな」
 「はい、そうですね」

 取り敢えずの危機は遠ざけたと思うが、まだだ。

 「おい、敵はどうして事前に設置しなかったんだろうな? 開場と共に爆発させりゃ、一番手っ取り早いだろう」
 「まあ、事前に徹底的に爆発物は調べましたからね、それにちょっとした案も」
 「お前、威力はどう見ていた?」
 「一応は科爆弾も。可能性は低いと見ていましたけどね。でもBC兵器もありますから。「業」は油断できない相手ですからね」
 「じゃあお前はこの会場が狙われると確信していたんだな?」
 「そうですね。俺が敵ならば絶好の機会ですから。御堂と一緒に俺まで殺せる。でも一番警戒しているのはやはり多重結界での攻撃ですよ」
 「みんな出払っちまったけどな!」
 「豪虎さんたちがいれば大丈夫ですよ」
 「お前もいるしな!」

 二人で笑った。

 「ところでよ、さっき言ってた「ちょっとした案」ってなんなんだよ?」
 「ああ、大したことじゃないんです。参加者への通知や公表した文面に「警備の都合上、場所と日時を変更する場合があります」って入れたんですよ」
 「なるほどな!」
 「はい。そうすれば事前に時限式のものは仕掛けられませんし、仕掛けるタイミングも難しくなるでしょ?」
 「ワハハハハハハハ!」

 徹底的に爆発物などを調べたと言ったが、はやり限界がある。
 豪快に笑っていた豪虎さんが、不意に真顔に戻って俺に言った。

 「そうだ、虎白と話したいことがあったんだけどよ、さっきから携帯が使えねぇんだ」
 「ああすいません。携帯の中継を全てシャットダウンしたんです。今は携帯電話で爆破する方法もあるんで」
 「そうなのか、じゃあしょうがねぇな」
 「あの、「皇紀通信」を使いますか?」
 「ああ、あれか。でもあれって使い方が難しいんだよなぁ」
 「ソルジャーに言って下さい。虎白さんに繋ぎますから」
 「そうか、じゃあ頼むわ」
 「でも何を話すんです?」
 「世間話だよ。しばらく顔を見てねぇからな」
 「そうですか」

 豪虎さんが離れて行った。
 世間話などのはずがない。
 豪虎さんは、万一の場合に備えて、虎白さんに応援の手配を頼もうとしているのだろう。
 ここの襲撃もそうだが、他の場所が狙われる可能性もある。
 そして俺は携帯電話についてちょっと考えていた。
 この携帯が繋がらない状況を敵はどう受け止めるのか。
 すぐに起爆するだろうか?
 いや、それは無いだろう。
 完全に計画が失敗したと悟ればそれもあり得るが、状況が分からないうちはまだ起爆させない。
 では、どのようにそれを判断するのか。

 「妖魔を護衛につけているか!」

 多分、そうだろう。
 この計画の中枢は間違いなく「ボルーチ・バロータ」だ。
 ならば妖魔を扱えるに違いない。
 運搬者のガードと共に、状況を報告する奴。

 俺はさらに考えていた。
 この時代に携帯電話が通じなくなる状況。
 それは現代人にとって強烈な不安だ。
 特に若い人間は物心ついた時から携帯電話が当たり前になっている。
 それが途絶えた時、世界から孤立するほどの不安に満たされるだろう。
 現代人に密接に繋がった携帯電話……

 俺はその時、ある捜査法を思い付いた。

 「《アイオーン》! 今から命じることをやってくれ!」

 俺は話し始めた。
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