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《オペレーション・チャイナドール》 XⅦ
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作戦を中断しての休養中に、俺は今回踏ん張ってくれた全部隊を慰労して回った。
真っ先にストライカー大佐の大隊を訪問した。
ストライカーの大隊の犠牲者が最も多かったためだ。
俺はストライカーに作戦任務を別な部隊に交代しようと言ったが、ストライカーから断られた。
「一旦引き受けた任務は、最後までやらせて下さい」
「そうか」
「死んで行った仲間も、そう思っているはずです」
「分かった。デュールゲリエを増員しておこう」
ストライカーが明るく笑っていた。
まあ、大隊に死傷者が出たとはいえ、作戦行動に支障を来すほどではない。
俺が心配したのは、これほどの凄まじい戦闘での疲労だ。
ストライカーたちはもう十分に戦ってくれた。
だが、彼らはやりたいと言ってくれる。
「馬込中尉の「ハイドラ」に助けられました」
「ああ、あいつらか」
ストライカーの言う「助けられた」とは、自分たちのことではなく、任務のことだろう。
俺も馬込たちが漏れ出た妖魔を全て駆逐したと報告を受けている。
あの100人の小部隊で、よくぞ持ち堪えたものだ。
「「ハイドラ」は最高です! 酒をおごる約束をしました」
「あいつらは大食いだぞ。じゃあ今回の手当てはちょっと多めにしておくな」
「ワハハハハ! ありがとうございます!」
ストライカーが大笑いしていた。
仲間を喪った部隊長だが、戦場で散ることは俺たちの宿命だ。
話に出たので、「ハイドラ」を訪問した。
ほとんどがヘバっていたが、馬込と葉佩兄妹は元気だった。
「ストライカー大佐がお前たちを褒めて感謝してたぞ」
「いいえ、自分らなんか必死だっただけで」
「いや、大したものだ。ああいう戦場では、集中と弛緩のタイミングが難しい。いつ終わるとも分からず、いつ自分たちの出番があるのかも分からない。それに戦闘に規模もな。お前たちは見事にやり切った。本当に素晴らしいぞ」
「そうですかね!」
馬込が調子に乗ったかのように笑った。
こいつは本物の戦士になった。
俺が今言ったことは本当に難しい。
休んでいい時間が分からないのだ。
かといってずっと緊張していては長い時間は戦えない。
大部隊であれば交代で休めるが、こいつらはたったの100人だ。
あの状況下では常に備えていなければならなかった。
それを馬込たちはこなした。
まったくもって素晴らしい。
「「タイガー」、本当に終わって良かったです。最後の「タイガー」の一発は全員で感動してました」
「そうか。敵にまだ見せたくは無かったんだけどな」
「自分たちのためですね」
「俺が限界だったんだよ」
「ワハハハハハハハ!」
六花たちにも会いに行った。
多少の疲労は残っているが、全員が元気そうだった。
また、みんなが六花の周りに集まって騒いでいる。
こいつらは六花がいれば元気になる連中だ。
「よく持ち堪えてくれたな」
「トラ、必死だった。でもやるって決めてただけだった」
「ああ、お前たちはそうだよな。本当に御苦労だった。もしも作戦部隊を交代したければ……」」
「トラ、必要無いよ。出来るだけ私たちで生存者を救って行きたい。私たちに任せて」
「おう、そうか。じゃあ宜しく頼むな」
「うん!」
「紅六花」の中で最も疲労の激しいのはカリンだった。
まだベッドから起き上がれない。
俺が六花と部屋に行くと、慌てて起き上がろうとした。
「いいよ、寝ていろ。お前、大活躍だったそうだな」
「いいえ、総長ほどでは!」
「お前は見事な特攻隊長だ。俺とおんなじだな」
「石神さん!」
カリンがいきなり大泣きする。
「おい!」
「私、「ルート20」の石神さんに憧れてました!」
「なんだって?」
「『虎は孤高に』を見て! いつか自分もあんな風になりたいって」
「暴走族だろう?」
「いいえ、自分の憧れです! だから今回も頑張って……」
「そうかよ、ああ、じゃあお前の「Ωコンバットスーツ」は赤にしよう」
「本当ですかぁ!」
カリンが涙を拭いて大喜びだった。
「おい、これからはこいつを「アカリン」って呼んでやれ」
「アハハハハハハハハ!」
六花が大笑いした。
カリンは興奮したままで、もう俺の声は聞こえていなかった。
御影の所も訪問した。
死者と負傷者はストライカーの大隊に次いで多かった。
「御影、お前のお陰でなんとかなったぞ」
「いや、想像以上でした」
「そうだな。まさか23垓もいたとはなぁ」
「はい」
「ところでお前、「垓」って知ってる?」
「……」
「何で黙ってんだよ!」
「あの、すいません。とっても多いってことは……」
「ワハハハハハハハハ!」
えーと、一体何人が俺の言った数を理解してたんだろう。
こいつら、ほとんどが知らないで必死に戦ってたのか。
俺は「億」から教えてやった。
「すいません、やっぱり自分には……」
「ワハハハハハハハハ!」
副隊長の伊庭が俺に言った。
「石神さん、自分は知ってました!」
「おい、いいよ、カッコつけなくても」
「いいえ、本当に!」
「後出しジャンケンは無様だぞ」
「!」
伊庭は興奮して「那由他(なゆた)」までの数を口にした。
俺が笑って何も言わないと、伊庭が頬を膨らませて御影に本当なのだと説明していた。
桜たちの所へも行った。
「よう、お前らヘバったんだって?」
「すいません、石神さん!」
桜たちの半数は疲労で倒れ、「トラキリー」に搬送された。
「なんだよ、いつも「戦場で死にてぇ」なんて言ってたのによ」
「不甲斐なく、申し訳……」
俺は桜の肩を叩いた。
「冗談だよ。よく踏ん張ったな。お前らは最もきつい戦闘を経験した」
「いや、自分らは……」
言い掛けた桜を制し、話を続けた。
「戦場で死ぬのは簡単だ。だがな、俺たちは兵隊だ。必ず成し遂げなければならん任務がある」
「はい」
「最も厳しい戦場は、想定外の敵の強さの前で何とか踏ん張ることだ。自分たちがやるしかねぇ。その心だけで何とか戦い勝利することだ。お前たちはそういう戦場を経験した。これからに期待しているぞ」
「石神さん!」
全員が俺に敬礼した。
俺も敬礼を返し、我當会から編入された30人の前に行った。
「どうだよ、ヤクザの方が楽で良かっただろう?」
「アハハハハハハ! 確かに。でもこっちの方が遣り甲斐がありますぜ」
「そうかよ、でも我當たちはあっちで楽しくやってんぞ?」
「自分らも楽しませてもらってます。こっちが最高です」
「そうか、今後も頼むな」
「はい!」
どの部隊も疲労はしていたが、潰れてはいなかった。
あの厳しい戦場を乗り越え、尚も戦う心がある。
俺は心の中で頭を下げた。
ありがたい連中だ。
さて、あの人らの所へ行くかぁ。
真っ先にストライカー大佐の大隊を訪問した。
ストライカーの大隊の犠牲者が最も多かったためだ。
俺はストライカーに作戦任務を別な部隊に交代しようと言ったが、ストライカーから断られた。
「一旦引き受けた任務は、最後までやらせて下さい」
「そうか」
「死んで行った仲間も、そう思っているはずです」
「分かった。デュールゲリエを増員しておこう」
ストライカーが明るく笑っていた。
まあ、大隊に死傷者が出たとはいえ、作戦行動に支障を来すほどではない。
俺が心配したのは、これほどの凄まじい戦闘での疲労だ。
ストライカーたちはもう十分に戦ってくれた。
だが、彼らはやりたいと言ってくれる。
「馬込中尉の「ハイドラ」に助けられました」
「ああ、あいつらか」
ストライカーの言う「助けられた」とは、自分たちのことではなく、任務のことだろう。
俺も馬込たちが漏れ出た妖魔を全て駆逐したと報告を受けている。
あの100人の小部隊で、よくぞ持ち堪えたものだ。
「「ハイドラ」は最高です! 酒をおごる約束をしました」
「あいつらは大食いだぞ。じゃあ今回の手当てはちょっと多めにしておくな」
「ワハハハハ! ありがとうございます!」
ストライカーが大笑いしていた。
仲間を喪った部隊長だが、戦場で散ることは俺たちの宿命だ。
話に出たので、「ハイドラ」を訪問した。
ほとんどがヘバっていたが、馬込と葉佩兄妹は元気だった。
「ストライカー大佐がお前たちを褒めて感謝してたぞ」
「いいえ、自分らなんか必死だっただけで」
「いや、大したものだ。ああいう戦場では、集中と弛緩のタイミングが難しい。いつ終わるとも分からず、いつ自分たちの出番があるのかも分からない。それに戦闘に規模もな。お前たちは見事にやり切った。本当に素晴らしいぞ」
「そうですかね!」
馬込が調子に乗ったかのように笑った。
こいつは本物の戦士になった。
俺が今言ったことは本当に難しい。
休んでいい時間が分からないのだ。
かといってずっと緊張していては長い時間は戦えない。
大部隊であれば交代で休めるが、こいつらはたったの100人だ。
あの状況下では常に備えていなければならなかった。
それを馬込たちはこなした。
まったくもって素晴らしい。
「「タイガー」、本当に終わって良かったです。最後の「タイガー」の一発は全員で感動してました」
「そうか。敵にまだ見せたくは無かったんだけどな」
「自分たちのためですね」
「俺が限界だったんだよ」
「ワハハハハハハハ!」
六花たちにも会いに行った。
多少の疲労は残っているが、全員が元気そうだった。
また、みんなが六花の周りに集まって騒いでいる。
こいつらは六花がいれば元気になる連中だ。
「よく持ち堪えてくれたな」
「トラ、必死だった。でもやるって決めてただけだった」
「ああ、お前たちはそうだよな。本当に御苦労だった。もしも作戦部隊を交代したければ……」」
「トラ、必要無いよ。出来るだけ私たちで生存者を救って行きたい。私たちに任せて」
「おう、そうか。じゃあ宜しく頼むな」
「うん!」
「紅六花」の中で最も疲労の激しいのはカリンだった。
まだベッドから起き上がれない。
俺が六花と部屋に行くと、慌てて起き上がろうとした。
「いいよ、寝ていろ。お前、大活躍だったそうだな」
「いいえ、総長ほどでは!」
「お前は見事な特攻隊長だ。俺とおんなじだな」
「石神さん!」
カリンがいきなり大泣きする。
「おい!」
「私、「ルート20」の石神さんに憧れてました!」
「なんだって?」
「『虎は孤高に』を見て! いつか自分もあんな風になりたいって」
「暴走族だろう?」
「いいえ、自分の憧れです! だから今回も頑張って……」
「そうかよ、ああ、じゃあお前の「Ωコンバットスーツ」は赤にしよう」
「本当ですかぁ!」
カリンが涙を拭いて大喜びだった。
「おい、これからはこいつを「アカリン」って呼んでやれ」
「アハハハハハハハハ!」
六花が大笑いした。
カリンは興奮したままで、もう俺の声は聞こえていなかった。
御影の所も訪問した。
死者と負傷者はストライカーの大隊に次いで多かった。
「御影、お前のお陰でなんとかなったぞ」
「いや、想像以上でした」
「そうだな。まさか23垓もいたとはなぁ」
「はい」
「ところでお前、「垓」って知ってる?」
「……」
「何で黙ってんだよ!」
「あの、すいません。とっても多いってことは……」
「ワハハハハハハハハ!」
えーと、一体何人が俺の言った数を理解してたんだろう。
こいつら、ほとんどが知らないで必死に戦ってたのか。
俺は「億」から教えてやった。
「すいません、やっぱり自分には……」
「ワハハハハハハハハ!」
副隊長の伊庭が俺に言った。
「石神さん、自分は知ってました!」
「おい、いいよ、カッコつけなくても」
「いいえ、本当に!」
「後出しジャンケンは無様だぞ」
「!」
伊庭は興奮して「那由他(なゆた)」までの数を口にした。
俺が笑って何も言わないと、伊庭が頬を膨らませて御影に本当なのだと説明していた。
桜たちの所へも行った。
「よう、お前らヘバったんだって?」
「すいません、石神さん!」
桜たちの半数は疲労で倒れ、「トラキリー」に搬送された。
「なんだよ、いつも「戦場で死にてぇ」なんて言ってたのによ」
「不甲斐なく、申し訳……」
俺は桜の肩を叩いた。
「冗談だよ。よく踏ん張ったな。お前らは最もきつい戦闘を経験した」
「いや、自分らは……」
言い掛けた桜を制し、話を続けた。
「戦場で死ぬのは簡単だ。だがな、俺たちは兵隊だ。必ず成し遂げなければならん任務がある」
「はい」
「最も厳しい戦場は、想定外の敵の強さの前で何とか踏ん張ることだ。自分たちがやるしかねぇ。その心だけで何とか戦い勝利することだ。お前たちはそういう戦場を経験した。これからに期待しているぞ」
「石神さん!」
全員が俺に敬礼した。
俺も敬礼を返し、我當会から編入された30人の前に行った。
「どうだよ、ヤクザの方が楽で良かっただろう?」
「アハハハハハハ! 確かに。でもこっちの方が遣り甲斐がありますぜ」
「そうかよ、でも我當たちはあっちで楽しくやってんぞ?」
「自分らも楽しませてもらってます。こっちが最高です」
「そうか、今後も頼むな」
「はい!」
どの部隊も疲労はしていたが、潰れてはいなかった。
あの厳しい戦場を乗り越え、尚も戦う心がある。
俺は心の中で頭を下げた。
ありがたい連中だ。
さて、あの人らの所へ行くかぁ。
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