富豪外科医は、モテモテだが結婚しない?

青夜

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奈々ちゃんの極道な日々 Ⅳ

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 「そういうことで、道間家の女は少々ハッチャケるのです」
 「よく分かりました」

 わかんねぇ……
 だけどようやくお話が終わってくれた。
 この麗星様、とんでもねぇお方だ。
 今は石神さんの奥様であり、一見落ち着いたお綺麗な高貴なご婦人だが、今も中身は相当なお人なんだろう。
 ヤクザなんか相手にならない底知れないものがある。
 4時間もの間に3回お茶が出て軽食も出た。
 もちろん俺には水の一杯もねぇが。
 奈々様は途中で出て行き、話が終わる頃にまた戻って来た。

 「奈々はこれまで家の中でばかり遊んでいましたの」
 「そうなんですか」

 五平所さんがちょっと目を潤ませていた。
 なんだろう?

 「時々皇紀様のお屋敷などには行かせているのですが、先日は初めて一人で出掛けましたのよ?」
 「まあ、御立派ですね」

 俺はもっと小さい頃からあちこち行っていたが、道間家は高貴な血筋だ。
 出掛けるのもいろいろとあるのだろう。

 「そのさなかに、まあ!」
 「本当に申し訳ありませんでした!」
 「とっても楽しみにしておりましたの」
 「本当に! どのようなお詫びも!」
 「奈々もつい怒りに任せて少々。まあ、誰も殺さなかったようですが」
 「ありがたいことです!」

 麗星様はまた茶を申された。
 五平所さんが立ち上がって出て行く。
 今度は俺にも出された。
 水だ。

 「……」

 「奈々もそろそろ世の中を知る時期なのでしょうね」
 「どういうことですか?」

 話が急に変わった。

 「ですので、これも何かの御縁。奈々に広い社会を教えたいのです、御協力いただけますか?」
 「社会ですか?」
 「ええ。奈々はわけあって普通の学校には通っておりませんの」
 「なるほど」

 この子が学校なんか行ったら大変だと俺は思った。
 俺もろくな子どもでは無かったが、次元が違う。
 頭に来たからって、重武装でヤクザの本部を襲うか!

 「ですので、ここらで社会というものを教えてやりたいと」
 「それを自分にですか?」
 「ええ」
 「あの、ヤクザなんですが」
 「構いません。どうせ常識などありません子ですので」
 「……」
 
 とんでもないことになった。
 とにかく、お断わり出来る立場ではなかった。

 「かしこまりました」
 「よろしくお願いいたします」

 麗星様はそうおっしゃって微笑まれた。
 やけにお美しい笑顔で、俺はうなずきながら見惚れてしまった。

 


 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■




 翌日、俺はまた「道間城」に行った。
 今日は麗星様にお会いすることなく、五平所さんが奈々様を玄関(?)まで連れて来られた。
 電動の移動用の車に乗って来られた。
 ああいうの、あるんだー。
 奈々様はフリルの多い半袖の可愛らしいワンピースを着ておられた。
 今は7月なので丁度いい服装だ。
 淡いピンクで、非常に子どもらしい。
 ただ、腰にデザートイーグルを吊っておられた。
 ゴツいガンベルトには幾つものでかい予備マガジンまで吊ってある。

 「おはようございます、奈々様」
 「おはよう、神!」
 「五平所さんもおはようございます」
 「おはようございます。今日は奈々様をよろしくお願いします」
 「はい。あの、腰の拳銃は……」
 「デザートイーグルでございます。50口径のマグナム弾を発射します。既存の拳銃の中でも最強の一つかと」
 「いいえ、知ってますが、それをお持ちになるので?」
 「はい、「虎」の軍法で違法ではありません、奈々様は「虎」の軍の兵士でもございますので」
 「はぁ……」

 なんかとんでもねぇ。

 「奈々様、可愛らしいお洋服ですね」
 「風花姉様からいただいたの」
 「そうなのですか。風花様とはよくお会いしております」
 「まあ! 神はお顔が広いのね!」
 「いいえ、山王会ですので。ところでその素敵な御洋服に拳銃は似合わないような」
 「丸腰では歩けません」
 「そうですか……」

 五平所さんがそっと移動車の中を指差した。
 見て見ると、XM7(アサルトライフル)、グレネード各種8個、などがジャラジャラと転がっていた。
 五平所さんが腕をクロスに重ねており、何とか奈々様を説得してくれたのだろうと理解した。
 この人は苦労人だ。

 「では参りましょうか」
 「うん! 五平所、行ってきます!」
 「行ってらっしゃいませ」

 奈々様は身体に似合わない大きさのリュックサックを背負っていた。
 俺が持とうとすると、断られた。

 「大事なものだから」
 「そうですか」

 きっと物騒な武器でも入っているのだろう。  
 俺のマクラーレンを見て、奈々様が喜ばれた。
 こういう車がお好きなようで良かった。
 車種を聞かれたのでお答えする、

 「父上様もお車が大好きで。よくアヴェンタドールや改造コルベットでうちにも来られてた」
 「はい、存じております。石神さんは本当に車がお好きで。その影響もあって、自分もこんな車に乗ってます」
 「そうなの!」

 今のところ、奈々様はご機嫌だ。
 リュックサックは前にして大事そうに抱えている。
 まさか爆発なんかしねぇだろうなぁ。

 「わたくしも乗せてもらいましたが、よく母上様とお二人でドライブに出掛けられていました」
 「そうなのですか」
 「天狼兄上様も。でもそれだけ。父上様はアラスカに行ってしまわれて、もうこちらでドライブには出掛けない」
 「そうですか。でも戦争が終わればまた」
 「ええ! 必ず父上様は勝ちます! そうしたら夜羽たちだって!」
 「そうですよ。今は自分などで申し訳ありませんが」
 「いいえ、神はなんとなく父上様の感じがします」

 石神さんの愛情が伺えるお話だった。
 天狼様は兄上で、夜羽様は弟か妹、でも「たち」って言ったので、下にはまだいらっしゃるのか。
 俺は大阪市内に向かった。
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