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戦神舞 Ⅳ
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翌日から、少し鍛錬をしながら、他は掃除などをして過ごした。
もう普通に歩くのも辛い仲間もいて、無理をさせずに寝かせている。
まだ動ける者だけで鍛錬をし、食事を作り、迎撃の作戦を話し合った。
「敵はどういう構成で来るだろうか?」
「新兵器の開発ということだから、多分《デモノイド》なども来るんじゃないのか?」
「そういえば、前に京都の道間家が襲われた時に、まだ4歳の奈々様が《デモノイド》を「クレイモア」で殲滅したらしいぞ」
「おお、奈々様か!」
奈々様は石神様のお子様たちの中でも我々に人気だった。
麗星様の美しさと明るさを受け継いだ方で、我々にも屈託なく接してくれる。
特に武器の扱いが堪能で、我々にさえご指導くださるほどだったのだ。
小さなお身体で、重たい武器を軽々と扱われる。
そして笑顔がこの上なく愛くるしい。
蓮花様が麗星様と親友なので、よくここにもいらっしゃったのだ。
天狼様もいらしたが、奈々様は毎回麗星様と一緒にいらしてくれた。
「石神様のお子様は凄まじいな」
「ああ、それに天狼様は先日20京の妖魔を瞬殺されたそうだな」
「知っているぞ! まったくもって素晴らしい!」
「我々も何か考えようではないか」
「そうだな。そういえば前に石神様のお子様たちと訓練した時に、してやられたなぁ!」
「ああ、落とし穴と地雷原な!」
「ああいうものも面白いと思わんか?」
「いいな、是非仕掛けよう!」
みんな盛り上がった。
いろいろなアイデアが出た。
「石神様から《シャンゴ》を幾つか預かっていたな」
「ああ、ある。それをどうするのだ?」
大黒が一つの案を話した。
「素晴らしいな!」
「それならば我々にも出来そうだ」
「頼むぞ」
また帝釈が別な案を挙げた。
「「黒笛」を10振り預かった。それを羅刹、お前の技で……」
「やってみよう。度肝を抜いてやる」
みんなで興奮して話し合った。
毎晩、夕食の後で集まった。
私たちは楽しんでいた。
毎日、懐かしい場所で食事をし、幾つもの場所で思い出を語り合った。
誰かが映画を観ようと言い出し、準備して大食堂のスクリーンで映画を観た。
ここにはもう映像ソフトは無かったが、デュールゲリエがどこかに接続し、私たちの望む作品を投影してくれた。
「Dランド」に行った時の映像も観た。
あまりにも懐かしく、思わずみんなが泣いた。
「石神様が計画して下さったな」
「あれは楽しかったな」
「蓮花様が夢中になって倒れらた」
みんなで笑った。
「おせち料理でもそうだったな!」
「そうだ! あれは申し訳なかったぞ」
「なかなか喰えなかったなぁ」
石神様のギター演奏の映像も観た。
蓮花様のあの演芸を観て、みんなで笑った。
全員が自分たちがどれほど幸せの中にいたのかを思い出していた。
もう、動けなくなって行く身体の中で、燃えて行くものを感じていた。
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
石神様は、ここで《ニルヴァーナ》を無効化する装置の開発をしているという情報を流していた。
特殊な波長の光と電磁波であり、体内の《ニルヴァーナ》ウイルスを死滅させる装置だ。
その実験場がここ元蓮花研究所だ
そのディスインフォメーション、偽情報は巧みに流された。
まず、噂のような情報として拡散した。
その後に「虎」の軍の公式発表として、新たな《ニルヴァーナ》の無効化の研究を始めたと発表したのだ。
その具体的な方法はまだ告げず、ある研究所で試験的に開発する予定だと。
開発研究者の名前と略歴が公表され、医学博士と光触媒や電磁波研究者の略歴が添えられた。
もちろんそれらは実在しない人物だった。
しかしそこから研究内容の類推がなされるようなものであり、実際に科学系のジャーナリストや識者が光触媒か電磁波を利用したものであるだろうと持論を展開した。
その情報は世界中に拡散し、元蓮花研究所に大型機材や研究者が運ばれたという情報も流された。
徐々に開発が順調であるかのような情報漏洩のようなディスインフォメーションも流された。
敵はそれ故にここを早期に襲って来る。
その石神様の読み通りになった。
我々がここに来て、2週間後に襲撃があった。
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
デュールゲリエが「ゲート」の出現を発報した。
午前4時過ぎ。
まだ外は暗い。
「総員! 戦闘準備!」
帝釈の指示で、全員がお預かりした注射器を挿した。
我々の衰えた肉体を、一時的に活性化する薬品だ。
石神様が最後にこれを下さった。
みるみる肉体が甦るのを感じる。
ほとんど寝たきりになっていた者たちも、起き上がって喜び合っていた。
これで全員で最期の戦いが始められる。
効果時間は2時間と聞いている。
《「ゲート」出現! 1000兆規模》
アラスカの《ロータス》とリンクしているデュールゲリエが伝えてくれる。
私たちは研究所の全てのデュールゲリエに退避するように言った。
我々に敬礼をしながら、立ち去って行った。
入れ替わるように、虎蘭様が現われた。
石神様から聞いていたが、我々の支援ではなく、見届け人として来て下さったのだ。
虎蘭様は本部建物の広いテラスで長大な「常世渡理」を抜いて、舞を始めた。
我々はゲートから溢れる妖魔たちに向かった。
虎蘭様の高らかなお声が響いた。
《御照覧あれ、戦神(いくさがみ)! 清き兵(つわもの)、ここにあり! 御照覧あれ、御照覧あれ!》
虎蘭様は舞いながら謡っている。
私たちは、その美声を耳にし、全身に力が漲って来るのを感じた。
何とありがたい謡と舞か!
「常世渡理」のあの美しい「シャララン」という音色が冴え渡って響いて来る。
我々は戦いながら、その音色と虎蘭様のお声に身を震わせていた。
《畏くも戦神! 兵共は清く、猛くあり! 御照覧あれ戦神! 清き兵共の散り際を! いずこもここは戦場(いくさば)なり! いずれも魂(たま)を燃やしたり! その血肉は果てるとも! その魂は敵を貫けり!》
私たちは敵に向かって行った。
もう普通に歩くのも辛い仲間もいて、無理をさせずに寝かせている。
まだ動ける者だけで鍛錬をし、食事を作り、迎撃の作戦を話し合った。
「敵はどういう構成で来るだろうか?」
「新兵器の開発ということだから、多分《デモノイド》なども来るんじゃないのか?」
「そういえば、前に京都の道間家が襲われた時に、まだ4歳の奈々様が《デモノイド》を「クレイモア」で殲滅したらしいぞ」
「おお、奈々様か!」
奈々様は石神様のお子様たちの中でも我々に人気だった。
麗星様の美しさと明るさを受け継いだ方で、我々にも屈託なく接してくれる。
特に武器の扱いが堪能で、我々にさえご指導くださるほどだったのだ。
小さなお身体で、重たい武器を軽々と扱われる。
そして笑顔がこの上なく愛くるしい。
蓮花様が麗星様と親友なので、よくここにもいらっしゃったのだ。
天狼様もいらしたが、奈々様は毎回麗星様と一緒にいらしてくれた。
「石神様のお子様は凄まじいな」
「ああ、それに天狼様は先日20京の妖魔を瞬殺されたそうだな」
「知っているぞ! まったくもって素晴らしい!」
「我々も何か考えようではないか」
「そうだな。そういえば前に石神様のお子様たちと訓練した時に、してやられたなぁ!」
「ああ、落とし穴と地雷原な!」
「ああいうものも面白いと思わんか?」
「いいな、是非仕掛けよう!」
みんな盛り上がった。
いろいろなアイデアが出た。
「石神様から《シャンゴ》を幾つか預かっていたな」
「ああ、ある。それをどうするのだ?」
大黒が一つの案を話した。
「素晴らしいな!」
「それならば我々にも出来そうだ」
「頼むぞ」
また帝釈が別な案を挙げた。
「「黒笛」を10振り預かった。それを羅刹、お前の技で……」
「やってみよう。度肝を抜いてやる」
みんなで興奮して話し合った。
毎晩、夕食の後で集まった。
私たちは楽しんでいた。
毎日、懐かしい場所で食事をし、幾つもの場所で思い出を語り合った。
誰かが映画を観ようと言い出し、準備して大食堂のスクリーンで映画を観た。
ここにはもう映像ソフトは無かったが、デュールゲリエがどこかに接続し、私たちの望む作品を投影してくれた。
「Dランド」に行った時の映像も観た。
あまりにも懐かしく、思わずみんなが泣いた。
「石神様が計画して下さったな」
「あれは楽しかったな」
「蓮花様が夢中になって倒れらた」
みんなで笑った。
「おせち料理でもそうだったな!」
「そうだ! あれは申し訳なかったぞ」
「なかなか喰えなかったなぁ」
石神様のギター演奏の映像も観た。
蓮花様のあの演芸を観て、みんなで笑った。
全員が自分たちがどれほど幸せの中にいたのかを思い出していた。
もう、動けなくなって行く身体の中で、燃えて行くものを感じていた。
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
石神様は、ここで《ニルヴァーナ》を無効化する装置の開発をしているという情報を流していた。
特殊な波長の光と電磁波であり、体内の《ニルヴァーナ》ウイルスを死滅させる装置だ。
その実験場がここ元蓮花研究所だ
そのディスインフォメーション、偽情報は巧みに流された。
まず、噂のような情報として拡散した。
その後に「虎」の軍の公式発表として、新たな《ニルヴァーナ》の無効化の研究を始めたと発表したのだ。
その具体的な方法はまだ告げず、ある研究所で試験的に開発する予定だと。
開発研究者の名前と略歴が公表され、医学博士と光触媒や電磁波研究者の略歴が添えられた。
もちろんそれらは実在しない人物だった。
しかしそこから研究内容の類推がなされるようなものであり、実際に科学系のジャーナリストや識者が光触媒か電磁波を利用したものであるだろうと持論を展開した。
その情報は世界中に拡散し、元蓮花研究所に大型機材や研究者が運ばれたという情報も流された。
徐々に開発が順調であるかのような情報漏洩のようなディスインフォメーションも流された。
敵はそれ故にここを早期に襲って来る。
その石神様の読み通りになった。
我々がここに来て、2週間後に襲撃があった。
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
デュールゲリエが「ゲート」の出現を発報した。
午前4時過ぎ。
まだ外は暗い。
「総員! 戦闘準備!」
帝釈の指示で、全員がお預かりした注射器を挿した。
我々の衰えた肉体を、一時的に活性化する薬品だ。
石神様が最後にこれを下さった。
みるみる肉体が甦るのを感じる。
ほとんど寝たきりになっていた者たちも、起き上がって喜び合っていた。
これで全員で最期の戦いが始められる。
効果時間は2時間と聞いている。
《「ゲート」出現! 1000兆規模》
アラスカの《ロータス》とリンクしているデュールゲリエが伝えてくれる。
私たちは研究所の全てのデュールゲリエに退避するように言った。
我々に敬礼をしながら、立ち去って行った。
入れ替わるように、虎蘭様が現われた。
石神様から聞いていたが、我々の支援ではなく、見届け人として来て下さったのだ。
虎蘭様は本部建物の広いテラスで長大な「常世渡理」を抜いて、舞を始めた。
我々はゲートから溢れる妖魔たちに向かった。
虎蘭様の高らかなお声が響いた。
《御照覧あれ、戦神(いくさがみ)! 清き兵(つわもの)、ここにあり! 御照覧あれ、御照覧あれ!》
虎蘭様は舞いながら謡っている。
私たちは、その美声を耳にし、全身に力が漲って来るのを感じた。
何とありがたい謡と舞か!
「常世渡理」のあの美しい「シャララン」という音色が冴え渡って響いて来る。
我々は戦いながら、その音色と虎蘭様のお声に身を震わせていた。
《畏くも戦神! 兵共は清く、猛くあり! 御照覧あれ戦神! 清き兵共の散り際を! いずこもここは戦場(いくさば)なり! いずれも魂(たま)を燃やしたり! その血肉は果てるとも! その魂は敵を貫けり!》
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