富豪外科医は、モテモテだが結婚しない?

青夜

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アラスカの悪人 Ⅱ

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 私がデモちゃんを運転し、助手席の真昼に言った。

 「亜紀さん、どうしちゃったんだろうね?」
 「いきなりだったよね。まあ、亜紀さんってそういうとこある人だけど」
 「そんなこと言わないの! 亜紀さんはいつも優しい人じゃない」
 「そうだけどさー」

 真昼も亜紀さんのことは大好きだ。
 時々暴走するけど、いつも自分よりも私たちのことを考えてくれている人なのは真昼も分かっている。

 「でも本当にどうしたんだろう? 突然「いい子!」って叫んで抱き締めてたよね?」
 「悪い子だよね?」
 「うーん……」

 そうなのだ、
 老婦人からハンドバッグを奪って逃げたのだ。
 最初は確かに亜紀さんも怒っていた。
 それが名前を聞いた途端……

 「あ! お姉ちゃん、もしかしてアンソニーってあれじゃないかな?」
 「え、真昼は何か分かるの?」
 「ほら、石神さんが脚本を書いた演劇の! 『マリーゴールドの女』に出て来る少年の名前がさ!」
 「あ、あぁー!」

 私も思い出した。
 亜紀さんが大好きな演劇だ。
 まあ、他の演劇は興味無い人だけど。
 主人公のステラに拾われて、全てを喪ったステラに最後まで付きそう少年の名前が、確か「アンソニー」だった!
 そうだった、亜紀さん、あのお芝居が大好きで何度も観てたもんなー。
 大体お城で観るのは『虎は孤高に』で、「マリーゴールドの女」もよく観ている。
 あとは石神さんのライヴ映像。
 どれも毎回亜紀さんが大興奮で、私と真昼はまともに感動したことがない。
 まあ、亜紀さんは石神さん関連が大好きなのだ。
 『マリーゴールドの女』は石神さんが脚本を書いたから、あのお芝居が大好きなのだ。
 それに石神さんとの思い出が結構あるものらしい。
 日本の緑子さんの主演も、アメリカでのリメイクも両方観る。
 一応ブルーレイのソフトは1000本ずつある。
 あれかぁー。
 亜紀さん、思い込みが強いからなー。
 少年の名前を「アンソニー」と聞いた途端、繋がっちゃったんだろうなー。
 とにかく、急いで城に戻った。
 でもその時、デモちゃんに搭載されている「虎シーバー(「虎」の軍の通信機)」が鳴った。

 《《ディアブロ》の登録車、車線の左に寄せて停止して下さい》

 あー、もうダメだぁー。
 大人しく指示に従って左に寄せて停止した。
 空中からDPが降りて来た。


 

 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■




 「おい、俺をどうすんだよ!」
 
 私に抱えられたアンソニーが空中で脅えながらも大声で叫んだ。
 強い子だぁー!

 「息は苦しくない?」
 「へ、平気だけど」

 一応時速100キロで飛んでいる。
 「花岡」でアンソニーの顔の前はカバーしているが。

 「俺をどこに連れてくんだよ! 警察かよ!」
 「違うよ、私のお城」
 「城?」

 やっと見えて来た。
 ゆっくり飛んだからなー。

 「あそこだよー!」
 「魔王城!」
 「違ぇよ!」

 頭を軽く引っぱたいた。
 まあ、確かに魔王城みたいだけどさ。
 全体に黒くて、なんかあちこちに悪魔や怪物の姿が彫られている。
 防御上の意味は無い。
 高い塀の中から巨人も進撃しない。
 見た目の妖しさの演出だけ。
 タカさんが悪ノリで設計したのだ。
 しょっちゅうでかい蝙蝠型の監視機が集団で飛んでる。
 コウモリの羽の大きな目玉も一杯飛んでる。
 護衛のデュールゲリエたちは鬼とか吸血鬼とかフランケンシュタインの怪物とかガーゴイルとかだ。
 まあ、みんな強いんだけどー。
 そういう怪物たちがお城の掃除や維持管理もしている。
 私も夜にいきなり「八尺様」に出くわすと今でもコワイ。
 あと四つん這いの「貞子」も強烈だ。
 こないだ、八尺様が高い窓の掃除をし、貞子が廊下の掃除をしてた。

 私たちが玄関の前に降りると、傍にいた護衛の怪物型デュールゲリエたちが一斉に頭を下げる。
 私も手を振って挨拶する。
 アンソニーは気絶してた。
 強くなれー。





 私はアンソニーを運んで応接室の一つのソファに寝かせた。
 アンソニーは薄汚れた服を着ていた。
 洗濯もしていないようで、ちょっと臭う。
 このアラスカでこんな格好は珍しい。
 全ての人間がある程度の水準の生活をしているからだ。
 貧しい人間は基本的にいない。
 外からの移民は最初はお金は無いが、民生局が十分な資金を渡し、住居も最初の生活のあれこれを世話するのだ。
 家具も衣服も生活用品も、そんなに悪くは無いものを十分に用意している。
 それから仕事も紹介し、何らかの事情で働けなくても、生活費はちゃんと与えられる。
 孤児たちも多いが、みんな施設でちゃんと生活出来ているはずだ。
 洗濯もしないでいる子どもは基本的にいないはず。
 第一に、子どもを大事にするタカさんが絶対に放置しない。
 一体、どういうことだろう?

 私が紅茶を淹れて戻ると、アンソニーは丁度目を覚ましたところだった。

 「ここは!」
 「いちいち脅えるな! 小者に見えるぞ」
 「う、うるせぇよ!」
 
 うん、反抗心があってよろしい。

 「ここは《キャッスル・ディアブロ》だよ」
 「え! じゃあ、あんたがディアブロ・アキか!」
 「そうだよー!」

 アンソニーも私のことは知ってるようだ。

 「人喰いの!」
 「喰わないよ!」
 「だって、戦場で殺した敵兵を焼いて喰うんだろ!」
 「だから食べないって!」

 一体誰が言ってんだよ!
 悪人かぁ!

 「店で肉が足りないと暴れるそうじゃないか!」
 「暴れないよ!」
 
 それは何度かあるけどさ。

 「とにかく、これを飲みな」
 「毒!」
 「ちげぇよ! お前なんか指先で殺せるって!}
 「……」

 やっと納得してくれた。
 どういう納得か分からないけど。
 アンソニーが恐る恐る紅茶を口に運んだ。
 驚いた表情になる。
 
 「あ、美味い」
 「そうだろ? いい茶葉を持ってるからな」
 「あんた、「虎」の軍の偉い人なんだろ?」
 「まあね。だからこの城を任されてる。アラスカの最前線だ」
 
 アンソニーが黙って紅茶を飲んでいた。
 口は生意気だが、大人しく味わって飲んでいる。
 紅茶の味が分かるということは、元々生活はそんなに悪くは無かったはずだ。
 私はクッキーも持って来て食べさせた。

 「毒か!」
 「だからちげぇって! 黙って喰え!」

 アンソニーは最初の一枚を口にすると、夢中で食べ始めた。
 お腹が空いてたか。
 出したクッキーは全部食べた。
 やがてアンソニーが私に言った。

 「ディアブロ、あんたはこないだの中国の戦争にも行ったか?」
 「軍の機密事項だから話せないよ」
 「そうか。俺の父ちゃんは行ったんだ。そして死んだ」
 「なんだって!」

 あの戦場に参加したソルジャーだったか。
 私はアンソニーの汚れた格好や盗みを働いたことなどが、なんとなく分かった気がして来た。

 「お父さんの名前は?」
 「シルベスター・コールマン。軍曹だった。あんたはそんな下の人間は知らないだろう」
 「知ってるよ。ストライカー大隊の人だよね。ご立派な最期だった」
 「え! 知ってるのかよ!」
 
 私はうなずいた。
 アンソニーの事情を聴いたからには、機密事項をある程度は話してもいいだろう。
 何しろアンソニーはコールマン軍曹の遺族なのだ。



 
 地獄のような戦場だった。
 その最期を聞く権利がある。
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