富豪外科医は、モテモテだが結婚しない?

青夜

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アラスカの悪人

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 「真夜、たまには渋谷にでも行こうか?」
 「え、亜紀さん、何か買い物でも?」

 《オペレーション・チャイナドール》が終了し、私たちは2週間の休暇を頂いていた。
 あまりにも激し過ぎる戦場だった。
 私と真昼はもちろん、あの元気一杯の亜紀さんも、二日間寝込んでいた。
 私と真昼よりも、亜紀さんの疲労は濃かったはずだ。
 あの北京大空洞での激戦で、石神家の剣聖の方々と並んで、亜紀さんは頑張って妖魔を駆逐していた。
 大技の連続で、限界を超えて最期まで亜紀さんは戦っていた。
 だけど、もう三日目になると亜紀さんは元に戻っていた。
 元気だなー。

 亜紀さんはアラスカで《キャッスル・ディアブロ》という巨大な城を与えられている。
 アラスカの最前線にあるが、ここはまだ襲われたことは無い。
 亜紀さんと私と真昼の三人で暮らしているが、亜紀さんは人気者なのでしょっちゅう来客がある。
 亜紀さんと一緒の戦場で戦った軍部の人も多いが、ルーさんとハーさん、それにアラスカに来ると皇紀さんも来る。
 もちろん石神さんもよくいらっしゃるし、「カタ研」のみんなも休暇になるとよく来てくれる。
 亜紀さんが明るい方なので、みんなが集まるのだ。
 ロボさんも時々来て泊っていくこともある。
 ロボさんはあちこちに住むようになった「石神家」のみなさんの顔を見に来るのだ。
 優しい方だ。
 多くは石神さんのお傍にいるのだけれど、時々いらしてみんなで大歓迎だ。
 だからこの城はしょっちゅう宴会(肉大会)だった。
 みんな亜紀さんを慕って集まって来る。

 今は昼食を三人で作っていた。
 お世話をしてくれるデュールゲリエたちもいるのだが、食事は基本的に可能な限り自分たちで作るようにしている。
 それも楽しいのだ。
 今日は肉そばだった。
 亜紀さんの好物だし、私も真昼も好きだ。
 ところで亜紀さんの話で、日本へはたまに行くが、なんだろう?

 「ほら、またそろそろ悪人が湧いてるかもしれないじゃん」  
 「あー」

 また亜紀さんの悪いクセが出た。
 亜紀さんは石神さんとお肉の次に「悪人狩り」が大好きだ。
 だからたまに私たちも付き合わされる。

 「でもあっちも結構治安が良くなりましたよ?」
 「分かんないじゃん! 悪人はゴキブリみたいに湧いてくるからね!」
 「はぁ」

 あれは半年前か。
 亜紀さんと新宿で「悪人狩り」をして、コスタリカ系のマフィアと市街戦になった。
 相手が結構な武器弾薬を持っていたのだ。
 ビル全体がマフィアの持ち物で、重機関銃まで撃って来た。
 もちろん亜紀さんが大笑いしながら突入してマフィアを全滅させ、ビルごと潰した。
 問題は流れ弾が周囲のビルや走行中の車を破壊し、30人を超える負傷者を出したことだ。
 マフィアを含めて死者が出なかったのは幸いだが。
 早乙女さんが何とかしてくれたが、三人でこってり怒られた。

 「「虎」の軍法もあるけどね、街中での銃撃戦は勘弁してね!」
 「「「すいません」」」

 その後石神さんにも怒られた
 亜紀さんはぶっ飛ばされて失神し、私と真昼は「お前たちが止めてくれよ」と頼まれた。
 でも石神さんも、それが難しいことは分かっている。

 「亜紀さん、渋谷は不味いですよ」
 「あ、真夜はやっぱギロッポン?」
 「いえ、そういうことじゃなくてですね」
 「外国人の悪い奴が多いもんね!」
 「いいえ、六本木もちょっと」
 「あー、じゃあ池袋かぁ! シブイね!」

 もうはっきり言った。

 「亜紀さん、やめましょう」
 「えぇー!」

 肉そばが出来て食べた。
 ステーキは一人4枚まで。
 亜紀さんは最近「普通の食事」を目指してる。
 もうちょっとだ!

 「悪人、狩りたいなー」
 「亜紀さん!」

 真昼は笑ってる。
 この子は結構亜紀さん系だ。
 「悪人狩り」も楽しんでやってる。
 実を言えば私もちょっと楽しい。
 だけど止めなきゃいけない。

 「日本で騒ぎを起こしたら不味いですよ。こないだのコスタリカ系マフィアのことは、石神さんも散々怒ってたじゃないですか」
 「じゃあ、パリに行って士王でも誘うかなー」
 「パリもダメです!」

 亜紀さんのことは大好きなのだが、この悪いクセはなんとか止めないと。
 亜紀さんは嬉しくなるとブレーキが壊れる。
 そのまま進んで、大問題になることが何度もあった。
 基本的に真直ぐな人なので、隠し事が出来ないのだ。
 ルーちゃんとハーちゃんはその辺が上手いのだが。

 「亜紀さん、《アヴァロン》でも行きましょうよ。買い物も出来ますし」
 「そっか、そうだね。あそこも人が増えて、悪人も出て来るかもね!」

 いや、そっから離れて下さいって。
 とにかく、《アヴァロン》に行くことになった。
 あそこは治安がいいので、亜紀さんも何もしないだろう。
 治安警備のデュールゲリエたちがいるし、《ウラノス》の監視も万全だ。
 北京ではあれだけの激しい戦闘だったんだ。
 亜紀さんにはしばらくのんびりと楽しんで欲しい。
 「悪人狩り」じゃなくて。


 

 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■




 亜紀さんが愛車のデモちゃん(ダッジ・デーモン)を出して、御機嫌で運転した。
 《アヴァロン》の駐車場の一つに入れて、ゆっくりと歩いて散策した。
 服でも観ようかとブティック街に向けてなんとなく歩いていると、前方で騒いでいる。

 「泥棒だぁー!」

 大きな声が聞こえた。
 亜紀さんを見ると、顔が輝いている。
 いけない!
 しかし止める間もなく亜紀さんが走り出した。

 「亜紀さん!」

 真昼と必死で追った。
 だけど、20秒後に亜紀さんが犯人を捕まえていた。
 よかった、ぶっ飛ばしてない!

 「亜紀さん!」

 「おい、ゴルァ! てめぇ、人様のもんを盗みやがって!」

 見ると黒人の少年だった。
 10歳前後だろうか。
 ああ、だからいきなり暴力を振るわなかったのか。
 亜紀さんは子どもには優しい。

 「離せよ!」
 「うるせぇ! 大人しくお縄につけぇ!」

 二人共英語で話しているけど「お縄に」というのは通じない。

 「お前、名前を言え!」

 亜紀さんが男の子の頭をはたいた。
 強くはないが、あれは痛い叩き方だ。

 「あ、アンソニーだよ!」

 いきなり亜紀さんが少年を抱き締めた。

 「いい子!」
 「なに?」

 なんだろう、亜紀さんが突然男の子の頭を撫で始めた。
 亜紀さんが男の子アンソニー君を離した。
 ただ、逃げないように手は握っている。

 「警察に突き出すのかよ!]

 亜紀さんが私に盗んだハンドバッグを渡してきた。

 「真夜、これ返してきて!」
 「は、はい! あの、亜紀さんは?」
 「逃げるよ!」
 「ゲェ!」

 亜紀さんはアンソニー君を抱えて「飛んだ」。
 私は慌ててハンドバッグを女性に返した。 
 初老の優しそうなご婦人で、しきりに私にお礼を言っていた。
 私は簡単に挨拶し、真昼と一緒にデモちゃんを取りに行って城へ戻った。
 すぐにDP(デュールゲリエ・ポリス)が来るに違いない。
 亜紀さん、何やってんですかぁ!
 日本では「「虎」の軍法」があって大抵のことは問題にならないのだが、ここアラスカではそうは行かない。
 軍籍であろうが亜紀さんのようなVIPであろうが、犯罪はちゃんと取り締まられる。
 盗難の犯人を拉致したら、それは犯罪だ!
 亜紀さんはどういうつもりなのだろうか。
 確実に監視カメラで亜紀さんがアンソニーを連れ去ったのは確認されているだろう。
 絶対に誤魔化せるわけがないのは、亜紀さんも分かっているのだろうが。

 とにかく亜紀さんを追わなければ。
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