富豪外科医は、モテモテだが結婚しない?

青夜

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アラスカの悪人 Ⅶ

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 アンソニーが下を向いていた。
 いろいろなことを考えているのだろう。
 移送車の中で、私がアンソニーに話した。
 
 「亜紀さんもね、悲しいことが一杯あるの」
 「え?」
 「だからだよ。あんなに優しいのは、そういう悲しみを一杯経験しているからなんだよ?」
 「そうなのか……」
 「石神さん、「虎」の軍の「タイガー」はもっとだよ。だからあの恐ろしい「業」とも戦えるの。でも誰かが死ぬといつも悲しんでる。私たちは知ってる」
 「……」

 今のアンソニーには分かるだろう。

 「あなたがハンドバッグを奪った女性、名前はサラ・オズボーンさん。68歳の御高齢」
 「そうなんだ」
 「息子さんのことは聞いたと思うけど、ブラジルの《ハイヴ》攻略戦で戦死された。一人息子さんだったそうよ」
 「……」
 「どんなに悲しかったか、アンソニーには分かるよね?」
 「うん……」
 「だからだよ」
 「え?」
 「だからオズボーンさんは優しいの。息子さんは「虎」の軍のために一生懸命に戦って亡くなった。だから息子さんの愛した「虎」の軍の街のために自分も何かしたいと思った」
 「!」
 「御立派な方。そして優しい方。息子さんはいなくなったけど、息子さんの心のために自分が何かしようとしている」
 「俺!」
 「アンソニー、ちゃんと謝って許してもらおう」
 「うん! 早く謝りたい!」
 「うん!」

 私はアンソニーをDPオフィスまで連れて行き、改めてきちんと調書を作成させた。
 昨日のものでも十分なのだが、アンソニーがDPにも迷惑を掛けたので謝りたいと言ったのだ。
 それに、あのDPには親切にしてもらったからと。
 事情を話すと、昨日城に来てくれたDP1033号さんが警邏中に引き上げてわざわざ来てくれた。
 アンソニーがちゃんと謝って、DP1033号さんは喜んだ。

 「あなたが被害者の方のことを教えてくれ、俺は自分がとんでもない過ちを犯したことを分かりました」
 「そうですか。それはあなたの勇気です。私も嬉しく思います」

 その上で相手の女性に直接謝罪したいと言うアンソニーの望みが正式に受理され、DP1033号さんが同行してくれることになった。
 私の役目はここで終わりだ。
 アンソニーはきっと許してもらえるだろう。

 私は城へ戻った。
 亜紀さんがまたギョロちゃんたちと『ギョロちゃん音頭』を踊ってた。
 ちょっとコワイんで、その後で報告した。


 

 ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■




 あれから1ヶ月。
 アンソニーから連絡が来た。
 以前に教えた直通の電話だ。
 亜紀さんが私たちにも聞こえるように、オープンにして会話した。

 「ちょっと城にまた行ってもいいですか?」
 「おう、いつでも来い!」

 アンソニーの口調が以前とは違う。
 でも亜紀さんは全然気にしないでアンソニーを誘った。
 その日の午後に、アンソニーが初老の女性を連れて一緒に来た。
 あ、あの人は!
 私は知っている。
 あの人はアンソニーがハンドバッグを奪ったサラ・オズボーンさんだ。
 私たちは居間でお迎えした。

 「サラ・オズボーンです」
 「初めまして、アキ・イシガミです。こちらはマヤとマヒル。ようこそいらっしゃいました」

 亜紀さんが二人を座らせ、私と真昼で紅茶とケーキを用意した。
 アンソニーはちょっと緊張している。
 亜紀さんはにこやかだ。

 「亜紀さん、実はおかあ、いや、オズボーンさんと一緒に暮らすことになったんです」
 「「え!」」
 「そうか、アンソニー、よかったね」
 「は、はい!」

 驚いた。
 でも亜紀さんはそのまま微笑んでいた。
 オズボーン夫人が詳しく話してくれた。

 「1か月前に、アンソニーがうちを訪ねて来て。あの日私のハンドバッグを奪ったことを謝ってくれました」
 「そうですか」
 「家の中に入れて二人で話しました。私は息子のことを、アンソニーはお父さんのことを。アンソニーは自分がやってしまったことを深く後悔していました。私は当然赦し、それから度々アンソニーはうちに来てくれて」

 アンソニーが言った。

 「申し訳なくて、何かお手伝いをしたかったんだ。サラはとてもいい人だったのに。俺、自分がとんでもないことをしてしまって。だからサラのために何でもしたかった」
 「アンソニーは素直な良い子です。だから二人で話し合って、アンソニーを養子に引き取ることにして」

 「「エェェェェーーー!」」

 私と真昼は叫んでしまったが、亜紀さんはまだ微笑んでいる。
 そしてアンソニーの背中に回り、あの日のように頭を抱き締めた。

 「いい子……」
 
 オズボーンさんは微笑んでアンソニーを見ていた。

 「アキさんがこの子を変えてくれたんですね。アンソニーから何度も聞きました」
 「いい子ですから」
 「そうですね」
 
 アンソニーは何も言わない。
 亜紀さんの両腕が顔を覆っているからか。
 両手がだらんと垂れていた。

 「亜紀さん! アンソニーが窒息してます!」
 「うわ!」

 慌てて床に寝かせ、真昼と人工呼吸をした。
 蘇生した。

 「危なかったね」
 「「亜紀さん!」」

 アンソニーが目を覚まして笑っていた。
 私たちも笑ったが、オズボーン夫人は真っ青だった。
 まーなー。
 それから楽しく話し、夕飯にお誘いした。
 またカレーを作った。

 「サラ、ここの「カレー」は美味しいんだよ!」
 「そうなの」

 カレーをオズボーン夫人も気に入ってくれた。

 「本当に美味しいのね」
 「ね!」

 私たちはそれを聞きながら夢中で食べた。
 カレーだもん。
 泊まって行くようにも誘ったが、二人は帰って行った。




 「亜紀さん、良かったですね」
 「ああなるだろうとは思っていたけどね」
 「そうなんですか!」

 驚いた。
 亜紀さんは分かっていたのか。

 「だってアンソニーはいい子だからね」
 「まあ、そうですね」
 「だから必ず幸せになるよ。良い人と巡り合ってね」
 「ああ、なるほど」

 そうなのだろうが、そうならなかったら亜紀さんは自分がアンソニーを何とかするつもりでもあったのだろう。
 困った人を放ってはおけない人だ。
 まあ、悪人には容赦ないが。
 石神さんを見て育った方だ。
 そりゃそうだろう。

 「あー、タカさんに会いたいなー」
 「次の「石神家会」は来週ですね」
 「待てないよー」
 「「アハハハハハハハ」」

 「石神家会」とは、月に一度、石神さん、亜紀さん、皇紀さん、ルーちゃん、ハーちゃんとの5人で食事会をすることだ。
 亜紀さんがいつも楽しみにしている。
 5人だけで集まり、一晩を過ごす。
 亜紀さんが毎回大興奮で出掛け、そして寂しそうに帰って来る。

 「亜紀さん、今度オズボーンさんの家にも遊びに行きましょうよ」
 「あ、そうだね!」
 「亜紀さん、あんまりアンソニーを抱き締めないで下さいね」
 「真昼!」

 三人で笑った。
 



 「アンソニーもソルジャーになりますよね?」
 「え、どうして? まだ分からないじゃん」
 「だって、亜紀さんもそうなったじゃないですか」
 「え?」

 本当に「良い子」は亜紀さんだろう。
 亜紀さんは石神さんに助けられて、石神さんと共に戦う最初の人間となった。
 だったら、亜紀さんに助けられたアンソニーも同じだろう。

 「そういうことは分からないけどさ。でも幸せになって欲しいね!」
 「そうですね!」
 「はい!」

 きっと石神さんもそう思って来たに違いない。
 今でも、きっと。
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