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出会い
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「磯良ぁ! てめぇ、今日で終わりだぁ!」
元稲城会の連中のはみ出し者が集まった愚連隊「外道連合」。
構成員は1000人とも言われ、「組」の看板は掲げていないが、どんな汚いことでもこなすやり方で強大な勢力を示しつつあった。
今、その中でも武闘派で知られる「咢」の連中百人近くが俺を囲んでいた。
日本刀を持った者もいるが、ほとんどは銃を手にしている。
俺の《力》を恐れてのことだ。
「これだけ囲めば、お前もハチの巣だろうよ! じゃあ、くたばれ!」
幹部の三好原が叫んだ。
俺の後ろは壁だ。
逃げ場はない。
一斉に銃弾が俺に迫った。
血煙が舞った。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「磯良くーん」
また胡蝶だ。
目を瞠る美貌で、入学初日から同じクラスのある姉妹と共に注目を集めている。
身長は168センチ。
体重は知らない。
でも抜群のスタイルだ。
姉の帰蝶さんも相当な美人だが。
俺は胡蝶の家に居候しており、子どもの頃から一緒だ。
そのためもあって、昼休みになるといつも胡蝶が俺を昼食に誘いに来る。
ちなみにうちの高校は学食が美味いので有名だ。
数年前から、ある富豪の援助でそうなったと聞いている。
しかし、俺はいつも弁当を持って来ている。
独りが好きなのだ。
俺に親し気に寄って来る胡蝶に、クラスのみんなが注目していた。
「ねぇ、一緒に学食に行こうよー」
「嫌ですよ。人が大勢いるし」
「えー! だって一緒に食べたいじゃない」
「俺は別に」
胡蝶が俺が取り出した弁当を掴んだ。
「おい!」
「いいじゃない。学食で一緒にね?」
俺たちの遣り取りを石神の双子が見ていた。
胡蝶も目を引くほどの美人だが、石神姉妹は更に次元が違う。
二人とも端麗な顔に背中まである長い髪。
背が高く178センチとのことだ。
豊満ではないが、抜群のスタイル。
何よりも、この二人には「雰囲気」がある。
妖しい、危険な雰囲気だ。
高校生どころか、大人にだって、これほどの深い雰囲気はない。
俺は子どもの頃から、結構いろんな人間を見て来ている。
何人も、「特別」な人間を知っている。
そういうものと、石神姉妹は通じていた。
「何見てるのよ! あ! 石神さんたちね!」
胡蝶がこちらを見ている二人に手を振るので俺が慌てて止めた。
確かにいつまでも見ていたい二人だが、関わるのは危険だ。
俺の勘がそう教えていた。
尋常ではない世界で生きている。
それが俺には分かる。
どういう世界なのかは分からないが。
「ねぇ! 石神さんたちも一緒にどう?」
胡蝶が大きな声で呼びかけた。
こいつは天真爛漫というか、緊張感も遠慮もない。
その明るい性格は好ましいのだが。
「バカ! よせよ!」
「学食で! 二人とも行こうよ!」
石神姉妹が顔を見合わせている。
小さく頷くのが見えた。
こちらへ歩いて来る。
「いいけどさ。私たちは事前に連絡が必要なんだよ」
姉の瑠璃がそう言った。
「どういうこと?」
「もう卒業した亜紀ちゃんがそうだったの。私たちも「同じ」だから、学校からそうしてくれって言われてるの」
「ふーん。で、連絡しなかったら?」
「まあ、別に。でも、学食が大変でしょうね」
「じゃあ、いいじゃない」
二人はニッコリと笑った。
俺はゾッとした。
尋常ではない妖しい微笑みだった。
「そういうことなら。でも今日はあなたが責任を引き受けてね、堂前さん」
妹の玻璃がそう言った。
「え、別にいいけど」
胡蝶は引き受けた。
俺たちは学食へ向かった。
10分後。
俺たちは人垣に囲まれていた。
俺たちのテーブルには50人前のトレイが置いてある。
「俺たちの」というのは正確じゃない。
50人前が置かれているので、他の人間が座れないだけだ。
石神姉妹の食事は、すべて石神姉妹のパシリが用意した。
同じ中学校から一緒にいる連中らしい。
石神姉妹を神の如くに仰いでいる。
金は自分たちで払うようだが。
俺は玻璃が出したエルメスのリザードのドゴンから、万札が十枚ほど出て来たのを見た。
「あんたたちもこれで食べなさい」
「はい! ありがとうございます!」
二人の男女が恭しく受け取った。
そのまま駆け出して行って、食券機の前で他の連中を待たせたまま何十枚も買っていく。
あいつらも「喰い」の人間か。
その食券を数枚受け取る人間がいて、そいつらは注文カウンターでどんどん受け取って行く。
そして、俺の目の前で石神姉妹がガンガン喰っている。
あの美しい顔で、物凄い勢いで口に入れ、咀嚼し、呑み込み、時々互いの皿の料理を奪い合い、パンチを応酬しながらだ。
「ねぇ、磯良」
「なんだよ」
「これって何?」
「お前が誘ったんだろう!」
胡蝶が呆然としている。
胡蝶がナイフで切ったハンバーグが瑠璃の一閃した箸に奪われる。
「消えたわ」
「そうだな」
50人前の食事は、20分ほどで無くなった。
パシリの一人がコーヒーを持って来る。
二人は頷いて受け取った。
「この人たちにも」
「はい!」
俺と胡蝶の前にもコーヒーが置かれた。
「早く中間テストが始まらないかしらね」
瑠璃が言った。
「なんで?」
胡蝶が聞く。
「実力を示したら、この学校は自由にさせてくれるんだって」
「へぇー」
「亜紀ちゃんが言ってた。亜紀ちゃんは修学旅行も別な宿とって、毎晩飲み歩いたって」
「えぇー!」
瑠璃と玻璃が交互に説明してくれた。
「学校来なくても、出席扱いになるんだって」
「その亜紀さんって、お姉さんよね?」
「うん。唯一私たちが勝てない人間ね」
「タカさんと聖を除けばね」
知らない名前がどんどん出て来る。
ただ、「亜紀」については多少は知っている。
6年前の在校生で、「稲城会」を潰した張本人だ。
裏の世界では超有名人だった。
そうすると「タカさん」というのは、あの石神高虎か。
そうか、こいつら「石神一家」なのか。
今はまだ高校一年の4月だ。
俺もまさかあの「石神一家」に出会うとは想像もしていなかった。
石神高虎。
本業は医者らしい。
しかし、その裏でヤクザ界に旋風を巻き起こした。
北関東の千万組を平らげ、そして南関東最大の稲城会を一月ほどで壊滅させた。
発端は稲城会が「石神一家」にあやを掛けたらしいと言われている。
潰したその方法が凄い。
稲城会の事務所や資金源のキャバレーや賭博場を次々と文字通りに「吹っ飛ばし」ていった。
爆発物と言われていたが、そうではないらしいことが後から分かった。
六本木の巨大なビルが一棟、一瞬で崩壊した。
稲城会は一切の抵抗を諦め、石神高虎の下についた。
そして日本最大の神戸山王会は石神に不可侵条約を申し出、衝突を避けた。
警察は、何故か「石神一家」を追わなかった。
警察内部にも相当なコネがあることは確実だった。
人間技ではない、凄まじい拳法を使うと聞く。
信じられないが、その拳法で巨大なビルをも一瞬で崩壊するのだと。
ならば、この姉妹も使い手だろう。
なるほど、修羅場を潜っているから、あんな雰囲気なのか。
「あなた」
考え事をしている俺を、玻璃が呼んだ。
「名前はなんだったかしら?」
「ああ、俺? 神宮寺磯良だけど」
「ふーん」
「知らなかった?」
胡蝶が言った。
「何となくは知ってたけど。でも近くで見てよく分かった」
玻璃がよく分からない言い方をした。
「何が分かったの?」
「あなた、変わってるのね」
「え?」
「ハー、タカさんほどじゃないけど、まあまあいい顔よね」
「ルー、比較がでかすぎだって。虎とアリンコよ?」
「そうだけどさー」
石神姉妹が勝手に俺のことを話している。
「まあ、100人を超えてからかな」
「本当は1000人だけどね」
「!」
やはり、こいつらとは付き合いたくない。
目の前の美しい姉妹は、「殺し」の数を口にしている。
「ねえねえ、何の話?」
「なんでもない。じゃあ、食事は終わったから行くね」
「うん、またねー」
俺は最後にとっておいた卵焼きを口に入れた。
何を喰ったか、全然実感もない。
「すごい子たちだったねー」
「お前なぁ」
「世の中にはあんなのもいるんだ。磯良、アリンコ扱いだったじゃん」
「おい」
「100人かぁー。まあ、すぐだよね?」
「……」
胡蝶にも、あの数字の意味が分かっていた。
こいつも普通の高校生ではない。
都立筑紫野高校。
毎年東大合格率全国トップの超進学校。
俺たちは今、一年生の4月初旬。
出会いは始まったばかりだった。
元稲城会の連中のはみ出し者が集まった愚連隊「外道連合」。
構成員は1000人とも言われ、「組」の看板は掲げていないが、どんな汚いことでもこなすやり方で強大な勢力を示しつつあった。
今、その中でも武闘派で知られる「咢」の連中百人近くが俺を囲んでいた。
日本刀を持った者もいるが、ほとんどは銃を手にしている。
俺の《力》を恐れてのことだ。
「これだけ囲めば、お前もハチの巣だろうよ! じゃあ、くたばれ!」
幹部の三好原が叫んだ。
俺の後ろは壁だ。
逃げ場はない。
一斉に銃弾が俺に迫った。
血煙が舞った。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「磯良くーん」
また胡蝶だ。
目を瞠る美貌で、入学初日から同じクラスのある姉妹と共に注目を集めている。
身長は168センチ。
体重は知らない。
でも抜群のスタイルだ。
姉の帰蝶さんも相当な美人だが。
俺は胡蝶の家に居候しており、子どもの頃から一緒だ。
そのためもあって、昼休みになるといつも胡蝶が俺を昼食に誘いに来る。
ちなみにうちの高校は学食が美味いので有名だ。
数年前から、ある富豪の援助でそうなったと聞いている。
しかし、俺はいつも弁当を持って来ている。
独りが好きなのだ。
俺に親し気に寄って来る胡蝶に、クラスのみんなが注目していた。
「ねぇ、一緒に学食に行こうよー」
「嫌ですよ。人が大勢いるし」
「えー! だって一緒に食べたいじゃない」
「俺は別に」
胡蝶が俺が取り出した弁当を掴んだ。
「おい!」
「いいじゃない。学食で一緒にね?」
俺たちの遣り取りを石神の双子が見ていた。
胡蝶も目を引くほどの美人だが、石神姉妹は更に次元が違う。
二人とも端麗な顔に背中まである長い髪。
背が高く178センチとのことだ。
豊満ではないが、抜群のスタイル。
何よりも、この二人には「雰囲気」がある。
妖しい、危険な雰囲気だ。
高校生どころか、大人にだって、これほどの深い雰囲気はない。
俺は子どもの頃から、結構いろんな人間を見て来ている。
何人も、「特別」な人間を知っている。
そういうものと、石神姉妹は通じていた。
「何見てるのよ! あ! 石神さんたちね!」
胡蝶がこちらを見ている二人に手を振るので俺が慌てて止めた。
確かにいつまでも見ていたい二人だが、関わるのは危険だ。
俺の勘がそう教えていた。
尋常ではない世界で生きている。
それが俺には分かる。
どういう世界なのかは分からないが。
「ねぇ! 石神さんたちも一緒にどう?」
胡蝶が大きな声で呼びかけた。
こいつは天真爛漫というか、緊張感も遠慮もない。
その明るい性格は好ましいのだが。
「バカ! よせよ!」
「学食で! 二人とも行こうよ!」
石神姉妹が顔を見合わせている。
小さく頷くのが見えた。
こちらへ歩いて来る。
「いいけどさ。私たちは事前に連絡が必要なんだよ」
姉の瑠璃がそう言った。
「どういうこと?」
「もう卒業した亜紀ちゃんがそうだったの。私たちも「同じ」だから、学校からそうしてくれって言われてるの」
「ふーん。で、連絡しなかったら?」
「まあ、別に。でも、学食が大変でしょうね」
「じゃあ、いいじゃない」
二人はニッコリと笑った。
俺はゾッとした。
尋常ではない妖しい微笑みだった。
「そういうことなら。でも今日はあなたが責任を引き受けてね、堂前さん」
妹の玻璃がそう言った。
「え、別にいいけど」
胡蝶は引き受けた。
俺たちは学食へ向かった。
10分後。
俺たちは人垣に囲まれていた。
俺たちのテーブルには50人前のトレイが置いてある。
「俺たちの」というのは正確じゃない。
50人前が置かれているので、他の人間が座れないだけだ。
石神姉妹の食事は、すべて石神姉妹のパシリが用意した。
同じ中学校から一緒にいる連中らしい。
石神姉妹を神の如くに仰いでいる。
金は自分たちで払うようだが。
俺は玻璃が出したエルメスのリザードのドゴンから、万札が十枚ほど出て来たのを見た。
「あんたたちもこれで食べなさい」
「はい! ありがとうございます!」
二人の男女が恭しく受け取った。
そのまま駆け出して行って、食券機の前で他の連中を待たせたまま何十枚も買っていく。
あいつらも「喰い」の人間か。
その食券を数枚受け取る人間がいて、そいつらは注文カウンターでどんどん受け取って行く。
そして、俺の目の前で石神姉妹がガンガン喰っている。
あの美しい顔で、物凄い勢いで口に入れ、咀嚼し、呑み込み、時々互いの皿の料理を奪い合い、パンチを応酬しながらだ。
「ねぇ、磯良」
「なんだよ」
「これって何?」
「お前が誘ったんだろう!」
胡蝶が呆然としている。
胡蝶がナイフで切ったハンバーグが瑠璃の一閃した箸に奪われる。
「消えたわ」
「そうだな」
50人前の食事は、20分ほどで無くなった。
パシリの一人がコーヒーを持って来る。
二人は頷いて受け取った。
「この人たちにも」
「はい!」
俺と胡蝶の前にもコーヒーが置かれた。
「早く中間テストが始まらないかしらね」
瑠璃が言った。
「なんで?」
胡蝶が聞く。
「実力を示したら、この学校は自由にさせてくれるんだって」
「へぇー」
「亜紀ちゃんが言ってた。亜紀ちゃんは修学旅行も別な宿とって、毎晩飲み歩いたって」
「えぇー!」
瑠璃と玻璃が交互に説明してくれた。
「学校来なくても、出席扱いになるんだって」
「その亜紀さんって、お姉さんよね?」
「うん。唯一私たちが勝てない人間ね」
「タカさんと聖を除けばね」
知らない名前がどんどん出て来る。
ただ、「亜紀」については多少は知っている。
6年前の在校生で、「稲城会」を潰した張本人だ。
裏の世界では超有名人だった。
そうすると「タカさん」というのは、あの石神高虎か。
そうか、こいつら「石神一家」なのか。
今はまだ高校一年の4月だ。
俺もまさかあの「石神一家」に出会うとは想像もしていなかった。
石神高虎。
本業は医者らしい。
しかし、その裏でヤクザ界に旋風を巻き起こした。
北関東の千万組を平らげ、そして南関東最大の稲城会を一月ほどで壊滅させた。
発端は稲城会が「石神一家」にあやを掛けたらしいと言われている。
潰したその方法が凄い。
稲城会の事務所や資金源のキャバレーや賭博場を次々と文字通りに「吹っ飛ばし」ていった。
爆発物と言われていたが、そうではないらしいことが後から分かった。
六本木の巨大なビルが一棟、一瞬で崩壊した。
稲城会は一切の抵抗を諦め、石神高虎の下についた。
そして日本最大の神戸山王会は石神に不可侵条約を申し出、衝突を避けた。
警察は、何故か「石神一家」を追わなかった。
警察内部にも相当なコネがあることは確実だった。
人間技ではない、凄まじい拳法を使うと聞く。
信じられないが、その拳法で巨大なビルをも一瞬で崩壊するのだと。
ならば、この姉妹も使い手だろう。
なるほど、修羅場を潜っているから、あんな雰囲気なのか。
「あなた」
考え事をしている俺を、玻璃が呼んだ。
「名前はなんだったかしら?」
「ああ、俺? 神宮寺磯良だけど」
「ふーん」
「知らなかった?」
胡蝶が言った。
「何となくは知ってたけど。でも近くで見てよく分かった」
玻璃がよく分からない言い方をした。
「何が分かったの?」
「あなた、変わってるのね」
「え?」
「ハー、タカさんほどじゃないけど、まあまあいい顔よね」
「ルー、比較がでかすぎだって。虎とアリンコよ?」
「そうだけどさー」
石神姉妹が勝手に俺のことを話している。
「まあ、100人を超えてからかな」
「本当は1000人だけどね」
「!」
やはり、こいつらとは付き合いたくない。
目の前の美しい姉妹は、「殺し」の数を口にしている。
「ねえねえ、何の話?」
「なんでもない。じゃあ、食事は終わったから行くね」
「うん、またねー」
俺は最後にとっておいた卵焼きを口に入れた。
何を喰ったか、全然実感もない。
「すごい子たちだったねー」
「お前なぁ」
「世の中にはあんなのもいるんだ。磯良、アリンコ扱いだったじゃん」
「おい」
「100人かぁー。まあ、すぐだよね?」
「……」
胡蝶にも、あの数字の意味が分かっていた。
こいつも普通の高校生ではない。
都立筑紫野高校。
毎年東大合格率全国トップの超進学校。
俺たちは今、一年生の4月初旬。
出会いは始まったばかりだった。
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