アドヴェロスの英雄

青夜

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石神家

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 6月第一週の土曜日午後3時。
 俺は石神姉妹に誘われて、中野の石神家へ行った。
 驚いたことに、早乙女さんの家のすぐ近くだった。

 「でかいな」
 
 そのことにまず驚いた。
 1000坪は超えているだろう。
 広大な敷地に三階建ての家と、その後ろにも建物がある。
 俺はハーレーを降りて、インターホンを鳴らした。
 銀色の門が自動で開く。
 待っている間に、石神姉妹が玄関から出て来た。

 「磯良!」
 「待ってたよ!」

 俺はハーレーを押して中へ入った。
 ルーが手伝ってくれ、恐ろしく軽くなった。
 後ろで門が閉まって行く。

 「すぐに分かった?」
 「ええ、大きな家だと聞いていたもので」
 「そっか」

 庭の向こうから何かが走って来た。
 大きな白いネコだ。

 「ロボー!」
 
 ロボと呼ばれたネコが、ルーにじゃれつく。

 「この人は磯良。タカさんの大事な人だから宜しくね」
 「随分と可愛いネコですね」

 突然ネコが後ろ足で立って、腰を動かした。
 
 「ロボが初対面の人にジルバを見せた!」
 「磯良、相当気に入られたね!」
 「そうなんですか」

 よくは分からないが、取り敢えず良かった。

 玄関の脇にハーレーを停め、大きな一枚板の扉を入る。
 ハーがロボの足を拭っていた。
 俺は少し離れて、靴を揃えて上がった。
 二人がそれをにこやかに見ていた。

 「きちんと挨拶することと靴を揃えて家に入ること」
 「それが出来れば、「躾」は完了なんだって!」
 「そうなんですか」

 俺はスリッパを借り、案内されるままに二階に上がった。
 広いリヴィングがあり、大きなテーブルが目に入った。
 中へ入ると、右端に背の高い逞しい男がいた。
 白いパンツに薄い水色のシャツを着ていた。
 濃紺の渋いネクタイを締めている。
 
 「あ!」
 「よう! 久し振りだな」
 「あなたが石神さんだったんですか!」
 「そうだ。あの時は隠して悪かったな。まだ俺の正体を知られたくなくてな」
 
 俺が「アドヴェロス」の最初の任務で一緒だった。
 あの時は「石田」と名乗り、拳銃が得意な人間と聞いた。

 「普通の人じゃないとは思っていたんです」
 「そうか」
 
 石神さんから座るように言われた。
 綺麗な女性が俺にコーヒーを持って来てくれた。

 「石神亜紀です。ルーとハーの姉です」
 「ああ! あなたが筑紫野高校の伝説ですね」
 「え?」

 ルーとハーが笑った。
 亜紀さんも笑った。
 コーヒーは絶品に美味かった。
 他の人間も席に座り、俺の両隣にルーとハーが座る。
 石神さんは右端の辺に、俺の向かいに亜紀さんと皇紀さんと御堂柳さん。
 全員にコーヒーが配られ、ケーキが出された。

 「うちは休日は三時にお茶なんだ。一緒にと思って、磯良をこの時間に呼んだ」
 「今日は俺なんかを呼んで頂いて」
 「磯良のことは、君が「アドヴェロス」に入る前から知っていた」
 「分かります。石神さんが俺を早乙女さんの下に付けたんですね」
 「そうだ。君のことは、吉原龍子のノートに書いてあった。そのノートは俺に遺されたものだ」
 「龍子さんが……」

 話を聞きながら、全員を観察した。
 どの人間も尋常ではない。
 特に、亜紀さんは頭が抜けている。
 とんでもない能力者だ。
 そして何よりも石神高虎。
 人間とは思えない程の圧力を感じる。
 恐らく、俺がどう頑張っても、戦いになれば一瞬でやられる。
 最初に会った時には感じられなかった。
 この俺の「見切」が通じないことは、これまで無かった。

 「俺は君とは関わらないつもりだったんだ。早乙女の下で働いてもらい、日本を守ってもらいたいとは思ったけどな」
 「そうなんですか」
 「俺たちの戦いは別だ。俺たちの運命だ。でも、無関係の人間を巻き込むつもりは無かった」
 「石神さんの敵は、どういう連中なんですか?」
 「「業」だ」
 「!」

 俺の中で、一気に何かが繋がった。

 「じゃあ! 石神さんは「虎」の軍の人なんですね!」
 「そうだ。俺が「虎」つまり最高司令官だ」
 
 言葉が出なかった。
 俺は石神高虎は日本の暗黒街を支配する男としか考えていなかった。
 大きな権力を持つ人間とは思っていた。
 しかし、今日見せている強大な力は、それだけではないことを感じさせていた。
 世界で知らぬ者のいない、「虎」の軍のトップ。
 そして誰もその正体を知らない謎の人物。
 その石神高虎が俺に正体を告げた。

 「今も言った通り、「業」との戦いは俺たちの運命だ。君を巻き込むつもりはないことは分かってくれ」
 「じゃあ、どうして俺に身分を明かしたんですか?」
 
 石神さんがルーとハーを見て微笑んだ。

 「こいつらがな。磯良には話しておいて欲しいと言うものでな」
 「え?」
 
 隣でルーとハーが俺を見て微笑んでいた。

 「磯良にはね、私たちのことを隠しておきたくなかったの」
 「私たちと一緒に戦って欲しいわけじゃないよ?」
 「それじゃどうして……」

 「磯良はいい人じゃん」
 「これからは出来るだけ磯良を守って行きたいの」
 「え!」

 俺は驚きを隠せなかった。

 「磯良は強いけどね」
 「でも敵はもっと強い奴もいる」
 「汚いこともするしね」
 「磯良が危なくなることもあるかもしれない」
 「……」

 「その時にね、出来るだけ私たちが磯良を守るから」
 「そのためにはね、私たちのことも知っておいてもらった方がいいからね」
 「ルーさん、ハーさん……」

 二人がまた俺を見て微笑んだ。

 「こいつらが他人を大事にしたいなんて言うのは珍しいんだ。俺たち家族の他にはほとんどいない」
 「そんなことないよ!」
 「タカさん、おーぼーだよ!」
 「アハハハハ! まあ、亜紀ちゃんよりはずっと多いよな?」
 「タカさん!」

 亜紀さんが怒った。
 でも、みんなが笑っていた。

 「とにかくだ。今日は顔合わせということで気楽にしてくれ。ああ、俺たちのことは内密にな。もちろん早乙女は知っているけどな」
 「はい、それはもう。俺が今日ここへ来ることは、早乙女さんも知っているんですよね?」
 「ああ、夕飯にはあいつらも来るはずだ」
 「そうですか」

 ならば何の問題も不安も無い。

 「俺は龍子さんに返せない程の世話になったんです。だから龍子さんが俺に協力しろと言ったのならば、俺はどこまでもやりますよ」
 「それは早乙女が口にしただけだ。どうして君は信じるんだ?」
 「分かりますよ! だって、龍子さんが言ったんだから!」

 俺が龍子さんのことに関して、間違うはずがない。

 「そうか。よく分かったよ」

 石神さんには通じたようだ。

 「じゃあ、また夕飯の時にな」
 「はい」

 俺はルーとハーに連れられた。
 石神さんは誰かと電話で話していた。
 忙しい人なのだろう。

 「ここが私たちの部屋」
 「家族の他には、院長先生だけかな」
 「早乙女さんたちも入ったことないから」
 「そうなんですか」

 15畳の広さだそうだ。
 確かに広いが、いろいろなものが置いてある。
 参考書や問題集は見当たらない。
 数学の専門書や歴史や哲学の本、そして文学。
 様々な動物の頭部、本物やフェイク。
 よく分からない機械類。
 DVDやCD類。
 デスクにテレビにソファセットにダブルのベッドが二つ。
 狭いくらいだ。

 ソファに座るように言われた。
 ルーとハーはデスクのチェアを持って来た。

 「何か飲む?」
 「冷たいものがあれば」

 小型冷蔵庫からペリエを出して来た。
 自分たちはオランジーナを取り出す。

 「驚いた?」
 「ええ、いろいろと」
 「タカさんをどう思った?」
 
 俺は言葉を選ぼうとしたが、諦めた。

 「言葉に出来ませんね。凄い人としか」
 「「そう!」」

 二人が喜んだ。

 「世界最強!」
 「世界で一番優しい人!」
 「カッコイイ!」
 「面白い!」

 石神姉妹から、次々に石神さんへの誉め言葉が出た。

 「怒るとコワイ」
 「ヘコむとめんどくさい」

 最後にやっとそういう言葉が出た。
 ルーが俺の前にディスプレイを置いた。

 「ちょっとだけ見せるね?」
 「私たちの戦闘記録だよ?」

 最初は大きな船上での戦闘だった。
 石神姉妹はまだ小学生のようだ。
 巨大なジェヴォーダンと戦っている。
 あの「花岡」の大技を次々に繰り出すが、戦況は不味い。

 「ハー! いよいよだ! タカさんのために死ぬぞー!」
 「オォォォォォーーーー!」

 次はどこかの公園のようだった。
 機械のような相手と戦っている。
 石神さんの姿もあった。

 最後はどこかの地方。
 俺が先日戦った、水晶の人馬の化け物がいた。
 石神さんが刀で両断した。

 「全部じゃないけど、私たちはこれまで命懸けで戦って来たの」
 「ハーは何度か死んだよね?」
 「死んでないもん!」

 二人が笑っている。

 「磯良。私たちはこんな戦争をしているの」
 「あなたも一部はもう相手にしてる。気を付けてね」
 「はい、ありがとうございます」

 素直に礼を言った。
 俺に見せたのは、俺に注意して欲しいためだ。
 その優しさが伝わって来た。

 「じゃあ、私たちは夕飯の準備があるから!」
 「皇紀ちゃんに相手を頼んだからね!」
 「いや、俺は別に」
 「ここで私たちのお宝を探す?」
 「パンツはあそこだから」

 ハーが指さす。

 「いいですよ!」
 「アハハハハハ! 皇紀ちゃんの部屋にはエッチなDVDも一杯あるから」
 「HDDを上げる! 動画を貰いなよ」
 「はい?」

 二人に皇紀さんの部屋へ連れて行かれる。

 「やあ」




 優しそうな顔で微笑んで、皇紀さんが部屋へ入れてくれた。 
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