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嘘つき男、お断り。⑧
しおりを挟む「グランド大陸にある国は大体行ったなあ。あ、ついこの間まではグランデ王国で商売してたんだけどよ、あの国は大陸一豊かなだけあって商売相手の王族や貴族達も気前の良い奴らが多かったな。まあ、その分貧富の差も激しいんだが⋯⋯⋯⋯」
ロナルド・オルティスは懐かしそうな顔で上機嫌に話し出した。
「あとグランド大陸で行って無いのはヤマト共和国だけだな。あそこの国は今、殆ど鎖国状態で入国審査がやたらと厳しいんだよな~⋯⋯」
そんな彼の話を姫様は、目を輝かせ聴き入っていた。
「そんなにたくさんの国に行かれているのですね! わたくしはあまりクレイン王国から出た事が無いから羨ましい限りですわ⋯⋯!」
「外の世界はそりゃもう見たことないもの食べたことないもので溢れ返ってて驚きの連続だぜ。それに旅をしてると一期一会の出会いも醍醐味だな! ⋯⋯そうだ、そんなに外国に憧れてるなら、姫さんも俺と一緒に来るか?」
「!!」
彼の言葉に驚愕し、思わず声にならない声を上げる。そして、姫様と話していた筈なのにいつの間にやら此方を見てにやにやと笑っている彼をぎろりと睨みつけた。
「なーんてな! ⋯⋯おいおい、冗談だからそんなに睨むなよ」
「レオナルド、わたくしは何処にも行きませんから落ち着いてください」
ロナルド・オルティスは俺の反応を見て楽しんでいるようで、殊更タチが悪い。俺を揶揄って何がそんなに楽しいのだろうか。
そんな彼に憤る俺を姫様が宥める。
しばらく俺の反応を眺めて笑った後、彼は俺を揶揄う事に飽きたのか、先程とは打って変わりやけに真剣な表情になり口を開いた。
「⋯⋯さっきの話に戻るが、もしも、この国が噂の義賊に狙われてたらどうする?」
「⋯⋯なぜそんな事を聞くのです?」
「なんとなく気になっただけだよ」
俺が突っかかるもロナルド・オルティスはさらりと受け流す。そして、真面目な姫様は、彼の突拍子のない質問にも真剣に答えを探し考え込む仕草をする。
「うーん⋯⋯。この国に義賊の方達の好む物があるかはわかりませんが⋯⋯。盗んだお金を自分達の為に使うのでは無く、その国の貧しい方達に分け与えるのでしたら、上流階級と呼ばれる王族や貴族の僅か数パーセントの方達が独り占めするよりも皆が幸せになれるかもしれませんわね」
「ははっ! 姫さんみたいな考えの奴は初めてだ。あんた、変わってるって言われるだろ」
ロナルド・オルティスは姫様の言葉を聞いて、一瞬呆気に取られた後、心底楽しそうに笑った。そんな彼に、姫様はむっとして反論する。
「そんなことありませんわ! ああは言いましたが、だからといって盗みを肯定しているわけではございませんからね」
「わかってるよ。⋯⋯⋯⋯みんなが姫さんみたいな考え方だったら良いのにな」
肯定の後、ロナルド・オルティスはぽつりと呟いた。
そして、彼のその言葉が聞こえているのかいないのか、姫様は不意に拳を握りしめ熱く語り出した。
「しかし、考えているだけで行動しなければ全くもって意味がありませんわ! ですのでわたくしは、結婚という形でこの国の民を幸せにしたいのです!」
「あははは! 姫さんはホントに面白いお姫様だな。あんたのいる国に生まれた奴らは幸せだろうよ」
ロナルド・オルティスはそう言って、寂しそうに笑ったのだった。
✳︎
「明日からいよいよ春告祭ですわね!」
「俺の出店にも来てくれよ。各国の珍しい掘り出し物がわんさかあるぜ」
「ええ! 是非伺いますわ!」
夕食の席でのこと、姫様とロナルド・オルティスは明日からの祭の話題で大層盛り上がっていた。今では2人はすっかり打ち解け、その様子に俺の出る幕はないのかもしれないと思い始めていた。
多少お調子者なところはあるが、どこか憎めず情に熱い彼はもしかすると姫様の伴侶——つまり、未来の国王にぴったりかもしれない。きっと、彼の人柄は国民からも愛されることだろう。
それに、陛下や妃殿下はもちろんの事、ジョージやピーター、ジェイコブとも上手くやっていけそうだ。
ロナルド・オルティスの事を認めたくない気持ちもあるが、もしも姫様が彼に惹かれているというのなら、俺が反対する理由もない。
妹のように思っている彼女に婚約者が出来るのは少し寂しい気もするが、そんな自分勝手な気持ちは胸の奥底に仕舞っておこう。
夕食の後は各々自室に戻っていく。俺も、残った仕事を片付けるため机の上に書類を広げ、傍らのランプに火を灯す。しばらく書類を処理していると、何処からか1枚の新聞記事が出て来た。
——ジョージが間違って挟んだのか?
そう思いながら何気なく、おそらくジョージの物であろうその新聞記事を流し読む。
「⋯⋯⋯⋯!!」
最初は適当に流し読んでいたが、何処かで聞いた事のある話に徐々に真剣に文字を追っていく。
そして、それはあっという間に読み終わり、その記事の内容に俺は驚きで目を見張った。
——もしかして、あいつは⋯⋯⋯⋯。
今はまだ絶対的な確信は無かったが、なんだか不思議としっくりと来るように思える。
信じたくないという気持ちもあったが、奴の今までのふとした仕草や態度から積もっていた違和感がその可能性を指し示していた。
もしも彼奴が “そう ”ならば、決して見逃すわけにはいかない。この国に入り込んだネズミは何があろうと1匹残らず駆除しなければ。
全ては姫様の笑顔の為に——。
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