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王都誘致編
お迎えの馬車
しおりを挟む小夜が異世界に転移してから丁度、1か月が経った頃——。
デュースター村でかつて猛威を奮っていたペストは、小夜とベン、フィンらの活躍により収束へと向かっていた。
(今回は本当に運が良かった。⋯⋯でも次は分からないわ)
比較的に早期発見、適切な治療を行ったお陰か、小夜が来てからというもの誰一人犠牲者を出す事無く今日を迎える事が出来た。
しかし、小夜が来る以前にペストにより亡くなった人の命は戻って来ない。それが如何しようもない事だとは理解していたが、小夜の心の奥底に暗く影を落とした。
そんな最中、噂を聞きつけたというとある人物が訪ねて来る。それは、驚く事に王宮から遣わされた使者だった。
男は言った。さるお方の命で小夜を迎えに来た、と——。
✳︎✳︎✳︎
そして充分な心の準備が出来ないまま、別れの日を迎えた。
4頭の白い馬が引く青白磁と花色の豪奢な造りの馬車に乗り込み、窓から顔を覗かせる。
見送りに来たのはルッツとフィン。そして少し離れたところに村人達。その光景を見た小夜は思わず涙ぐんだ。
小夜の持てる治療法は全てルッツに叩き込んだし、当分の薬は十分な数を残した。フィンにはこれからも衛生隊長として村の環境改善に努めるようにと激励の言葉を掛け後の事は一任した。
2人がいればもしも再びペストがデュースター村を蝕んだとしても心配は無いだろう。
(いつかはあの男を探しにこの村を出るつもりだったけれど、まさかこんなに早く出て行く事になるとは思わなかった)
今から女性の憧れでもある王宮に行くというのに、少しも心が踊らない。小夜はお城に憧れる少女のようにはなれなかった。
「⋯⋯ベン、貴方の事最初は唯の脳筋バカだと侮っていたけれど、貴方のお陰で私は此処までやって来れたのよ。ありがとう、元気でね」
——予感がした。恐らく一度王都に入れば二度と此処には戻っては来れないと。
小夜は涙を堪えてベンとフィンを見つめる。
「聖女様⋯⋯いや、サヨ様。感謝するのは俺達の方だ。この村を救ってくれたあんたの事は一生忘れない」
「せっ、聖女様⋯⋯ぼくは、ぼくはぁっ⋯⋯!」
赤い目をして物悲しげに微笑むルッツに、顔をグシャグシャにしながらボロボロと涙を流すフィン。
「⋯⋯手紙、書くわね」
3人は別れを惜しみ口を閉ざしたまま視線を交わす。
その時、温度の伴わない声が掛けられる。
「出発します」
御者が手綱を握り鞭を振り下ろすと、白馬は一鳴きして走り出す。
少しずつ、少しずつ村から遠ざかって行く。小夜にとっては此の世界の故郷のような場所が——。
(思えば、長いようであっという間の1か月だったわ。最初は如何なる事かと思ったけれど、とても濃密で充実した毎日だった。生きている事を実感できた)
つうっと小夜の瞳から一筋の涙が頬を伝い流れ落ちる。
今はただ、共に戦った友人達との別れを惜しむことくらいは許されるだろう。
そして、いつの間にか眠っていた小夜が次に目覚めたのは王都ディアマントに到着してからの事だった。
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