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王都誘致編
騎士を蝕む病魔①
しおりを挟む「そっそれはそうと、治療して欲しい人って誰なの⋯⋯?」
小夜はあからさまに話題を逸らす。勿論、ミハエルの瞳は見ずに。
「⋯⋯オレの護衛騎士だ」
ミハエルは小夜の予想に反して意外にもあっさり答えてくれた。その時の彼はそれまでの尊大な態度から打って変わって、何処か寂しそうに言葉を発する。
(良かった、取り敢えずは乗り切れたわね。それにしても——)
「一介の騎士の為にわざわざ私を探し出して連れて来たって事? その人は貴方にとって特別な人なの?」
「これ以上はお前に教える筋合いは無い。今からそいつの元に案内する。付いて来い」
ミハエルはその表情に明らかな拒絶の色を滲ませ、小夜には目もくれずにバサリと白のコートを翻して応接室を出て行ってしまった。
✳︎✳︎✳︎
「此処だ」
そう言ってミハエルが立ち止まったのは見たところ此の屋敷で一番豪勢な造りの扉の前だった。些か年季が入ってはいるものの、精巧な金の細工が施されたそれは一目で上等なものだと分かる。
「騎士さんって随分と大きな部屋にいるのね」
「元はオレの部屋だからな」
「⋯⋯!」
(屋敷の主人を差し置いてこの部屋を使う騎士は一体何者なの⋯⋯?)
小夜はその人物に俄然興味が湧いてきた。
「⋯⋯ルイス、入るぞ」
ミハエルは控えめに3回ノックした後、返事を待たずに扉を開ける。
分厚いカーテンに光が遮られた薄暗い部屋には、一際存在感を醸し出す唐紅と真珠色の天蓋付きベッド。
「今日はこの前話していた聖女を連れて来たんだ」
ミハエルは表情を緩め優しい声音でベッドに横たわる男性に話しかける。ルイスと呼ばれたその男は声に反応してゆっくり瞳を開いた。
「ああ⋯⋯ミハエル、様。私にそのようなお気遣いは無用と仰いましたのに」
「お前の大丈夫は信用ならないからな。無理矢理にでも治療を受けて貰うぞ」
「貴方って人は全く⋯⋯。聖女様、この様な格好で申し訳ございません」
気安い雰囲気で何度か言葉を交わした後、ルイスは小夜に目を向ける。青い顔をして起き上がろうとする彼をミハエルは慌てて制止した。
「私はルイス・シュミットと申します。僭越ながら此方にいらっしゃるミハエル殿下の護衛騎士を務めさせていただいております」
そう言って弱々しく笑顔を見せたルイスは焦茶色の髪に翡翠の瞳の優しそうな雰囲気を纏った男性だった。騎士と言う通り、服の上からでも筋肉質で逞しい体躯が見て取れる。
そして、病によりやつれてはいるがミハエルとはまた違ったタイプの端正な顔立ちをしていた。
(薄々気付いてたけど⋯⋯ここにはイケメンしか居ないのね!? 一体全体この世界の顔面水準は如何なってるのよ!)
此の世界の住人には自分の平々凡々な顔は如何見えているのか。小夜は不安になりながらも口を開く。
「ルイスさん、初めまして。私は黒宮小夜。一応成り行きで聖女をやっています」
「宜しくお願いいたします。何でも、デュースター村では相当なご活躍をなさったとか」
「私だけの力じゃないわ。村のみんなが協力してくれたおかげです」
「ふふっ⋯⋯聖女様は謙虚でいらっしゃる」
ルイスが控えめに笑うと部屋の中に和やかな空気が流れる。
「ルイスさん。見たところ流行り病とお見受けしますが、此れだけでは断定できません。お身体に触れても?」
小夜は頃合いを見計らって本題に入った。
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