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「いくら金持ちでも、あんな『白豚』が許嫁じゃねぇ」
「友達が『白豚令息』と結婚するなんて、助けてあげたいけれど、私たちはなんの力もないから、助けてあげられなくて申し訳ないわぁ」
よく言うわ。
クスクスと嘲るように笑う、ただの顔見知りでしかない彼女たちは、私と同じカフェのテーブルでお茶を飲んでいる。
なんて、くだらない時間なのかしら。
私はそう独りごちた。
彼は王国の騎士として男爵位をお持ちの父親と商家のお嬢様だった母親の間に、遅くに生まれた一人息子で、それはもう可愛がって育てられていた。
男爵位を継ぐためには騎士にならなくてはいけないのに、剣どころか棒の一本も握ることすらなく成長した。
三年前に騎士学校に向かう馬車を待つ、臆病者な彼が、肉付きのいい身体を不安で縮めて震わせていた姿を思い出す。
許嫁なんて言ってるけれど、親同士が結婚させようと私たちが生まれた時に勝手に話していただけで、正式に婚約者というわけではない。
ないけれど、私は彼と結婚するんだろうなと思っている。
そりゃ、小さい頃は病弱であまり外にも出ずに育って、真っ白でぽっちゃりしていて、おどおどしている彼の見た目はお世辞にもカッコいいとは言えない。
でも彼は誰よりも私に優しい。
おじさんやおばさんだって私にとてもよくしてくれる。
彼らと過ごす時間は穏やかで心が安らぐ。私の大好きな時間だ。
名ばかり貴族の責任を守るために、見た目だけ気遣う嫌味な男に嫁ぐくらいなら、彼に嫁ぎたい。
私はそう思っている。
石畳を走る車輪の音が近づき、止まる。
乗合馬車が到着したのね。
大きな乗合馬車から人が続々と降りてくる。迎えにきた人たちも多くてたちまち停留所がある広場は混雑した。
私はカフェテラスから、彼の姿を探す。
手紙には「今日の馬車で帰る」と書いてあったのに、彼の姿が見当たらない。
あんなに目立つ彼を見つけられないなんてことある?
何かあったの?
心配になった私は、一緒にテーブルを囲んでい顔見知りの一人にお金を渡す。支払いをお願いして立ち上がった。
人混みをかき分け、到着した乗合馬車の中を覗いても、そこにはもう誰もいない。
騎士学校を卒業したことを、明日領主様に報告したら彼は正式に騎士として認められることになる。
それは名誉なことだけど、領主様や王様たちを守るために戦わなくちゃいけなくなる。
もしかして怖くなってしまったのかしら……
そんなことを考えていたら、私を呼ぶ声が聞こえた。
彼の声? でも聞き慣れた声よりも、落ち着いて低い。
振り返った先には精悍な騎士服姿の青年が立っていた。
「誰?」
私の後を追いかけてきた顔見知り達は、青年を見て気色ばむ。
日に焼けた肌に引き締まった筋肉質の身体はまるで絵に描いたような騎士様だ。
目の前の青年はもう一度私の名前を呼ぶ。
「貴女の婚約者である『白豚令息』はもういない」
そうね。
これだけ探しても『白豚令息』はこの場にいない。
私は確信した。
「言いたいのはそれだけ?」
『白豚令息』が現れなかった事を馬鹿にしたように笑っている顔見知りたちを無視して、私は目の前の青年を睨む。
「……ただいま」
ためらいがちにそう言った青年に、私は笑顔を向ける。
「おかえりなさい」
そして、私は彼の名前を呼ぶ。
──彼は三年間の騎士学校生活でしごかれて『白豚令息』ではなくなっていた。
いつのまにか私が精悍な騎士の婚約者になっていたなんて。
思ってもみなかった出来事に驚いている周りの声を聞きながら、私は彼に抱きしめられた。
~完~
「友達が『白豚令息』と結婚するなんて、助けてあげたいけれど、私たちはなんの力もないから、助けてあげられなくて申し訳ないわぁ」
よく言うわ。
クスクスと嘲るように笑う、ただの顔見知りでしかない彼女たちは、私と同じカフェのテーブルでお茶を飲んでいる。
なんて、くだらない時間なのかしら。
私はそう独りごちた。
彼は王国の騎士として男爵位をお持ちの父親と商家のお嬢様だった母親の間に、遅くに生まれた一人息子で、それはもう可愛がって育てられていた。
男爵位を継ぐためには騎士にならなくてはいけないのに、剣どころか棒の一本も握ることすらなく成長した。
三年前に騎士学校に向かう馬車を待つ、臆病者な彼が、肉付きのいい身体を不安で縮めて震わせていた姿を思い出す。
許嫁なんて言ってるけれど、親同士が結婚させようと私たちが生まれた時に勝手に話していただけで、正式に婚約者というわけではない。
ないけれど、私は彼と結婚するんだろうなと思っている。
そりゃ、小さい頃は病弱であまり外にも出ずに育って、真っ白でぽっちゃりしていて、おどおどしている彼の見た目はお世辞にもカッコいいとは言えない。
でも彼は誰よりも私に優しい。
おじさんやおばさんだって私にとてもよくしてくれる。
彼らと過ごす時間は穏やかで心が安らぐ。私の大好きな時間だ。
名ばかり貴族の責任を守るために、見た目だけ気遣う嫌味な男に嫁ぐくらいなら、彼に嫁ぎたい。
私はそう思っている。
石畳を走る車輪の音が近づき、止まる。
乗合馬車が到着したのね。
大きな乗合馬車から人が続々と降りてくる。迎えにきた人たちも多くてたちまち停留所がある広場は混雑した。
私はカフェテラスから、彼の姿を探す。
手紙には「今日の馬車で帰る」と書いてあったのに、彼の姿が見当たらない。
あんなに目立つ彼を見つけられないなんてことある?
何かあったの?
心配になった私は、一緒にテーブルを囲んでい顔見知りの一人にお金を渡す。支払いをお願いして立ち上がった。
人混みをかき分け、到着した乗合馬車の中を覗いても、そこにはもう誰もいない。
騎士学校を卒業したことを、明日領主様に報告したら彼は正式に騎士として認められることになる。
それは名誉なことだけど、領主様や王様たちを守るために戦わなくちゃいけなくなる。
もしかして怖くなってしまったのかしら……
そんなことを考えていたら、私を呼ぶ声が聞こえた。
彼の声? でも聞き慣れた声よりも、落ち着いて低い。
振り返った先には精悍な騎士服姿の青年が立っていた。
「誰?」
私の後を追いかけてきた顔見知り達は、青年を見て気色ばむ。
日に焼けた肌に引き締まった筋肉質の身体はまるで絵に描いたような騎士様だ。
目の前の青年はもう一度私の名前を呼ぶ。
「貴女の婚約者である『白豚令息』はもういない」
そうね。
これだけ探しても『白豚令息』はこの場にいない。
私は確信した。
「言いたいのはそれだけ?」
『白豚令息』が現れなかった事を馬鹿にしたように笑っている顔見知りたちを無視して、私は目の前の青年を睨む。
「……ただいま」
ためらいがちにそう言った青年に、私は笑顔を向ける。
「おかえりなさい」
そして、私は彼の名前を呼ぶ。
──彼は三年間の騎士学校生活でしごかれて『白豚令息』ではなくなっていた。
いつのまにか私が精悍な騎士の婚約者になっていたなんて。
思ってもみなかった出来事に驚いている周りの声を聞きながら、私は彼に抱きしめられた。
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