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1章
第23話 聖女はマーメイドがお好き
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吹雪から逃れたわたしたちは洞窟の中を進んでいく。
「ミーちゃん、長い洞窟だね……どこかへ繋がってるのかな?」
「なんにせよ助かったね。あのまま外にいるのは危険だったし」
「あ、お姉さま。足下が滑りますのでお気を付けくださいませ」
「うん、ありがとう……うわっ!?」
「ちょっ!? クーちゃんどこ触ってるの!?」
「だってぇ、暗くって……えっと……壁……壁は……」
「ちょわっ!? だ、だからそこは……ふぁっ!?」
「ちょっとミミさん! 暗がりに乗じてお姉さまといい感じにならないでくださる!?」
「トラブルだっての!」
「……あ、見てふたりとも! すごい! 泉だよ!」
暗い通路を抜けるとまばゆい光に目を細めた。
泉だ。
底が虹色に輝いている。
「すごい……七色に輝いてる……」
「魔法石ですわお姉さま……」
ベルちゃんが吸い寄せられるように泉をのぞき込んだ。
「泉の底で魔法石が輝いておりますの……このような魔法石、めったにお目にかかれるものではありませんわ……」
「ってことは、誰にも見つけられてない泉ってこと?」とミーちゃん。
「ええ……もし見つけられていたら、このような希少な魔法石など取り付くされてしまっていたでしょう……」
「す、すごい! わたしたち秘境を見つけちゃったんだ!」
うっとりと虹色に輝く泉を見つめる。
「…………はぁ~」
ほんとうに、なんて美しい輝き……。
いつまでも見ていられちゃいそう……。
「クーちゃん、あんまり覗きすぎると落ちちゃうよ」
「うん、壁に手をついてるから大丈夫」
……グラグラグラ
「あ、れ?」
――ドゴン!
「わっ!?」
突然、壁の感触がなくなり大きく体がかしいだ。
なんと、壁が崩れてなくなっていた。
「わっ! わわっ!」
あわてて手を伸ばしてみてももう遅い。
「わ~っ!?」
「クーちゃん!?」
ドボーン!
崩れた壁の向こう側にも水が流れていた。
「お姉さまぁっ!」
「クーちゃああああああんっ!」
「ぶくぶくぶくぶく…………」
流れには逆らえず、わたしはどんどん流されていってしまった。
――――――――
――――
――。
*
「――ハッ!?」
「あ、目が覚めたみたいね」
「……え?」
ぼんやりとした視界。
未だ夢うつつのまま目をこすると、美しいお姉さんが微笑んでいた。
「…………」
お姉さん?
「まだ夢の中かな? お~い、起きろ~」
「あ、お、起きました……」
「そう? よかった」
「あ、あの、お姉さんは……?」
「うん、まずは自己紹介からだよね」
お姉さんはニコーッと微笑んだ。
「私はシィウェ。あなたが流されてきたのを見つけて陸に上げたの。実は忍者の子もいっしょに引き上げたんだけど、あの子はあなたの連れに無事を知らせに行くって走って行っちゃったわ」
「瑠々、ちゃん……」
ゆっくりと体を起こす。
「あ、あの、助けていただいてありがとうございます!」
「ホントはここ見つけられると命に関わるからちょっと迷ったんだけど、ま、見て見ぬフリなんてできないもんね。じゃ、出口まで案内するね」
「………あの」
「ん?」
「…………」
シィウェさんの体をまじまじと見つめる。
これ、これって……。
「あ、これ? 私、人魚なの」
シィウェさんはやさしく微笑んだ。
上半身は人間のそれで貝のビキニを付けているのに、下はお魚さんの尾ひれそのものだった。
「人魚を見たのは初めて?」
コクコクうなずく。
「まあ、珍しいもんね」
「…………」
人魚さんになんて、会えるわけない……。
ああそうか、これは夢なんだ……。
わたしは流されて、まだ夢の中にいるんだ……。
「美しい、です……」
「フフ、ありがと。そんなキラキラした目で言われると悪い気はしないな。じゃ、気を取り直して出口まで――」
「……いえ、そんなことよりも大切なお話があります」
立ち上がり、シィウェさんを見下ろした。
「ど、どうしたの? 目が怖いけど……」
「そのお洋服、脱いでください」
「…………え?」シィウェさんは目を丸くした。「お、お洋服って、この貝のビキニのこと?」
「いえ、そちらのことです」
わたしはシィウェさんの足を指差した。
尾ひれの足。
「えっと……いったいなにを言ってるのか……これは体の一部で脱ぐことなんてできないよ?」
「本当ですか? ――ふん!」
尾ひれをつかんでかかと方向に引っ張った。
「いたっ!? いたたたたたたたっ!?」
「んぎぎぎぎっ!」
「ちょっ、いたい! いたいって!」
「ふむ……どうやら本当のようですね。申し訳ありません、試させてもらいました」
手を離すと、シィウェさんは尾ひれとお腹の境目をさすって笑った。
「人魚の肉が欲しいって斬りかかってきた人はいたけど、足を引き抜こうとしてきたのはあなたが初めてだよ……」
「ですが、こちらなら取れますね」
「え?」
後ろにまわり、スッと貝のビキニを外した。
とりあえず服の上からお胸に当ててみる。
「どうですか? 似合いますか?」
「な、ななな……っ!」
シィウェさんはおっぱいをぷるるんとさせながら目を見開いている。
弾力があって張りのあるいいおっぱいだ。
「さすが人魚さんのおっぱいですね。百点満点です」
「ちょー! ちょー! 返して! 私のビキニ返して!」
「あ」
バッ! と奪われてしまった。
シィウェさんは慌ててたわわに実る果実を貝の中に押し込んだ。
「こ、こういうことするのよくないんじゃないかな!?」
「わたしは貝になりたい」
「……は?」
「わたしは、あなたの貝になりたい」
「……大丈夫? 頭打った?」
頭は打っていないがこれは夢だ。
夢なのだからやりたい放題だ。
「しかし惜しいですね……人魚に『お着換え』なんて夢の中くらいでないと……夢なのだからなんとかならないものか……」
「あなた、さっきからなに言ってるの?」
「ふぅむ……」
顎に手を当て考える。
シィウェさんは少し不安げなおももちでわたしを見つめている。
「も、もうやめてよ?」
「あ、そうだ。ではわたしくらいのお魚さんを獲ってきていただけませんか?」
「え? それはべつにかまわないけど……食べるの?」
「いえ、そうではありません。ではお願いします」
「?」
バシャン
シィウェさんは怪訝な表情で泉に潜っていった。
「――ふう! ほら、獲ってきたよ」
すぐに戻ってきて、お魚さんを目の前に置いた。
ビチビチ!
「おお」
見たこともないビッグサイズだ。
悲しげな瞳で口をパクパクさせながら飛び跳ねている。
「生きがいいですね。それにサイズもぴったりです」
「サイズって……いったいなにをするの?」
「見ていればわかります。まずは、お洋服を脱ぎ脱ぎしてっと……」
ミーちゃんからもらった街娘のお洋服を脱いでいく。
シィウェさんの前でちょっと恥ずかしいけど、でも夢なんだから平気だ。
このシィウェさんはわたしが作り出した夢まぼろしでしかないのだから。
「ではいきます。よいしょっ、と……」
お魚さんの口を開いて、強引に足を突っ込んだ。
「な、なにしてるの!?」
「これはですね、服なんです」
「ふ、服?」
「ええ、服」
「服……」
お魚さんの中にすっぽりと収まると、お魚さんの体液がネチョネチョと体にくっついて少し身の毛がよだった。
でも大丈夫。だって夢だから。
わたしはまるでお魚さんの着ぐるみを着たみたいになる。
「ほら、なにやってるんですかお魚さん。気絶してないでちゃんと動いてください」
バンバン叩くと、
「っ!」
バシャーン!
お魚さんは勢いよく跳ねて泉に飛び込んだ。
「……って、ええっ!?」
*
「ブクブクブクブク……」
泉の中を泳いでいると、上からシィウェさんが追いかけてきた。
「あ、シィウェさん」
「ああもう! なにからツッコんだらいいのかわからない!」
「ギョッとしましたか?」
「ええ、ギョッとしたわ……」
「出口はどっちですか? あっちですか?」
「はぁ……あなたってすごかったのね……」
シィウェさんは諦めたように首を振った。
「出口はこっちよ。でも、岩の隙間を通らなくちゃいけないしかなり距離があるわ。大丈夫?」
「大丈夫です。今のわたしは人魚さんですから」
「人魚っていうか、魚を着被った変態っていう感じだけど……」
シィウェさんに先導されながら泉の中を進む。
「ま、でも結果的にはよかったかな。洞窟の道は崩落で一部めちゃくちゃになっちゃってて、あの忍者の子は通れたみたいだけど私たちは進めなかったかも」
水中の道は入り組んでいて、人魚さんに『お着換え』していなかったらとてもじゃないけど進めなかった。
「ふぃっしゅふぃっしゅふぃっしゅー♪ ふぃっしゅーを食べるとー♪ へっどへっどへっどー♪ へっどにいいのさー♪」
ふたりでフィッシュのテーマを口ずさみながら進んでいると出口に着いた。
上昇して水上に顔を出す。
――バシャーン!
「ぶふぅ! ……あれ?」
遠くに人影見えた。
ミーちゃんとベルちゃんだ。
「……?」
でも、なにやら様子がおかしい。
「離してくださいまし! 助けに行くのですわ!」
「だから瑠々が心配いらないって言ってたじゃん!」
「心配がなくなっても、また心配ができてしまったかもしれませんわ!」
「そ、そりゃクーちゃんならありえるけど、二重遭難になっちゃったらそれこそ目も当てられないって!」
「――ふたりとも、ケンカしちゃ、メッ! でしょ!」
「…………えっ!?」
ふたりは目を剥いた。
「ク、クーちゃん!?」
「お、お姉さま! 魚に食べられて……!」
ベルちゃんはわたしの人魚の格好を見て驚愕した。
「こ、この魚め! 成敗! 成敗してくれますわ!」
杖でベチベチ叩かれる。
「あっ、いたっ、いたたっ! やめ、やめて! ベルちゃんやめて! これは人魚さんに『お着換え』してるの!」
「……へ?」
「――オエッ!」
「あっ!?」
お魚さんは一瞬の隙を突いてわたしを吐き出し、
「ギョエエエエエエッ!!!!!」
と叫んで泉の中へ逃げ去ってしまった。
「ああ……お洋服が……」
「お姉さま、まさか魚に『お着換え』を……」
「はぁ、さすがクーちゃん。まったく心配いらなかったね」
ミーちゃんは苦笑いを浮かべ、胸を撫で下ろした様子だ。
「……ん? あれ?」
ハタと気が付いた。
ここにミーちゃんとベルちゃんがいて、わたしを心配してくれていた。
もちろんミーちゃんとベルちゃんは実在の人物だ。
と、いうことは……
「……えっ!? ゆ、夢じゃない!?」
と、ミーちゃんにつつかれた。
「ねえ、クーちゃん。そちらの美人さんは?」
「あ、こ、この人は、人魚のシィウェさん! 助けてもらったの!」
「に、人魚?」
わたしはシィウェさんに向き直り深く頭を下げた。
「シィウェさんごめんなさい! わたしてっきり夢だと思って失礼なことばかり……!」
「それにお姉さま、下着ですわ……」
「うん、さすがに初対面の人の前で下着っていうのはちょっと……」
「あ、あううっ……!」
思わず顔を手で覆ってしまう。
顔を見られない。
「――ふふっ」
「……え?」
顔を上げると、シィウェさんは口をおさえて必死に笑いを噛み殺していた。
「あ、あはは……っ! あ、あなたたち愉快なパーティーね……! こ、こんなにおかしいのは久しぶり……私、あなたたちのこと大好きよ!」
*
「じゃあね~シィウェさ~ん! バイバ~イ!」
笑顔のシィウェさんに別れを告げて再び白銀の世界へ。
「うぅ……!」
身を切る寒さは相変わらずだけど、恥ずかしさのあまり熱を持った体と浮かれてた頭を冷やすにはもってこいではあるのかもしれない。
それに、シィウェさんが言うにはもう少しでこの寒さと雪とはおさらばできるとのこと。 なんと城までの道のりには街もあるらしい。
「街!」
また素敵なお洋服に出会えそう!
ルンルン気分で吹雪の中を進んでいった。
(つづく)
「ミーちゃん、長い洞窟だね……どこかへ繋がってるのかな?」
「なんにせよ助かったね。あのまま外にいるのは危険だったし」
「あ、お姉さま。足下が滑りますのでお気を付けくださいませ」
「うん、ありがとう……うわっ!?」
「ちょっ!? クーちゃんどこ触ってるの!?」
「だってぇ、暗くって……えっと……壁……壁は……」
「ちょわっ!? だ、だからそこは……ふぁっ!?」
「ちょっとミミさん! 暗がりに乗じてお姉さまといい感じにならないでくださる!?」
「トラブルだっての!」
「……あ、見てふたりとも! すごい! 泉だよ!」
暗い通路を抜けるとまばゆい光に目を細めた。
泉だ。
底が虹色に輝いている。
「すごい……七色に輝いてる……」
「魔法石ですわお姉さま……」
ベルちゃんが吸い寄せられるように泉をのぞき込んだ。
「泉の底で魔法石が輝いておりますの……このような魔法石、めったにお目にかかれるものではありませんわ……」
「ってことは、誰にも見つけられてない泉ってこと?」とミーちゃん。
「ええ……もし見つけられていたら、このような希少な魔法石など取り付くされてしまっていたでしょう……」
「す、すごい! わたしたち秘境を見つけちゃったんだ!」
うっとりと虹色に輝く泉を見つめる。
「…………はぁ~」
ほんとうに、なんて美しい輝き……。
いつまでも見ていられちゃいそう……。
「クーちゃん、あんまり覗きすぎると落ちちゃうよ」
「うん、壁に手をついてるから大丈夫」
……グラグラグラ
「あ、れ?」
――ドゴン!
「わっ!?」
突然、壁の感触がなくなり大きく体がかしいだ。
なんと、壁が崩れてなくなっていた。
「わっ! わわっ!」
あわてて手を伸ばしてみてももう遅い。
「わ~っ!?」
「クーちゃん!?」
ドボーン!
崩れた壁の向こう側にも水が流れていた。
「お姉さまぁっ!」
「クーちゃああああああんっ!」
「ぶくぶくぶくぶく…………」
流れには逆らえず、わたしはどんどん流されていってしまった。
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――――
――。
*
「――ハッ!?」
「あ、目が覚めたみたいね」
「……え?」
ぼんやりとした視界。
未だ夢うつつのまま目をこすると、美しいお姉さんが微笑んでいた。
「…………」
お姉さん?
「まだ夢の中かな? お~い、起きろ~」
「あ、お、起きました……」
「そう? よかった」
「あ、あの、お姉さんは……?」
「うん、まずは自己紹介からだよね」
お姉さんはニコーッと微笑んだ。
「私はシィウェ。あなたが流されてきたのを見つけて陸に上げたの。実は忍者の子もいっしょに引き上げたんだけど、あの子はあなたの連れに無事を知らせに行くって走って行っちゃったわ」
「瑠々、ちゃん……」
ゆっくりと体を起こす。
「あ、あの、助けていただいてありがとうございます!」
「ホントはここ見つけられると命に関わるからちょっと迷ったんだけど、ま、見て見ぬフリなんてできないもんね。じゃ、出口まで案内するね」
「………あの」
「ん?」
「…………」
シィウェさんの体をまじまじと見つめる。
これ、これって……。
「あ、これ? 私、人魚なの」
シィウェさんはやさしく微笑んだ。
上半身は人間のそれで貝のビキニを付けているのに、下はお魚さんの尾ひれそのものだった。
「人魚を見たのは初めて?」
コクコクうなずく。
「まあ、珍しいもんね」
「…………」
人魚さんになんて、会えるわけない……。
ああそうか、これは夢なんだ……。
わたしは流されて、まだ夢の中にいるんだ……。
「美しい、です……」
「フフ、ありがと。そんなキラキラした目で言われると悪い気はしないな。じゃ、気を取り直して出口まで――」
「……いえ、そんなことよりも大切なお話があります」
立ち上がり、シィウェさんを見下ろした。
「ど、どうしたの? 目が怖いけど……」
「そのお洋服、脱いでください」
「…………え?」シィウェさんは目を丸くした。「お、お洋服って、この貝のビキニのこと?」
「いえ、そちらのことです」
わたしはシィウェさんの足を指差した。
尾ひれの足。
「えっと……いったいなにを言ってるのか……これは体の一部で脱ぐことなんてできないよ?」
「本当ですか? ――ふん!」
尾ひれをつかんでかかと方向に引っ張った。
「いたっ!? いたたたたたたたっ!?」
「んぎぎぎぎっ!」
「ちょっ、いたい! いたいって!」
「ふむ……どうやら本当のようですね。申し訳ありません、試させてもらいました」
手を離すと、シィウェさんは尾ひれとお腹の境目をさすって笑った。
「人魚の肉が欲しいって斬りかかってきた人はいたけど、足を引き抜こうとしてきたのはあなたが初めてだよ……」
「ですが、こちらなら取れますね」
「え?」
後ろにまわり、スッと貝のビキニを外した。
とりあえず服の上からお胸に当ててみる。
「どうですか? 似合いますか?」
「な、ななな……っ!」
シィウェさんはおっぱいをぷるるんとさせながら目を見開いている。
弾力があって張りのあるいいおっぱいだ。
「さすが人魚さんのおっぱいですね。百点満点です」
「ちょー! ちょー! 返して! 私のビキニ返して!」
「あ」
バッ! と奪われてしまった。
シィウェさんは慌ててたわわに実る果実を貝の中に押し込んだ。
「こ、こういうことするのよくないんじゃないかな!?」
「わたしは貝になりたい」
「……は?」
「わたしは、あなたの貝になりたい」
「……大丈夫? 頭打った?」
頭は打っていないがこれは夢だ。
夢なのだからやりたい放題だ。
「しかし惜しいですね……人魚に『お着換え』なんて夢の中くらいでないと……夢なのだからなんとかならないものか……」
「あなた、さっきからなに言ってるの?」
「ふぅむ……」
顎に手を当て考える。
シィウェさんは少し不安げなおももちでわたしを見つめている。
「も、もうやめてよ?」
「あ、そうだ。ではわたしくらいのお魚さんを獲ってきていただけませんか?」
「え? それはべつにかまわないけど……食べるの?」
「いえ、そうではありません。ではお願いします」
「?」
バシャン
シィウェさんは怪訝な表情で泉に潜っていった。
「――ふう! ほら、獲ってきたよ」
すぐに戻ってきて、お魚さんを目の前に置いた。
ビチビチ!
「おお」
見たこともないビッグサイズだ。
悲しげな瞳で口をパクパクさせながら飛び跳ねている。
「生きがいいですね。それにサイズもぴったりです」
「サイズって……いったいなにをするの?」
「見ていればわかります。まずは、お洋服を脱ぎ脱ぎしてっと……」
ミーちゃんからもらった街娘のお洋服を脱いでいく。
シィウェさんの前でちょっと恥ずかしいけど、でも夢なんだから平気だ。
このシィウェさんはわたしが作り出した夢まぼろしでしかないのだから。
「ではいきます。よいしょっ、と……」
お魚さんの口を開いて、強引に足を突っ込んだ。
「な、なにしてるの!?」
「これはですね、服なんです」
「ふ、服?」
「ええ、服」
「服……」
お魚さんの中にすっぽりと収まると、お魚さんの体液がネチョネチョと体にくっついて少し身の毛がよだった。
でも大丈夫。だって夢だから。
わたしはまるでお魚さんの着ぐるみを着たみたいになる。
「ほら、なにやってるんですかお魚さん。気絶してないでちゃんと動いてください」
バンバン叩くと、
「っ!」
バシャーン!
お魚さんは勢いよく跳ねて泉に飛び込んだ。
「……って、ええっ!?」
*
「ブクブクブクブク……」
泉の中を泳いでいると、上からシィウェさんが追いかけてきた。
「あ、シィウェさん」
「ああもう! なにからツッコんだらいいのかわからない!」
「ギョッとしましたか?」
「ええ、ギョッとしたわ……」
「出口はどっちですか? あっちですか?」
「はぁ……あなたってすごかったのね……」
シィウェさんは諦めたように首を振った。
「出口はこっちよ。でも、岩の隙間を通らなくちゃいけないしかなり距離があるわ。大丈夫?」
「大丈夫です。今のわたしは人魚さんですから」
「人魚っていうか、魚を着被った変態っていう感じだけど……」
シィウェさんに先導されながら泉の中を進む。
「ま、でも結果的にはよかったかな。洞窟の道は崩落で一部めちゃくちゃになっちゃってて、あの忍者の子は通れたみたいだけど私たちは進めなかったかも」
水中の道は入り組んでいて、人魚さんに『お着換え』していなかったらとてもじゃないけど進めなかった。
「ふぃっしゅふぃっしゅふぃっしゅー♪ ふぃっしゅーを食べるとー♪ へっどへっどへっどー♪ へっどにいいのさー♪」
ふたりでフィッシュのテーマを口ずさみながら進んでいると出口に着いた。
上昇して水上に顔を出す。
――バシャーン!
「ぶふぅ! ……あれ?」
遠くに人影見えた。
ミーちゃんとベルちゃんだ。
「……?」
でも、なにやら様子がおかしい。
「離してくださいまし! 助けに行くのですわ!」
「だから瑠々が心配いらないって言ってたじゃん!」
「心配がなくなっても、また心配ができてしまったかもしれませんわ!」
「そ、そりゃクーちゃんならありえるけど、二重遭難になっちゃったらそれこそ目も当てられないって!」
「――ふたりとも、ケンカしちゃ、メッ! でしょ!」
「…………えっ!?」
ふたりは目を剥いた。
「ク、クーちゃん!?」
「お、お姉さま! 魚に食べられて……!」
ベルちゃんはわたしの人魚の格好を見て驚愕した。
「こ、この魚め! 成敗! 成敗してくれますわ!」
杖でベチベチ叩かれる。
「あっ、いたっ、いたたっ! やめ、やめて! ベルちゃんやめて! これは人魚さんに『お着換え』してるの!」
「……へ?」
「――オエッ!」
「あっ!?」
お魚さんは一瞬の隙を突いてわたしを吐き出し、
「ギョエエエエエエッ!!!!!」
と叫んで泉の中へ逃げ去ってしまった。
「ああ……お洋服が……」
「お姉さま、まさか魚に『お着換え』を……」
「はぁ、さすがクーちゃん。まったく心配いらなかったね」
ミーちゃんは苦笑いを浮かべ、胸を撫で下ろした様子だ。
「……ん? あれ?」
ハタと気が付いた。
ここにミーちゃんとベルちゃんがいて、わたしを心配してくれていた。
もちろんミーちゃんとベルちゃんは実在の人物だ。
と、いうことは……
「……えっ!? ゆ、夢じゃない!?」
と、ミーちゃんにつつかれた。
「ねえ、クーちゃん。そちらの美人さんは?」
「あ、こ、この人は、人魚のシィウェさん! 助けてもらったの!」
「に、人魚?」
わたしはシィウェさんに向き直り深く頭を下げた。
「シィウェさんごめんなさい! わたしてっきり夢だと思って失礼なことばかり……!」
「それにお姉さま、下着ですわ……」
「うん、さすがに初対面の人の前で下着っていうのはちょっと……」
「あ、あううっ……!」
思わず顔を手で覆ってしまう。
顔を見られない。
「――ふふっ」
「……え?」
顔を上げると、シィウェさんは口をおさえて必死に笑いを噛み殺していた。
「あ、あはは……っ! あ、あなたたち愉快なパーティーね……! こ、こんなにおかしいのは久しぶり……私、あなたたちのこと大好きよ!」
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「じゃあね~シィウェさ~ん! バイバ~イ!」
笑顔のシィウェさんに別れを告げて再び白銀の世界へ。
「うぅ……!」
身を切る寒さは相変わらずだけど、恥ずかしさのあまり熱を持った体と浮かれてた頭を冷やすにはもってこいではあるのかもしれない。
それに、シィウェさんが言うにはもう少しでこの寒さと雪とはおさらばできるとのこと。 なんと城までの道のりには街もあるらしい。
「街!」
また素敵なお洋服に出会えそう!
ルンルン気分で吹雪の中を進んでいった。
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桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
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