「殿下、婚約を解消しましょう」

本編

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　階段から落とされるなんて、悪役令嬢にヒロインがよくやられる虐めで。
　虐めじゃなくて殺人未遂だって話によくなるけれど、実際それで死んだヒロインは見たことがないのでどこか甘く思っていた節があった。ゲームだし。

　けれど実際に階段から落ちてみると体がまともに動かせなくなった。
　思考に問題はないようなので、頭を打ったんじゃなく、脊髄とかどっかその辺りにダメージを受けたんだと思う。
　もっとも昔やった乙女ゲームの中のヒロインになっていたことに気づいたのが、妄想じゃないならだけど。

　前世でということになるんだろうか？
　この体の持ち主が主人公の乙女ゲームの王太子様ルートに廃人になるほどはまっていた。
　似非中世ヨーロッパ風六年間の学園物で、ヒロインが入学したときには二つ上に王太子様、一つ上にその婚約者が居た。
　他にも攻略対象はいてそっちのルートに行くと学園物のはずなのに何故か聖女になって魔王と戦ったりとかするんだけど、あまり興味なかった。
　とにかく王太子様が好きだった。なのでそのルートを突き進んだ。
　当然その婚約者と摩擦が起こらないはずがない。
　だから彼女は悪役令嬢と呼ばれた。

　そんな理由でゲームでは階段から落とされたイベントは体験済みなんだけど……あれ確かランダムで軽傷か奇跡的にほとんど怪我がないかのどっちかじゃなかったっけ？　ちなみに怪我は上手く使えば悪役令嬢を婚約破棄に追い込むのに使えるのでパラメによっては怪我をした方が有利だったりした。
　けど、こうなるとそれどころじゃないよね。
　すぐに王太子様が駆けつけてくれるはずなのに殿下来て下さらないし……そんな都合よく行かないってことか。
　ああ、殿下は本当に素敵だった。スチルの何倍も笑顔が好きだった。
　ヘッドホンも結構いいやつ買ってたつもりだったけど、直接聞く声の破壊力はそんなものじゃなかった。さすがにヘッドホンほどの近くで囁かれたことはないけどさ。
　何よりお優しかった。
　多分、前世がなくても恋をしていたんだろうな。周りのみんなと同じように。

　現実じゃ、ヒロインにはなれなかったね。
　それともこれは夢なのかな？　だって痛みは感じないもの。
　けど夢なのに眠いんだね……。

　そうして永遠の眠りについた。
　つまりあたしはまた命を落とした。

　……はずだった。