恋人は前世を思い出さない

こうやさい

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恋人は前世を思い出さない

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「オマエが好きなのってオレじゃねえだろ」
 それが今世で聞いた彼の最後の言葉だった。

 私の前世は異世界の超能力者、あるいは霊能力者だった。
 能力といっても正直何の役にも立たないと思っていた生き物の魂を見分けられるというもの。
 転生して人の顔をなかなか見分けられないことに愕然として、実は有用な能力だったことに失って初めて気づいた。
 ちなみに魂というのはわりと形は個性的で、転生の回数が年輪のように刻まれている。どうやって生まれるのか、消えることがあるのかそれは知らない。

 それ以外の物を否定という形での科学バリバリなご時世のうえ、特に役に立たないと思っていた能力なので、前世でひけらかすことはなかった。
 恋人を魂の綺麗さで選んだということもない、そもそも向こうが告って来たんだし。
 けれどその形ははっきりと覚えている。前世の記憶はおぼろげな部分も多いというのに。
 その恋人だが、実は早々に死に別れた。彼の病気だった。
 ある意味お決まりの「生まれ変わったらずっと一緒にいよう」という言葉を残した彼の魂がいなくなったことを覚えている。

 その後の自分がどうなったかは都合よくか悪くかは思い出せない、ショックのせいかもしれないし、すぐに後追い自殺でもしたのかもしれない。
 それでも恋人と来世では意地でも再会する気はあったらしく、能力は無くなっているはずなのに彼の魂はぼんやりとみえてしまった。世界すら違うのに会えるなんて思っていなかった。
 「一目見て貴方だと思いました」と、嘘ではないが一目惚れだと誤解されそうな事を言って、何とか友達になるまでは漕ぎ着けた。
 後は前世を思い出してくれればあの時間を取り戻せると、前世の世界に似た設定の漫画を貸したり、想い出のセリフを言ってみたり、前世の趣味に絶対好きだからと誘ってみたり、会いたい一心で頑張った。
 けれどそれを彼は今世の自分をないがしろにしていると感じたらしい。

「オマエが好きなのってオレじゃねえだろ」

 ああ少しは私のことを好きになってくれてたんだなといまさらながら分かったけれど、すべては遅かった。
 いいわけももうできない。
 私たちは、あるいは彼は運命に呪われているのかもしれない。
 そのセリフを吐いて身を翻した直後、彼はトラックに突っ込まれた。ドラマでもここまで見事なのはないだろう。
 自覚のないまま座り込んだ後気づいたのは、今世では始めて魂がはっきりと見えたということだった。
 彼の体から抜け出てしまったせいだろう。
 その形を懐かしいと逃避気味に思いながらも違和感を覚える。
 そして気づいた、転生の回数が明らかに少ない。

 最初は、世界すら越えたのだから時間軸が一方向ではなかったのかと思った。彼の過去の魂の傍に転生したのかと。
 けれどそうじゃない。
 思い出さなければいけないのは私の方だった。
 彼は病気になった。あの時代でも不治の病だった。
 だからその原因を取り除いたクローンを作り、思考パターンや記憶やありとあらゆる個人情報をそこにコピーした。新しい体に生まれ変わったといってもいい、少なくともあの時彼が言ったのはそちらの意味だ。
 事実何の違和感も覚えなかった、
 そこにあった魂は別のものだった。
 今まで思っていた以上に、私は魂を重要視していたらしい。
 その違和感に耐えられなくなった私は逃避するように研究にのめりこんだ。
 タイムマシンの。
 過去へ行き彼自身から病気の原因を取り除けば病気自体なかったことになると。
 タイムパラドックスとか欠片も悩んだ記憶がない。すでに狂っていたのだろう。
 けれどもどうシミュレーションしてもありとあらゆるものを過去へと送ることはできなかった。音も電波も光すら。
 行き詰まった私はならば科学でシミュレート出来ないものを送ればいいと発想の転換をした。
 その条件に当てはまる魂というものの存在を知っていたから。
 それからはどうやって魂を物質から取り出すかを研究した。
 そして自分の魂を肉体から取り出し過去に送ることには成功した。
 けれど試験すらまともに出来なかった代物が希望通りの結果を生むはずがない。
 目的の瞬間は暇もなく通り過ぎてしまった。なんの干渉できなかった。
 その後偶発的に辿り着いた目標を大きく外れた過去で、魂は肉体を得ていろいろ忘れた中途半端な状態になってしまったのだろう。
 ここは異世界ではなく、歴史の教科書の中にあった文明の中に違いない。

 ならば彼が思い出すわけがない、彼はまだ前世の私に会っていない。

 魂も重要であることは謀らずとも自分で体感してしまった。だからクローンでは駄目だった。
 けれど魂だけでも駄目だったのだろう。思い出させることに固執したのだから。
 それとも私の記憶のない魂だったからだろうか?
 答えはもうきっと永遠にでない。

 彼の魂はこれから私に会って、また別れてしまうのだろう。
 私はもう彼に会えないのだろうか?
 ただ一緒にいたかった。
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