スキル・スローライフってむしろ苦労しそう

スキル・スローライフってむしろ苦労しそう

「すろうらいふ？」
　スキルを判定してくれた神官は明らかに意味が分かっていなかった。


　この世界の人間は五歳の時スキルを判定される。
　……判定されるだけで発現はしない辺り微妙だと思うが、ま、五歳だ。
　特にやりたいことがないならそちらに進めばいいし、それでもやりたいことがあるならこの年齢としから努力すればある程度は形になる。
　そもそもスキルは必ず発現するとは限らない訳だし。
　それでもやりたいこととスキルとが合っているに越したことはない。

　この世界、などという言い方をスキル判定をされる年齢ごさいじの俺がするのには理由がある。
　なんてことはない、今となってはあちらが異世界となる地球の日本という国で三十年ほど過ごした記憶があるそれだけだ。
　別に特別な人間だったというわけではないのだが、なぜか記憶を持ったまま異世界に転生してしまった。
　どれくらい普通だったかというと、社畜だったといえば……それでも仕事があるだけマシだと弟は言ってたが、お前の場合は性格の問題だろう。

　弟曰く、社畜という生き物は異世界に転生してスローライフをする事に憧れなければならないらしい。
　適当に聞き流していたが、転生に気づいた時醜態をさらしたり異質な行動を取ってつまはじきにされなかったのはそのおかげだと思うので感謝はしている。
　けれどスローライフに憧れを持つというのがいまいち分からない。
　もともとはゆとりある生活という意味だったようようだが、弟のニュアンスでは田舎暮らし、極論自給自足を指していなかっただろうか？
　バカンスという意味なら憧れなくもない。
　中学生ぐらいの時は釣りが好きだったし、大学生の時はバーベキューもやった。
　たまになら確かに楽しいだろう。
　けれどそれを毎日？
　正直料理は好きではないし、体を動かすよりはじっとしていた方が好きだ。
　仕事内容が嫌なものではなく大きな挫折もなかったことと、自分で原材料を調達どころか料理をしなくても生きていける環境があったから言えるセリフだと転生してから分かったが。
　完全自給ではさすがにないが、似たような生活を今世でして思った事は、会社で働いて稼いだ給金でコンビニ弁当を買う生活の方が俺には向いているということだった。向き不向きがはっきりしているので任せられるものは任せて対価を支払った方が効率がいい。
　ゆとりという意味では田舎暮らしは下手をすれば社畜よりない。長期に休めば席がなくなるという脅し文句もあったが、農作業は下手に休むともろに取り返せない。
　……一応助け合い精神とやらで少しならば村ぐるみで面倒を見てくれるのだが、長期になったり、飢饉になったりしたら正直続かないよなぁ。村のための積み立ては村長が一応やってるけど、個人の貯金といわれると心許ない。
　子供が多いことが吉と出るか凶と出るかもわりと微妙だろう。

　で、俺は完全に凶と出た方で、家は兄が継ぐ気満々というか、歳が離れているせいもあり既に結婚までしているので、あと五年もすれば恐らく出稼ぎにという名の口減らしに行かされるのはこっちだろう。
　なのでスキルは期待してた。超期待してた。ただでさえ前世の恩恵が忘れられないし、そうじゃなくとも今やりたい仕事はないし、出来そうな事は多い方がいい。
　けどこの分じゃ向いた職業どころか役に立つ立たないではなく前例がない。そして意味もわからない。
　ゆとりある生活の方なのか、自給自足がうまく出来るようになるの方なのか、それ以外なのか。
　ゆとりある生活の場合具体的に何が出来るか分からない。
　自給自足が上手くできるは作業の効率化によって結果的にゆとりも出来そうだが、だから俺は働きに行かされるんだって。残ることは現状出来ないだろうし、出稼ぎ先で任される仕事に役に立つとも思えない。
　就ける職業にもよるとはいえそちらの生活の方が理想に近いはずなのだが……やっぱちょっと期待してたんだなスキル。前世ではなかったし、精神に肉体相応な部分もあるし。
　いや自給自足したいとはそれでも一向に思ってないけど。


　……てか、将来より先にこの神官にフォロー入れなきゃならないような。