プロジェクトから外されて幸せになりました

こうやさい

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プロジェクトから外されて幸せになりました

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「プロジェクトを抜けろ、ですか」
 正直大詰めで上司の用事すら聞く時間が惜しいこの時期に、その上司に言われたのがこれでは言葉を理解することが出来ずオウム返しにするしかないだろう。
「そうだ。君は最近疲れているようだし、有給でもとってのんびりしたらどうだ?」
 それだけ聞くと優しい上司と思う人もいるだろうが、疲れているのは自分だけではないし、繰り返すが今は時間がない。
 どう考えても自分を追い出すための方便だ。
 これで自分が足を引っ張っているというなら、無能とはっきり言わなかった上司はある意味優しいかもしれないが、ここに呼ばれて席を外すときに「出来るだけ早く帰ってきて下さい」と縋るような目で一人を除いて言われたので何かの役には立っているはずだ。ただ道連れが多い方が心安まるだけかもしれないが。
 ちなみに言わなかった一人は意識を飛ばしていた。

 もともとこの部署的にはさほど重要ではないプロジェクトだった。というか数合わせとして出しただけで必要とも通るとも誰も思っていなかった。
 ところがどういう理由でだか上の方の誰かの目にとまり、進められることとなった。
 何でそんな曖昧にしか知らないかというと上司が通ったことと要望以上のことは言わなかったからだ。
 他所の部署から噂だけどと流れて来た話で、上司が上の方の人にゴマをするために「恐らくただ思いついただけでしょうが私が必ず仕上げさせてみせます」と言ったらしい。そして、手柄を独り占めするためにこちらへの情報を制限したと。
 ちなみに思いついただけなのは否定しない。
 で、大詰めという報告をもう自分でも完成されられると解釈して、手柄を横取りするために実質的にはリーダーである自分を遠ざけようって腹か。
 発表の時にいなければ印象に残りづらいし、場合によっては書類の不備とか理由をつけて名前を落とすかもしれない。訂正表をつけておけばあくまでも不備で通る。もちろんその上の人には違う訂正表をつけておく訳だけど。

「しかし疲れているのは皆も同じです。倒れたとでもいうならとにかくわたし一人休むわけには……」
 いや倒れる寸前なのは事実だが。てか、意識なかったあいつ大丈夫だろうか?
 しばし上司は黙り込んだ。
 あ、これ本気で全員休ませても完成できるかどうか考えてる顔だ。
 そこまでして気に入られたいヤツって誰だよ?
 ……もしかして別れた奥さんが上役って噂マジなのか?
「分かった。今日キリのいいところまで出来たら全員しばらく休みにしよう」
 あ、こいつ血迷いやがった。
 とはいえ正直無茶ぶりが限界なので休ませてくれるならたぶんあいつらも拒否しないというかする余裕がない。もともと愛着とかもって作ってるシロモノじゃないしな。
 ……が、ここでほいほいとのったら失敗したときの責任もおっかぶされるよな。確実にするだろうし。
「けれど何か起こったときの責任が……」
「責任は私が取る」
 言った。言いやがった。仕事してるかレコーダー。
「そこまでおっしゃって下さるなら。ですがわたしが伝えても信用されませんので書類で説明とサインと判子をいただけないでしょうか?」
 うん、こっちに責任転嫁されないためにね。
「……お前、信用されてないのか?」
 いや、こっちじゃなくてあんたが。
「いや、お恥ずかしい」
 けど今は舐められてるぐらいの方がやりやすい。

 こうして完成していないというのにチームは有給に入った。
 よし推理作家が泣いて喜ぶスマホの電波の入らない陸の孤島にでも行ったことにしとこう。
 確かに後が怖いが、死人が出るよりマシだ。

 ちなみに後はありませんでした。
 いやこっちが馘首になったんじゃなく、上司がすげ変わってました。
 プロジェクトが達成出来なかったせいなのか部下の扱いが酷いのがばれたせいなのかそれ以外が理由なのかはわかりません。
 心底あそこで追い出されて良かったです。
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