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「お前ごときが聖女だなんて間違っている」
これはわたくしの婚約者たる王子殿下のいつもの口癖です。
もっとも殿下は正確に聖女について知っている訳ではないでしょう。
ただわたくしとの婚約が気に食わないというだけのこと。
できれば婚約の破棄を。
それまでは叶わずともわたくしの立場を落とし、将来自分は好き勝手するつもりでしょう。
そう聞いてはいても、実際はどうでも、否定の言葉をかけられればついついうなだれてしまいます。
「もっと聖女らしくしろ」
続いた言葉に思わず嗤いが漏れます。それは初めて聞きました。
聖女じゃないことを婚約破棄の理由にする事も狙ってらしたようですのに、らしくしろだなんて……どなたかにばかにでもされたのかしら?
――わたくし、そう言われたら聞こうと思っていたことが以前からありましたの。
「始まりの聖女様のように、ですか?」
真顔に戻り顔を上げ尋ねます。この国で理想の聖女とされているのはあの方です。
「そうだ」
……本当に殿下は聖女というものを知りません。
普通ならば表向きの事くらいは学んでいるはずですしそれ以外も気づきはじめてもおかしくはないはずなのに、わたくしを厭うあまりにすべて拒否なさっているのでしょう。
始まりの聖女はそんな殿下ですら知っている、半分おとぎ話のようになっている存在です。
初代王に影のように寄り添い、支えたと言われている聖女だとか。
そんな風に出しゃばらず、ただ従っていろとおっしゃりたいのでしょうが。
それでよろしいんですの?
「殿下が本当にそう望まれるのでしたら従いますわ」
始まりの聖女以外にも聖女は今まで複数いたけれど、表舞台に出てきたのは長い歴史からすればここ最近、聖女は必ず王族かその関係者の伴侶となるよう決められてからです。
聖女は沈黙すべきともいえる成り立ちを持っていて、だからこそそれまではほぼ神殿の奥深くに住まい、表には出てこなかったのです。
それを知るものは神殿でも上の方々と、王侯貴族でも一部の方々。
当事者であるはずのわたくしですら真実を知る必要はなく、あまりにも聖女として無能であると思い込んで沈んでいたのを見かねてこっそりと教えて下さったくらいですから。
殿下が知るはずもありませんわね。
「できるなら最初からそうしろ」
「……では、そのように」
「お前、他の男をくわえ込んだそうだな!?」
「まぁ、品のないおっしゃり方」
あの日から半年以上わたくしを放っておいた殿下が、そう神殿に怒鳴り込んで参りました。
わたくしが神殿から出てこないのをいいことに遊びほうけていたと聞いていましてよ?
なのにわたくしが他の殿方と関係を持ったからって怒るだなんて。
婚約破棄を望んでいるのに自分が捨てられるのは嫌だなんてわがままですこと。
「わたくしは殿下の命に従っただけですわ」
これはわたくしの婚約者たる王子殿下のいつもの口癖です。
もっとも殿下は正確に聖女について知っている訳ではないでしょう。
ただわたくしとの婚約が気に食わないというだけのこと。
できれば婚約の破棄を。
それまでは叶わずともわたくしの立場を落とし、将来自分は好き勝手するつもりでしょう。
そう聞いてはいても、実際はどうでも、否定の言葉をかけられればついついうなだれてしまいます。
「もっと聖女らしくしろ」
続いた言葉に思わず嗤いが漏れます。それは初めて聞きました。
聖女じゃないことを婚約破棄の理由にする事も狙ってらしたようですのに、らしくしろだなんて……どなたかにばかにでもされたのかしら?
――わたくし、そう言われたら聞こうと思っていたことが以前からありましたの。
「始まりの聖女様のように、ですか?」
真顔に戻り顔を上げ尋ねます。この国で理想の聖女とされているのはあの方です。
「そうだ」
……本当に殿下は聖女というものを知りません。
普通ならば表向きの事くらいは学んでいるはずですしそれ以外も気づきはじめてもおかしくはないはずなのに、わたくしを厭うあまりにすべて拒否なさっているのでしょう。
始まりの聖女はそんな殿下ですら知っている、半分おとぎ話のようになっている存在です。
初代王に影のように寄り添い、支えたと言われている聖女だとか。
そんな風に出しゃばらず、ただ従っていろとおっしゃりたいのでしょうが。
それでよろしいんですの?
「殿下が本当にそう望まれるのでしたら従いますわ」
始まりの聖女以外にも聖女は今まで複数いたけれど、表舞台に出てきたのは長い歴史からすればここ最近、聖女は必ず王族かその関係者の伴侶となるよう決められてからです。
聖女は沈黙すべきともいえる成り立ちを持っていて、だからこそそれまではほぼ神殿の奥深くに住まい、表には出てこなかったのです。
それを知るものは神殿でも上の方々と、王侯貴族でも一部の方々。
当事者であるはずのわたくしですら真実を知る必要はなく、あまりにも聖女として無能であると思い込んで沈んでいたのを見かねてこっそりと教えて下さったくらいですから。
殿下が知るはずもありませんわね。
「できるなら最初からそうしろ」
「……では、そのように」
「お前、他の男をくわえ込んだそうだな!?」
「まぁ、品のないおっしゃり方」
あの日から半年以上わたくしを放っておいた殿下が、そう神殿に怒鳴り込んで参りました。
わたくしが神殿から出てこないのをいいことに遊びほうけていたと聞いていましてよ?
なのにわたくしが他の殿方と関係を持ったからって怒るだなんて。
婚約破棄を望んでいるのに自分が捨てられるのは嫌だなんてわがままですこと。
「わたくしは殿下の命に従っただけですわ」
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