「聖女らしくしろ」と婚約者たる殿下はおっしゃいますが

こうやさい

文字の大きさ
1 / 3

-1-

しおりを挟む
「お前ごときが聖女だなんて間違っている」
 これはわたくしの婚約者たる王子殿下のいつもの口癖です。
 もっとも殿下は正確に聖女について知っている訳ではないでしょう。
 ただわたくしとの婚約が気に食わないというだけのこと。
 できれば婚約の破棄を。
 それまでは叶わずともわたくしの立場を落とし、将来自分は好き勝手するつもりでしょう。
 そう聞いてはいても、実際はどうでも、否定の言葉をかけられればついついうなだれてしまいます。

「もっと聖女らしくしろ」
 続いた言葉に思わず嗤いが漏れます。それは初めて聞きました。
 聖女じゃないことを婚約破棄の理由にする事も狙ってらしたようですのに、だなんて……どなたかにばかにでもされたのかしら?
 ――わたくし、そう言われたら聞こうと思っていたことが以前からありましたの。
「始まりの聖女様のように、ですか?」
 真顔に戻り顔を上げ尋ねます。この国で理想の聖女とされているのはあの方です。
「そうだ」
 ……本当に殿下は聖女というものを知りません。
 普通ならば表向きの事くらいは学んでいるはずですしそれ以外も気づきはじめてもおかしくはないはずなのに、わたくしを厭うあまりにすべて拒否なさっているのでしょう。
 始まりの聖女はそんな殿下ですら知っている、半分おとぎ話のようになっている存在です。
 初代王に影のように寄り添い、支えたと言われている聖女だとか。
 そんな風に出しゃばらず、ただ従っていろとおっしゃりたいのでしょうが。
 それでよろしいんですの?

「殿下が本当にそう望まれるのでしたら従いますわ」

 始まりの聖女以外にも聖女は今まで複数いたけれど、表舞台に出てきたのは長い歴史からすればここ最近、聖女は必ず王族かその関係者の伴侶となるよう決められてからです。
 聖女は沈黙すべきともいえる成り立ちを持っていて、だからこそそれまではほぼ神殿の奥深くに住まい、表には出てこなかったのです。
 それを知るものは神殿でも上の方々と、王侯貴族でも一部の方々。
 当事者であるはずのわたくしですら真実を知る必要はなく、あまりにも聖女として無能であると思い込んで沈んでいたのを見かねてこっそりと教えて下さったくらいですから。
 殿下が知るはずもありませんわね。

「できるなら最初からそうしろ」
「……では、そのように」


「お前、他の男をくわえ込んだそうだな!?」
「まぁ、品のないおっしゃり方」
 あの日から半年以上わたくしを放っておいた殿下が、そう神殿に怒鳴り込んで参りました。
 わたくしが神殿から出てこないのをいいことに遊びほうけていたと聞いていましてよ?
 なのにわたくしが他の殿方と関係を持ったからって怒るだなんて。
 婚約破棄を望んでいるのに自分が捨てられるのは嫌だなんてわがままですこと。

「わたくしは殿下の命に従っただけですわ」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

帰還した聖女と王子の婚約破棄騒動

しがついつか
恋愛
聖女は激怒した。 国中の瘴気を中和する偉業を成し遂げた聖女を労うパーティで、王子が婚約破棄をしたからだ。 「あなた、婚約者がいたの?」 「あ、あぁ。だが、婚約は破棄するし…」 「最っ低!」

やり直し令嬢は何もしない

黒姫
恋愛
逆行転生した令嬢が何もしない事で自分と妹を死の運命から救う話

愚か者の話をしよう

鈴宮(すずみや)
恋愛
 シェイマスは、婚約者であるエーファを心から愛している。けれど、控えめな性格のエーファは、聖女ミランダがシェイマスにちょっかいを掛けても、穏やかに微笑むばかり。  そんな彼女の反応に物足りなさを感じつつも、シェイマスはエーファとの幸せな未来を夢見ていた。  けれどある日、シェイマスは父親である国王から「エーファとの婚約は破棄する」と告げられて――――?

召喚聖女が来たのでお前は用済みだと追放されましたが、今更帰って来いと言われても無理ですから

神崎 ルナ
恋愛
 アイリーンは聖女のお役目を10年以上してきた。    だが、今回とても強い力を持った聖女を異世界から召喚できた、ということでアイリーンは婚約破棄され、さらに冤罪を着せられ、国外追放されてしまう。  その後、異世界から召喚された聖女は能力は高いがさぼり癖がひどく、これならばアイリーンの方が何倍もマシ、と迎えが来るが既にアイリーンは新しい生活を手に入れていた。  

冤罪で殺された聖女、生まれ変わって自由に生きる

みおな
恋愛
聖女。 女神から選ばれし、世界にたった一人の存在。 本来なら、誰からも尊ばれ大切に扱われる存在である聖女ルディアは、婚約者である王太子から冤罪をかけられ処刑されてしまう。 愛し子の死に、女神はルディアの時間を巻き戻す。 記憶を持ったまま聖女認定の前に戻ったルディアは、聖女にならず自由に生きる道を選択する。

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

魔女の笑顔

豆狸
恋愛
アレハンドロはカルメンの笑顔を思い出せない。自分が歪めて壊してしまったからだ。

その婚約破棄喜んで

空月 若葉
恋愛
 婚約者のエスコートなしに卒業パーティーにいる私は不思議がられていた。けれどなんとなく気がついている人もこの中に何人かは居るだろう。  そして、私も知っている。これから私がどうなるのか。私の婚約者がどこにいるのか。知っているのはそれだけじゃないわ。私、知っているの。この世界の秘密を、ね。 注意…主人公がちょっと怖いかも(笑) 4話で完結します。短いです。の割に詰め込んだので、かなりめちゃくちゃで読みにくいかもしれません。もし改善できるところを見つけてくださった方がいれば、教えていただけると嬉しいです。 完結後、番外編を付け足しました。 カクヨムにも掲載しています。

処理中です...