「聖女らしくしろ」と婚約者たる殿下はおっしゃいますが

こうやさい

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 特に慌てもせずそう答えます。事実ですから慌てる必要もございません。
「そんな事は命じていない!!」
 ええ、そういう意味だと分かってらっしゃいませんでしたものね。
「いいえ? 始まりの聖女様のように聖女らしくしろとおっしゃったではありませんか」
 ですがおっしゃったのは事実です。
「それがどうして他の男に身体を許す理由になる!?」
 あら、言い方が少し上品になりましたわね。
「殿下、聖女のあり方はそれが正しいのです」
 何を言われたか分からないような表情の殿下に向かい続ける。
「本来、優秀になりえる人材を産み出すためのぼたいなのですよ」

 世界に危機が迫る前に対応が取れる人材を産み出すために神託に選ばれたと保護という名目で神殿に連れてこられた幼女のなれの果て――それが聖女です。
 直接的に世界を救うためにはこの世界で人から産まれなくてはならないそうで……不便ですこと。
 なのでわたくし自身には特殊な力はありません。
 強いていえば子供つよいのうりょくをもつそんざいの妊娠、出産で死ぬ危険性が他の方より少ないらしいというくらいでしょう。選ばれたからそうなったのか、そうだから選ばれたのかは分かりませんが。
 それでも人なのでそんなに多く産み続けることができる訳ではないですし、年齢を重ねても身体が若さを保ち続ける事もなく、産めなくなってからの寿命は短いですそうが。
 けれど産んだ子供達は歴史に倣うならことごとく優秀な人材に育ちます。
 なので神殿の奥深く、他の影響を遮断するために誰が父親か正確には分からないよう複数の男と同時期に関係を持ち、子を胎み、産み、その子を神が授けた子だとして様々なところに養子に出していたと。
 そうして世界は救われていたと。
 神殿以外ではそうと知られていない古の聖女の子供達の中には歴史書に名まで残したものが大勢います。
 勇者と呼ばれ異物まものを倒しつづけた者がいたり。
 賢者と言われ文明を進めた者がいたり。
 一国の王になった方もいらしたそうで。
 そしてその子らの救った世界がたやすく壊れぬように子孫を導いた者も。
 中には治癒魔法に優れ、何も知らない者達に聖女と混同された女性もいたそうです。
 ……というよりこちらを聖女のあり方だと信じている人の方が一般的な気も致します。かつてはわたくしもそうでしたし、殿下もそうなのでしょう。
 始まりの聖女と呼ばれた方は影のように支えていたというより特に何か目立つような特別な事がよくも悪くもできたわけではないというだけでしょう。
 それ以前に聖女がいなかったわけではないそうです。始まりの聖女がたまたまそれでも表に出てきただけのこと。
 王と男女の関係にあったかどうかは分かりませんわ、彼女の子が王位を継いだとはいわれているけれど、存在を利用しただけなのか、真実王と聖女の子であったのか、あるいは王の血を引いていない子だったのか、今更分かるはずもございません。
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