我が罪への供物

こうやさい

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産まれない子供

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 姉が優しげにまろく膨らんだお腹を撫でる。
 

 女性の腹部が大きくなれば妊娠と考える人は少なからずいるだろう。
 けれど当人はそういった現象が起こる心当たりがなければそんな発想をする訳はなく。
 最近めんどくさがって運動しないから太ってきたのかなぁ、と姉はわりとのんきにつぶやいていた。

 めんどくさがったわけではなく身体がだるくて動けなかったせいとか。
 腹部に溜まっていたのは水だったとか。
 病気の症状だと気づいた時には既にかなり進行していた。
 そのショックに耐えられなかった姉は、精神を壊した。

 あたしの血族には女性だけに伝える約束がある。
 海神に花嫁を捧げること。
 その約束を子孫に伝えること。
 花嫁というのは結局生け贄で海に放り込まれて死ぬことなのだけれど。

 今回嫁ぐのはあたしのはずだった。
 姉は残って子供を産み、そのことを伝えるはずだった。
 けれど姉がそう出来る可能性は低くなった。
 絶対治らないとは少なくともあたしには誰も直接いわなかったけれど、もしそうだとしても相当難しいし、時間もかかるとか。
 生きるか死ぬかの治療中に妊娠なんてしてはいけないではなく不可能だろうと。
 たとえ子供が産まれても姉からは伝えることは出来ないかもしれないと。

 だからだろうか。
 姉はお腹の中の水に向かってあなたのお父様は海神様なのよと話しかけている。
 そして頑なに治療みずをぬくのを拒んでいる。

 姉は別に嫁いでいないし。
 会ったこともないであろう海神との間に子供が生まれるはずもない。
 ただ人間よりは海水に近いものが溜まって淀んでゆく、それだけ。
 それが子供だったなら、必ず死ぬとは限らない。
 だから無意識にそう思い込もうとしているのだろう。

 叔母が、そんなに望むのならあたしではなく姉を海神に嫁がせようという。それが姉のためだと。
 実際は姉にはもう約束を伝えられないから立場を取り替えようというだけだろう。
 今の様子のおかしい姉ならば、ふらふらと抜け出して行方不明になったところで周りが疑われることも少ないだろうし。

 けれどもしかしたなら本当に。
 海神の側でなら姉は幸せになれるのかもしれない。
 本当に子供として産むこともあるかもしれない。

 妄想にすがりたくなるのは、結局あたしも同じだった。

 姉がゆっくりとお腹を撫でる。
 本当に愛おしそうに。
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