我が罪への供物

こうやさい

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選べないこと

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「あなたごときが海神様に選ばれると思って?」
 同い年の従姉は美しく傲慢で本当に勝手な人だった。

 私と従姉は父親が兄弟だった。
 比較的近所に住んでいたこともあり何かと比べられながらに育った。
 そう言いたいところだけれど。
 従姉は美しかった。顔も髪も声もほんの小さなころから何もかも。海沿いに住んでいるというのに肌も焼けず、それでも病的には見えない。これで母親似だというのならまだあきらめがつこうものだが父親似であることだけはそれでも間違いはなく、伯母は不貞を疑われずに幸いだっただろう。
 一方の私も父親似でありながらよく言って個性的程度の容姿にしかならず、父親同士が似ているだけによく不思議がられていた。
 だから比べるまでもなく結論は出てしまったのだ。
 そんな従姉のお願いを聞く人は男の人なら大概いたし、聡明で外面もそれなりによかったので女性とも折り合いは悪くなかった。
 それで傲慢に育たないわけがない。私を下女のように従え、まるで城にでもいるように振る舞っていた。

 まだはっきりとは教わっていないのだが、我が血族には女性だけに伝わる伝承がある。
 海神に花嫁を捧げること。残ったものはその伝承を伝え守ること。それは誰に嫁そうとも変わらない。
 要するにいけにえを捧げなければならないのだと誰もが理解していたはずだった。
 海神は期限を設けなかった。条件も指定しなかった。もしかしたらあったのかもしれないが伝わるうちに抜け落ちてしまったのかもしれない。
 一度満足させればいいのなら出来る限り気に入られそうな者を花嫁に選んだだろう。
 けれどいつまで続けなければならないか分からない以上だんだんと子孫をつなげられなさそうなものが選ばれるようになった。
 子を残せそうな女よりは体が弱そうな女が、引く手のあまたで裕福な相手と結婚できたくさんの子供を育てられそうな女よりろくに選べないもしかしたら選ばれることすらないような女が。
 贄にする影響か、この血族に女人は少ない。一世代飛ぶことも多いらしい。
 おそらく次に贄にされるのは私だろう。
 従姉もそれを知っていて、だからこそ逃げないよう監視ついでに私の傍にいたのだろう。
 そう思っていたのに。

「あなたごときが海神様に選ばれると思って?」
 もし海神がその辺の男のように私と従姉とを選ぶなら、確かに私が選ばれることはなかったはず。その言葉は正しい。
 けれどこれはそんな話ではない。
 聞かされていなくとも従姉だって分かっていたはず。これはお金持ちに見染められ、金銀珊瑚に囲まれて幸せに暮らせるような物語とは違う。
 今となってはまもられているかどうかも分からない、もしかしたら最初からなかったかもしれない一族の妄執に従って慰みものにも糧にもならず水の中で冷たく死ぬだけの話だと。
 死んでしまった者への後ろめたさと、そこまでさせておきながらやめて何かあったら申し開きが出来ないという弱さゆえに今更止めることが出来なくなっているだけの代物だと。
 そう言い残して止める間もなく崖から飛び降りた従姉を、そんなに惚れていたのか近くにいた男が複数人後を追って飛び降りたのがいっそ壮観だった。いくら泳ぎに自信があろうとも本気で助けたいならほかに方法はあるだろうし、そちらの方が確実なのにとどこかが冷静に思う。
 飛び込んだ者のうち、幾人かは帰って来た。もの言わぬ状態の者もいた。帰って来ないものも。
 従姉は帰って来なかった。

 従姉は美しく傲慢で本当に勝手な人だと思う。
 今後彼女と比べられながら結婚し、女児を産み育てなければならないということがどれだけ苦労か分かっているのだろうか?
 従姉とだったら喜んで結婚したのにと幾人の男が思うか、従姉の子供だったらもっとかわいかったにちがいないのにとどれだけ思われるか分かっているのだろうか?
 それでも伝える者となってしまった私がそれ以外の道を選べないということを。
 私も死んでしまう事は出来ないと。
 それとも分かっているから自身が水に沈むことを選んだのだろうか?
 従姉は未来に何を見たのだろうか?
 本当に従姉が海神に選ばれ贄が必要なくなっていればいいのにと思う。
 けれどそうではないとどこかで分かっていた。
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