我が罪への供物

こうやさい

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水のしとね

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『あたし、海神様のお嫁さんになるの』
 暑くて寝苦しい夜は、よく幼い従妹を思い出す。

 父方の従妹とはそれなりに歳が離れていて、盆と正月に顔を合わせたときは一緒に遊ぶというよりも子守りをしているようなものだった。
 あちこちふらふらはしないので迷子にはならないが、とにかく話しまくる子で、適当に聞き流してもそれで満足してくれたので手間というほど手間ではなかったのだろうけど。
 夏の水分補給にだけはやたら気を遣ったことは覚えている。

 その聞き流そうとして出来なかった話の中に従妹が将来海神と結婚するという話があった。
 その話は親戚の女の人にしかしてはいけないらしい。
 親戚のとは言っていたが、実際は従妹の母親の血筋の女性にのようなので、従妹の父である叔父の方と血が繋がっている私は本来聞いてはいけなかったのだろう。
 最初話始めたときに、一緒にいた叔母が不自然に話を逸らしていたが、結局いないときに聞いてしまった訳だけれど。

 その話を聞いたとき、私は父の浮気で相当ストレスを溜めていて。
 なのに一緒に帰省しなかった母の代わりに父と一緒に来て愛想を振りまいていた。
 もう誰に気を遣っていたのかも分からない。
 そんなときに聞く結婚の話題は、幼子の戯言といえど、妙な生々しさと、絶望を持っていた。
 だから気づかなかったのだろう。
 海神の花嫁は芸能人やアニメキャラや身内や幼なじみとの結婚を想定するのと訳が違うと。

 本当に戯言だったかもしれない。
 ただ一方的に言っていただけかもしれない。
 知らないだけで海神というアニメキャラか何かがいたのかもしれない。

 けれどそれなら叔母はあそこで話を聞かせないようにするだろうか?

 単にこちらが分からない話だから気を遣ったというならもっと変えられた話題は多いだろうし。
 完全な空想にしては妙な部分が具体的だった。

 いらついてやつあたりしそうだったのでその時は意識して聞き流そうとし深く掘り下げもしなかったけれど。
 普通に結婚する話だったとしても希望は持てたと思えないけど。
 花嫁の意味がもし、思っていた通りのものなら。

 それを確認する事は出来なかった。
 次に会う機会が来る前に両親が離婚して私は母に引き取られたから。
 父に会うなとは言われなかったけれど、それでも祖父母くらいまでならまだしも父方の親戚の集まりに顔を出すには気が引ける。父はさっさと再婚してしまったわけだし。
 叔父の妻の家なんてそれ以外に付き合う機会は特になく。
 従妹ともそれっきりだった。

 暑くて寝苦しい夜は、よく幼い従妹の事を思い出す。
 それは暑くてぼーっとして水が恋しいから、水分補給に気を遣ったことを思い出すからで。
 そこから父の浮気と従妹の発言を思い出し。
 従妹は本当に生贄になったのだろうかと考えてしまう。

 あれはそれぞれに影響を受けたゆえに出来た妄想で、すっかり成長してそれなりに普通に生きているのか。
 あるいは既に死んでいるのか。
 それともこれから水底で眠るのか。

 確かめることはきっとない。
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