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壺の中
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贄が逃げてしまうなら柵で囲んでしまえばいい。
この海辺の家に住む女性は一つの栄誉を守っている。
海神に花嫁を捧げること。その伝承を女性のみに受け継いでいくこと。
そんな根拠の分からない話を律儀にも。
近年、この女性のみというのが問題になった。
小さな集落で、下手をすれば親族と結婚し、子供を育てているうちはよかった。
けれど時代が移り、世界が広がり、他家に嫁ぐということが、伝承を知る女性の拡散を意味し始める。
それまでは母が伝える前に死んでしまっても周りの親族が伝承を教えることが出来た。
娘が生まれなくても、代われそうな人がどこに居るか把握することが出来た。
何より判断が付かない時に相談する相手がいた。
けれど周りに事情を知る人が居なければ母の死と共に伝承が途切れる可能性が高くなる。滅多に会わない親族が何か吹き込んだとしても喜んで神に嫁すとは思わないだろうし、無理矢理水に沈める事の出来る機会も減る。
娘が生まれなかったとき、代わりがどこに居るのか分からない。
誰にも相談が出来ない。
それをどうにかする必要がある。
なので曾祖母は娘に家を継がせる事にした。そして外に嫁す娘には頻繁な現状の報告と里帰りを徹底させた。
時代の変化で唯一良かった事は、男児がいるのに家を娘に継がせても奇異に思われる事が減ったことだと晩年に語っていたらしい。
そんな始まりの時には曾祖母と祖母と大叔母しか居なかったこの家も、幾人か増え、それより少ない人数が減り、今やわたしを含めて何人もの女性がいる。
そう女性だけ。
少なくとも子供が産まれる以上相手が住んでいてもおかしくはないのだが、この家の雰囲気に狂うのか、男は早死にするか出て行ってしまう。
嫁に行った女性もここから離れ難いのか大半は出戻ってくる。――居るならば娘をつれて。
そしてもし再婚する機会があるならば娘をここにおいていく。
こうしてこの家には従姉妹なのか再従姉妹なのか叔母なのか自身姉妹なのか考えなければ分からないような女性が花嫁候補として控えている。
花嫁はおおよそ一世代に一人でいい。
それぞれの家族が分からないままばらばらに捧げるより血族は減らない。伝えるべきことはより確実に伝わる。
そういう意味でも曾祖母は伝承に忠実だった。
皆一様に誰が選ばれても恨まないという。
けれど本心はそうじゃない。
よく知らない人ならば、きっと自分は選ばれたくないと思っていると考えるだろう。
死にたくないと。
けれども、少なくとも私は自分が選ばれればいいと思っている。
このまま成長したとしても、外に嫁に行ったとしても。
きっとまたこの伝承の中に戻される。
ならば早く終わらせてしまいたい。
命はあっても代償を捧げ続けるのなら意味はない。
幼い日、私を連れ出そうとした兄の姿を思い出す。
差し出されたのは小さいながら私を守ろうとする手だった。
それ選べなかった時点で、贄は捧げられ始めたのだろう。
この海辺の家に住む女性は一つの栄誉を守っている。
海神に花嫁を捧げること。その伝承を女性のみに受け継いでいくこと。
そんな根拠の分からない話を律儀にも。
近年、この女性のみというのが問題になった。
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けれど時代が移り、世界が広がり、他家に嫁ぐということが、伝承を知る女性の拡散を意味し始める。
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誰にも相談が出来ない。
それをどうにかする必要がある。
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そんな始まりの時には曾祖母と祖母と大叔母しか居なかったこの家も、幾人か増え、それより少ない人数が減り、今やわたしを含めて何人もの女性がいる。
そう女性だけ。
少なくとも子供が産まれる以上相手が住んでいてもおかしくはないのだが、この家の雰囲気に狂うのか、男は早死にするか出て行ってしまう。
嫁に行った女性もここから離れ難いのか大半は出戻ってくる。――居るならば娘をつれて。
そしてもし再婚する機会があるならば娘をここにおいていく。
こうしてこの家には従姉妹なのか再従姉妹なのか叔母なのか自身姉妹なのか考えなければ分からないような女性が花嫁候補として控えている。
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そういう意味でも曾祖母は伝承に忠実だった。
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けれど本心はそうじゃない。
よく知らない人ならば、きっと自分は選ばれたくないと思っていると考えるだろう。
死にたくないと。
けれども、少なくとも私は自分が選ばれればいいと思っている。
このまま成長したとしても、外に嫁に行ったとしても。
きっとまたこの伝承の中に戻される。
ならば早く終わらせてしまいたい。
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