我が罪への供物

こうやさい

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パンドラの箱

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「貴女はこれを開けちゃダメよ?」
 そう言われた箱には希望が入っていた。

 母が再婚したのは再婚相手を愛していたとか、ましてやあたしのためとかそんな理由ではなく、ただただ子供がほしくてあがいているためだった。
 あたし一人では足りないから。
 あたしの一族の女性は代々海神に花嫁を捧げているという。あたしは次に捧げられる贄だ。
 けれどあたしを捧げてしまったら次代の贄がいなくなってしまうし、伝えるべき女児もいない。贄は純潔でなければいけないそうで母はもうなれない。おかげで門限とか厳しい。そんなことしなくてもあたしはとうにあきらめたのに。
 とにかくそんな理由で母は他にも子供をほしがった。次代につなげられる可能性があるなら男の子でもこの際いいらしい。孫に教えればそれでいいからと。正直このご時勢それが成り立つとは思えない。

 とにかくそういう理由で出来た三人目の父には連れ子が居た。姉になる。
 もうすぐ十六となるこの人は妙な伝統に巻き込まれてないんだなと思うとあきらめたはずなのに少しうらやましい。
 不審がられでもしたのか、その義姉と一緒なら、行動の自由を母に多少許されたことがうれしかった。
 義姉はとてもやさしくて、それがもっと嬉しかった。

 そんな義姉にある日一つの箱を義父と血の繋がった妹か孫娘が出来たら渡してを頼まれた。妹はまだしも孫には絶対渡せないので断るために自分で渡せばいいのにと言ったら、それが出来ないから頼んでいるのと真剣な表情で告げられた。断りきれなかった。
 最終的には母に頼むしかないだろうと思う。義父に頼むのが筋かもしれないが、義姉が直接渡せないと言うなら義父と縁を切るつもりなんだろう。あの義姉を溺愛している義父のことだ、そうなったら理由を知る手掛かりになりそうなものは片っ端から調べるに違いない。この箱も開けられてしまうだろう。
 ……それとも再婚が嫌だったのだろうか?
 義姉のことを大好きになっていたのでそう考えるとへこむ。最終的に同一視するものじゃないと分かっていてもあたしまで嫌われている気がしてくる。

 どちらが先かは意味がない。
 約束を守れない以上嫌われてもしょうがないのだろう。義姉の考えていることが知りたくて結局箱を開けてしまう。
 そこにあったのは封筒に入った手紙が二つ。先に読むよう書いてある新しい方は封がされてなく、古い方は開けられた跡がある。
 されていない封を信頼の証だと思いながらも、結局それを裏切ってしまう。
 そこに書かれていたことはあまりにも予想外で――そうしてよく知っていた話だった。
 一族の女性を海神の花嫁に捧げること、それを女性のみで伝えていくこと。そして曾祖母の手紙を同封しておくと。
 古い方にはそれに加えてずっと男児しか産まれなかったので手紙に残すと書いてあった。女児でさえあれば遺体でもいいから海に流せと書いているあたり本当に生まれなかったんだなと思う。義姉の手にわたったのは奇跡的なことだろう。
 今あたしがこれを読んでいるということも。
 名字も場所も継がない一族が偶然にもめぐり合うなんて奇跡としかいいようがない。

 あたしが贄になれば義姉までが死ぬ必要はなくなる。
 ……けれどそう告げたら箱を開けたと義姉に知られてしまう。約束を破ったことがばれてしまうし、それでも優しい義姉は、あたしが贄でもかまわないと知っても、結局自分が嫁ぐことを選ぶだろう。母にそれを知られては後を追うこともきっと許してもらえない。なのにそうしたければ箱は母に託すしかないし、そうしなければ完全な裏切りになってしまう。
 義姉を犠牲にしたいわけじゃないのに、どうしても犠牲にしか出来ない。

 パンドラの箱に入っていた希望は未来だという。未来は分からないからこそ希望足りえるのだと。だからこそ分かるようになってはいけないと。
 ただあきらめたまま海に沈む未来はきっと今より幸福だったことだろう。
 そんな未来はどこにも入っていなかった。
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