解読は解消よりも難しい

こうやさい

文字の大きさ
1 / 4

前編

しおりを挟む
「……もしかしてお嬢様、この世界が小説だという記憶があるのですか?」
 そうメイドは訝しげな視線をわたくしに向け言いました。

 この度、わたくしのうちの住み込みでメイドをしていたアメリアの結婚が決まったそうで。
 お相手が遠くに住んでいるので仕事を辞めて屋敷を出るとかで、出発前に挨拶に来ましたの。
 だから思わず聞いてしまいましたわ、「あなたがいなくなったら誰を追放先につれていけばいいの?」と。
 言った後に(追放?)と首をかしげました。そんな発想どこから出てきたのでしょう?
 追放される予定はもちろんありませんし、仮にそうなったとしてもアメリアと特に親しくしていたわけでもないですから一緒に行くことを望むなら他の方とになるでしょうし。
 結婚して屋敷を出ると最初聞いた時も引き留めようと思いませんでしたもの。

 わたくしが分からないものは当然アメリアにはもっと分からないと思っていたけれど。
 返ってきたのは言葉で。
「お嬢様!?」
 それが切っ掛けになって、一気に記憶が押し寄せ、処理しきれずに気を失いました。


 とはいえ、完璧に思い出すことを望むのは贅沢だったようで、元々覚えてなかったのか、それとも気絶しているうちに忘れたのかと、穴だらけの記憶に目を覚ましたベッドの上でため息をつく。
「お嬢様!? お気づきになりましたか?」
 アメリアではないメイドがそう尋ねてくる。
「そうみたいね」
 けど確かに小説の中よねここ。作中の登場人物に心当たりいろいろあるし。……この人作中で真っ先に裏切ってたよね。

 なんかやったらきらきらしい長いタイトルの小説だった気がする。更に言うなら売れてなかった記憶がある。
 一応商業で出た話なのに読んでるって人見たことなかった。リアルの周辺でならとにかく、ネット上でも見なかったんだから相当。通販サイトのレビューにすら褒められもけなされもしてないってある意味凄いわ、あんなタイトルなのに……覚えてないけど。
 そんなシロモノなので一応続きは考えてるっぽい後書きだったけど、それっきり。多分売れなくて打ち切られたんだろう。

 その話は貴族の通う学校の卒業式で、とある令嬢が悪役令嬢扱いされ婚約者に婚約破棄される場面から始まる。……当時オンノベとか一部で流行ってたからなぁ、そういうの。
 令嬢は冤罪を着せられたと主張するが、それは無視され、断罪され、国外追放される。
 そして一人連れていったメイドのアメリアに助けられながら生活をし、最終的には冤罪だという証拠を探し元婚約者にざまぁをする。

 …………はず。

 いやだから続き出なかったんだって。既刊部分では世界観の説明と、婚約破棄と追放によるごたごたと気持ちの整理、その後生活基盤を作りに費やされて、恋のお相手候補も出なかったという進まなさ。
 新しく相手が出来なかった事は実は婚約破棄は婚約者の浮気とかじゃなくややこしい訳ありでより戻したりするのかもとも深読みしてたことが懐かしい。
 その辺の話それまでにあったことも含めてほとんど書かれてなかったから、ホントにざまぁするかどうか……というか方向性すらわかんない。婚約破棄は今までの生活捨ててイチから始める理由としてとってつけただけでスローライフ系とかだったのかもしれない。ヒロインもイチからだといろいろ説明しやすいもんな。
 ちなみに中世ヨーロッパ風だけど魔法はない。

 そしてその令嬢があたしの転生先らしい。少なくとも婚約者の名前と立場は一致している。
 物語の舞台は学校の卒業式でってことは五年後あたりってとこか。
 で、アメリア。なんでその前に抜けようとしてるのかな?

「アメリアはまだいるかしら?」
 努めてにこやかについてくれていたメイドに聞く。
「……いえ、ギリギリまで待ってはいたのですが……」
「そう」

 今回出発した事に関しては逃げだなとは思うまい。
 五分待ったら次が来る……ような都会には住んでなかったけど、ある程度多様な交通手段がある前世とは違って、乗り物に乗り遅れるのは致命的だ。
 うちはまだ自家用車といえる馬車があるからいいものの、アメリアは確か向かう方向が同じ商隊に便乗するって誰かに話してたの聞いたし、さほど行き来がある地域ではないからおいていかれたら次何時そんな機会が巡ってくるか分からないだろう。適当に乗り継いで最悪ネカフェで眠るとかって行き当たりばったりもできないだろうし。
 けど、今結婚してうちを離れたということは小説の展開からの逃げだ。
 分かってたならあたしも連れてけよ。後で晴れるとしても罪とか被りたくないわ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持

空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。 その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。 ※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。 ※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。

ねえ、今どんな気持ち?

かぜかおる
ファンタジー
アンナという1人の少女によって、私は第三王子の婚約者という地位も聖女の称号も奪われた 彼女はこの世界がゲームの世界と知っていて、裏ルートの攻略のために第三王子とその側近達を落としたみたい。 でも、あなたは真実を知らないみたいね ふんわり設定、口調迷子は許してください・・・

ヒロインは敗北しました

東稔 雨紗霧
ファンタジー
王子と懇ろになり、王妃になる玉の輿作戦が失敗して証拠を捏造して嵌めようとしたら公爵令嬢に逆に断罪されたルミナス。 ショックのあまり床にへたり込んでいると聞いた事の無い音と共に『ヒロインは敗北しました』と謎の文字が目の前に浮かび上がる。 どうやらこの文字、彼女にしか見えていないようで謎の現象に混乱するルミナスを置いてきぼりに断罪はどんどん進んでいき、公爵令嬢を国外追放しようとしたルミナスは逆に自分が国外追放される事になる。 「さっき、『私は優しいから処刑じゃなくて国外追放にしてあげます』って言っていたわよね?ならわたくしも優しさを出して国外追放にしてさしあげるわ」 そう言って嘲笑う公爵令嬢の頭上にさっきと同じ音と共に『国外追放ルートが解放されました』と新たな文字が現れた。

ヒロインガン無視で幸せになる話

頭フェアリータイプ
ファンタジー
死ぬ運命の悪役ですらないヒーローの婚約者が無関心に幸せを掴む話

ざまぁされるための努力とかしたくない

こうやさい
ファンタジー
 ある日あたしは自分が乙女ゲームの悪役令嬢に転生している事に気付いた。  けどなんか環境違いすぎるんだけど?  例のごとく深く考えないで下さい。ゲーム転生系で前世の記憶が戻った理由自体が強制力とかってあんまなくね? って思いつきから書いただけなので。けど知らないだけであるんだろうな。  作中で「身近な物で代用できますよってその身近がすでにないじゃん的な~」とありますが『俺の知識チートが始まらない』の方が書いたのは後です。これから連想して書きました。  ただいま諸事情で出すべきか否か微妙なので棚上げしてたのとか自サイトの方に上げるべきかどうか悩んでたのとか大昔のとかを放出中です。見直しもあまり出来ないのでいつも以上に誤字脱字等も多いです。ご了承下さい。  恐らく後で消す私信。電話機は通販なのでまだ来てないけどAndroidのBlackBerry買いました、中古の。  中古でもノーパソ買えるだけの値段するやんと思っただろうけど、ノーパソの場合は妥協しての機種だけど、BlackBerryは使ってみたかった機種なので(後で「こんなの使えない」とぶん投げる可能性はあるにしろ)。それに電話機は壊れなくても後二年も経たないうちに強制的に買い換え決まってたので、最低限の覚悟はしてたわけで……もうちょっと壊れるのが遅かったらそれに手をつけてた可能性はあるけど。それにタブレットの調子も最近悪いのでガラケー買ってそっちも別に買い換える可能性を考えると、妥協ノーパソより有意義かなと。妥協して惰性で使い続けるの苦痛だからね。  ……ちなみにパソの調子ですが……なんか無意識に「もう嫌だ」とエンドレスでつぶやいてたらしいくらいの速度です。これだって10動くっていわれてるの買ってハードディスクとか取り替えてもらったりしたんだけどなぁ。

ヒロインは修道院に行った

菜花
ファンタジー
乙女ゲームに転生した。でも他の転生者が既に攻略キャラを攻略済みのようだった……。カクヨム様でも投稿中。

わたし、不正なんて一切しておりませんけど!!

頭フェアリータイプ
ファンタジー
書類偽装の罪でヒーローに断罪されるはずの侍女に転生したことに就職初日に気がついた!断罪なんてされてたまるか!!!

処理中です...