16歳の花嫁はもういない

こうやさい

文字の大きさ
1 / 1

16歳の花嫁はもういない

しおりを挟む
『じゃあお前が結婚出来る年齢としになったらな。いい女になれよ』

 昔、近所にすんでいたお兄さんが好きだった。
 幼心にそれを恋だと思っていた。
 一生その気持ちは失われる事はないと。
 だからプロポーズした。

 それで返ってきた言葉がそれだ。

 客観的に考えれば幼児に泣かれでもしたらめんどくさいことになるから適当に相手しておこうといういう感じだと分かる。
 それを幼いあたしは真に受けた……ふりをした。
 幼児が純粋に騙されると、適当に返事をしたことに罪悪感を覚える人もいるので、そこにつけ込もうかと。

 けれど今のところつけ込み切れていない。
 あたしがまだ結婚出来る年齢に達してないせいもあるけど。
 お兄さんが交通事故で死んでしまったから。
 普通に過ごして普通に距離を取れれば、いずれ無難な形でまとまったであろう関係は、お兄さんが物理的に距離を取り過ぎたせいで、心理的な距離は離れないままで時間だけが過ぎていった。
 思い出は風化する場合と、美化される場合がある。
 心の片隅では美化であると分かっていた気もするけれど、あたしが恋をするのは一生お兄さんだけだと思っていた。

 だから、結婚出来る年齢になったら自殺しよあとをおおうと思った。

 それからしばらくして成人年齢が下がるらしいと聞いた。
 興味はなかった、だって結婚出来る年齢でそのまえに死ぬつもりだったし。
 自主的に見なければ手に入らない情報は完全にスルーだし、教えられてもまともに聞いていなかった。
 仮にそうじゃなくとも、二年縮んだくらいではまだまだ未来さきは遠いことには変わりない。
 そのうち分かるとざわざ詳しく知ろうとはどのみちしなかっただろう。
 なのでほぼ直前まで気づいていなかった。
 同時に婚姻開始年齢が上がることを。

 あと一年、いや一月遅かったなら結婚出来る年齢だったのに。
 もちろん、実際に結婚する訳じゃないのだからそんなもの無視してしまえばいいのだけれど。
 年齢が足りたとしてもきちんとした結婚にはなりようがないのだけれど。
 それでも自分でも意外なほど重要視していたらしい。
 憧れというには濁った想いが、崩れていくのを感じる。
 その濁りに隠されていたものも見えてくる。

 あたしはあの時本当は死にたいわけじゃなかった。
 けれど喪った存在が大きすぎて、そのまま生き続けることも出来なかった。
 だから結婚出来る年齢になるまでは成長しなければいけないからと自分に言い訳をした。
 生きる理由にするために。

 それが、いつから死ぬための理由に変わってしまったのだろう?
しおりを挟む

この作品は感想を受け付けておりません。

あなたにおすすめの小説

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

ざまぁされるための努力とかしたくない

こうやさい
ファンタジー
 ある日あたしは自分が乙女ゲームの悪役令嬢に転生している事に気付いた。  けどなんか環境違いすぎるんだけど?  例のごとく深く考えないで下さい。ゲーム転生系で前世の記憶が戻った理由自体が強制力とかってあんまなくね? って思いつきから書いただけなので。けど知らないだけであるんだろうな。  作中で「身近な物で代用できますよってその身近がすでにないじゃん的な~」とありますが『俺の知識チートが始まらない』の方が書いたのは後です。これから連想して書きました。  ただいま諸事情で出すべきか否か微妙なので棚上げしてたのとか自サイトの方に上げるべきかどうか悩んでたのとか大昔のとかを放出中です。見直しもあまり出来ないのでいつも以上に誤字脱字等も多いです。ご了承下さい。  恐らく後で消す私信。電話機は通販なのでまだ来てないけどAndroidのBlackBerry買いました、中古の。  中古でもノーパソ買えるだけの値段するやんと思っただろうけど、ノーパソの場合は妥協しての機種だけど、BlackBerryは使ってみたかった機種なので(後で「こんなの使えない」とぶん投げる可能性はあるにしろ)。それに電話機は壊れなくても後二年も経たないうちに強制的に買い換え決まってたので、最低限の覚悟はしてたわけで……もうちょっと壊れるのが遅かったらそれに手をつけてた可能性はあるけど。それにタブレットの調子も最近悪いのでガラケー買ってそっちも別に買い換える可能性を考えると、妥協ノーパソより有意義かなと。妥協して惰性で使い続けるの苦痛だからね。  ……ちなみにパソの調子ですが……なんか無意識に「もう嫌だ」とエンドレスでつぶやいてたらしいくらいの速度です。これだって10動くっていわれてるの買ってハードディスクとか取り替えてもらったりしたんだけどなぁ。

英雄一家は国を去る【一話完結】

青緑 ネトロア
ファンタジー
婚約者との舞踏会中、火急の知らせにより領地へ帰り、3年かけて魔物大発生を収めたテレジア。3年振りに王都へ戻ったが、国の一大事から護った一家へ言い渡されたのは、テレジアの婚約破棄だった。 - - - - - - - - - - - - - ただいま後日談の加筆を計画中です。 2025/06/22

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

むしゃくしゃしてやった、後悔はしていないがやばいとは思っている

F.conoe
ファンタジー
婚約者をないがしろにしていい気になってる王子の国とかまじ終わってるよねー

【完結】精霊に選ばれなかった私は…

まりぃべる
ファンタジー
ここダロックフェイ国では、5歳になると精霊の森へ行く。精霊に選んでもらえれば、将来有望だ。 しかし、キャロル=マフェソン辺境伯爵令嬢は、精霊に選んでもらえなかった。 選ばれた者は、王立学院で将来国の為になるべく通う。 選ばれなかった者は、教会の学校で一般教養を学ぶ。 貴族なら、より高い地位を狙うのがステータスであるが…? ☆世界観は、緩いですのでそこのところご理解のうえ、お読み下さるとありがたいです。

処理中です...