旦那様は足フェチ

こうやさい

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旦那様は足フェチ

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「わたしは女性の足が好きだ」
 わたくしの旦那様はそう公言して止まない。


 人前で堂々と言う時点でどうかと思いますけれど、足が好きというのを結婚後……譲ってはいけないけれど、娼館に行きだしてから、恋人が出来てから、閨の勉強が始まってから……とにかく、女性の足を見る機会があってからなら、人の好みはいろいろありますわねで一応済ませられなくもないでしょう。
 けれどこれは小さい頃から……親に婚約者として引き会わされてしばらく経ったころから言ってましたの。
 正確には昔は「足が好き」だけでしたけど、何せ女性の足を見る機会が前述の閨関係しか思い浮かばないような状況です、使用人も含めて裾に隠れて普段は靴が見えるかどうかの女性に囲まれている方ですから……あからさまに出している訳ではないとはいえ、まだ足の形が分かりやすい殿方が好きなのではないかという噂が立ちまして。さすがにまだ閨関係とは表だっては言えなかったようで、どちらがどうとは言いませんけれど。
 それでも男色と思われるのはいやだったらしく「女性の」とつけるようになりました。
 となると今度はわたくしが足を見せて誘惑したのではないかと……足は付いているのは確かですけれど、形が美しいかどうかは分かりませんし、まして当時は子供の足です。それで誘惑出来るなら違う性癖の可能性か更に特殊な性癖の可能性があると思うのですけど……あら、はしたない。
 とにかく見せた覚えもないのにそんな話になってうんざりしておりましたわ。当時はまだ親が決めた婚約者でしかありませんでしたし。……もしかして、そこをつつけば婚約を破棄出来てたのではないかしら?

 それで足さえ見せれば虜に出来る可能性がと、とあるご令嬢が、こう、旦那様に挨拶するとき過剰に裾を持ち上げ足首を。さすがに素足ではありませんでしたけど。
 閨で見せたわけではなく、そのような関係になる手段として見せたわけですから……そこには他にも人はいらして。婚約者わたくしならそれでも周りは家人の可能性もありますけど、そこまでの付き合いのないご令嬢ですから、無関係な女性だけでなく男性もいらっしゃるところで、涙目で赤面し、なのに扇で顔も隠せない状態でした……やはり強制されたのでしょうね。
 それに対する当時婚約者さまの反応ですけど、「無駄に慎みのない女は嫌いだ」でした。……周り中、無言だったのはたしなみがどうこうではなく絶句していたのでしょう。
 婚約者さまに慎みを語られたくないです。そういう好みの話は殿方だけのところでなさってください。
 ちなみに、位置的に肝心の婚約者さまには布で隠れてほとんど足は見えていなかった気がしますから、色仕掛けにはならなかったかと。
 わたくしが言っては嫌味かもしれませんけれど、お気の毒でした。

 失敗したと知るやいなや、恐らく指示したであろう彼女のお父上は独断でやったとご令嬢を切り捨てまして。
 修道院に追いやられそうになったところを、婚約者さまほどではないけれど高位貴族の令息に婚約を持ちかけられて、そのまま令息のうちで暮らすことになったそうで。
 ……その方、確か会場に居ましたわよね? いやだわ、足を見せるのって効果があるのかしら?

 そんな問題になる手段を取ってでもと思うほど婚約者さまには価値があります。
 家柄はいうに及ばず見た目も美しいのです。
 人柄も例の好みを主張するという一点以外は素晴らしいですし、立場によってはどうとられるかは分かりませんがお優しいですし。
 更に有能で、将来性もあるとなれば、本気の方もおこぼれが欲しい方も利用しようとする方もすり寄ってくるというもの。
 そんな人たちからすればわたくしはまごうことなき邪魔者でした。
 絶対ではないものの婚約者さまに対して保証された立場を持っているんですもの。
 妬みゆえの被害も受けましたのよ?

 それが「無駄に慎みのない女は嫌い」発言以降減りましたの。
 どうもあの発言を、必然性を持って足を出している女性、つまり踊り子や娼婦が好み……と解釈した方が多かったらしく。
 将来的にわたくしが冷遇されると思ったのでしょう。
 なので嫌がらせをする価値もないと。
 人間かわいそうな存在には寛大になれるものですわね。
 女性からも多少同情が寄せられ、男性は手駒を愛人として送り込むための準備でわたくしを構う暇がないようで。

 不名誉な噂と言っていいはずなのに婚約者さまはそれを今回は否定なさりませんでしたわ。
 かといってわたくしをないがしろにするわけでもなく。
 ……足を見せろと要求される訳でもなく。
 他の誰かに入れ込んでいる様子もありませんでした。

 ……もしかしてわたくしを守るためにあんなことを?

 さすがに夫が男色ではわたくしもいろいろ言われますし。
 慎みのない女が嫌いなら、色仕掛けで迫った女とそのまま婚約しないでしょうから、いつぞやの邪推も否定されます。
 足はわたくしにもついていますから将来冷遇まではしなくても嘘吐きとは言われないでしょう。
 いずれはわたくしももう少し自分の身を守れるようになるでしょうし。
 そう思ってしまったら、欠点がなくなってしまったわけですし、好きになってしまうのもしょうがないでしょう?


 そうして年月がたち順当に結婚した訳ですけれど。
 何か閨で足への愛撫と口づけが執拗で……。
 今更実は本音だったと知ったところで拒絶まではしませんし、わたくしの足だけで満足してくださるならそれで構いませんけど。

 どこでこんな好みが出来たのかしら?
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