1 / 1
聖女が帰らなかったので婚約は破棄された
しおりを挟む
聖女だからというわけではないのでしょう。
だって、異世界から召喚するのを聖女だと言い張るのは、近隣諸国に戦力を求めたわけではないといいわけをするためですもの。
実際は魔力を探知して多い人を召喚するのですから、教えさえすれば攻撃魔法も使えますし、清らかな人格の持ち主が来るよう選ぶことも出来ません。
それでも彼女の性格は悪くありませんでした。
比較対象が笑顔の裏で駆け引きをする令嬢たちだからそう見えるのであって、もしかしたら市井ならばあるいは元の世界ならばごく普通の少女だった可能性も高いけれど。
少なくとも婚約者がいる人との間に割り込もうとするようには見えませんでした。
ごく普通の少女の可能性が高いと言った理由は、魔物の被害に動揺していたと聞いたせいもあります。
今回の召喚は魔王が現れたために珍しく本来の意味で聖女が求められました。
浄化や治癒などのほぼ技術だけが教え込まれ、怪我人、病人の中に放り込まれた彼女はあまりの惨状に気分を悪くし吐いたそうです。
手足がもげていたり、毒で変色していたり、呪われたりした人々なんてものをみれば、わたくしも平静を保つことは出来ないでしょう。治療、戦闘を生業とする者でも拒否感を示すとか。
そんな中、彼女は吐くだけ吐ききると果敢にも治療に当たったと。
能力が高いだけに難しい、つまりはむごたらしい患者を当てられ、時には泣いて苦しみながら、それでも逃げはしなかったと。
芯のある方なのでしょう。
それでもごく普通の少女ならば支えが欲しくなることもあるでしょう。
仮に聖女の役目がなかったとしても異世界にただ一人で放り出されたのです。
相談役兼監視に付かれた殿下に依存してしまう気持ちは解ります。
そうなる前に殿下にはわたくしがいると告げていなかったこちらの過誤でしょう。
もう少し後で彼女付きの侍女が聞いた話では、彼女のいた場所では成人がわたくし達よりも遅く、結婚も市井の人々よりも遅いことが多いと。
でしたら殿下にすでに結婚まで約束した相手がいるとは考えないでしょうし、それが相当具体的な話になっているとも思わないでしょう。
そして自分の影響力が増していることにも気づいていませんでした。
本来利用されるだけのはずの立場だった聖女ですか、何かの拍子に子供のために引退した先の宰相閣下を助けたらしく……気がついた時には閣下は彼女に心酔していました。
元々現場での人気は高いのです。一線を引いたとはいえ権力者の後ろ盾が付けば、しかもその後ろ盾に私的な場面では陛下は頭が上がらないとなればどれほどのものが分かるでしょう?
殿下が王太子などではないもあり、彼女の方が優先されることすらありました。
もし自覚があったならは衆目のあるところで殿下に愛を告げたりはきっとしなかったでしょう。
あまりの周りの盛り上がりに彼女は驚いていました。
そして殿下は逃げられなくなりました。
認識が違っていたら大変だからすり合わせをしなければと即答こそは避けましたが、次にわたくしに会ったとき、殿下にされたのは謝罪でした。
殿下は、殿下だからこそ、既に惚れた腫れたの感情の問題でなく人々の行く末に関わる問題だと気づいてしまわれたのでしょう。
こうしてわたくし達の婚約は秘密裏に破棄されました。
ええ破棄です。ごねました。
それでも罰しなかったのは悪いと思ってくださっているのですよね?
殿下がもし王太子ならば、それでも妃は求心力と魔力だけでは駄目だと、まだこちらの常識もおぼつかない彼女と結婚することはなかったでしょう。
それでも替えが利くからこそ殿下は聖女に付けられたのです。
聖女はそれほどに重要視されたのです。
少しばかり望郷の念を煽ってみたりはしましたが、殿下が心から受け入れてくれたと信じている彼女の想いは固く。
わたくしもそれ以上をする事は出来ませんでした。
今はまた経緯が分かっているので、表だっては触れなくとも何かを思う方はいるでしょう。
けれど後世ではきっと美しいだけの物語となっているでしょう。
わたくしの涙は消えてしまっているでしょう。
だって、異世界から召喚するのを聖女だと言い張るのは、近隣諸国に戦力を求めたわけではないといいわけをするためですもの。
実際は魔力を探知して多い人を召喚するのですから、教えさえすれば攻撃魔法も使えますし、清らかな人格の持ち主が来るよう選ぶことも出来ません。
それでも彼女の性格は悪くありませんでした。
比較対象が笑顔の裏で駆け引きをする令嬢たちだからそう見えるのであって、もしかしたら市井ならばあるいは元の世界ならばごく普通の少女だった可能性も高いけれど。
少なくとも婚約者がいる人との間に割り込もうとするようには見えませんでした。
ごく普通の少女の可能性が高いと言った理由は、魔物の被害に動揺していたと聞いたせいもあります。
今回の召喚は魔王が現れたために珍しく本来の意味で聖女が求められました。
浄化や治癒などのほぼ技術だけが教え込まれ、怪我人、病人の中に放り込まれた彼女はあまりの惨状に気分を悪くし吐いたそうです。
手足がもげていたり、毒で変色していたり、呪われたりした人々なんてものをみれば、わたくしも平静を保つことは出来ないでしょう。治療、戦闘を生業とする者でも拒否感を示すとか。
そんな中、彼女は吐くだけ吐ききると果敢にも治療に当たったと。
能力が高いだけに難しい、つまりはむごたらしい患者を当てられ、時には泣いて苦しみながら、それでも逃げはしなかったと。
芯のある方なのでしょう。
それでもごく普通の少女ならば支えが欲しくなることもあるでしょう。
仮に聖女の役目がなかったとしても異世界にただ一人で放り出されたのです。
相談役兼監視に付かれた殿下に依存してしまう気持ちは解ります。
そうなる前に殿下にはわたくしがいると告げていなかったこちらの過誤でしょう。
もう少し後で彼女付きの侍女が聞いた話では、彼女のいた場所では成人がわたくし達よりも遅く、結婚も市井の人々よりも遅いことが多いと。
でしたら殿下にすでに結婚まで約束した相手がいるとは考えないでしょうし、それが相当具体的な話になっているとも思わないでしょう。
そして自分の影響力が増していることにも気づいていませんでした。
本来利用されるだけのはずの立場だった聖女ですか、何かの拍子に子供のために引退した先の宰相閣下を助けたらしく……気がついた時には閣下は彼女に心酔していました。
元々現場での人気は高いのです。一線を引いたとはいえ権力者の後ろ盾が付けば、しかもその後ろ盾に私的な場面では陛下は頭が上がらないとなればどれほどのものが分かるでしょう?
殿下が王太子などではないもあり、彼女の方が優先されることすらありました。
もし自覚があったならは衆目のあるところで殿下に愛を告げたりはきっとしなかったでしょう。
あまりの周りの盛り上がりに彼女は驚いていました。
そして殿下は逃げられなくなりました。
認識が違っていたら大変だからすり合わせをしなければと即答こそは避けましたが、次にわたくしに会ったとき、殿下にされたのは謝罪でした。
殿下は、殿下だからこそ、既に惚れた腫れたの感情の問題でなく人々の行く末に関わる問題だと気づいてしまわれたのでしょう。
こうしてわたくし達の婚約は秘密裏に破棄されました。
ええ破棄です。ごねました。
それでも罰しなかったのは悪いと思ってくださっているのですよね?
殿下がもし王太子ならば、それでも妃は求心力と魔力だけでは駄目だと、まだこちらの常識もおぼつかない彼女と結婚することはなかったでしょう。
それでも替えが利くからこそ殿下は聖女に付けられたのです。
聖女はそれほどに重要視されたのです。
少しばかり望郷の念を煽ってみたりはしましたが、殿下が心から受け入れてくれたと信じている彼女の想いは固く。
わたくしもそれ以上をする事は出来ませんでした。
今はまた経緯が分かっているので、表だっては触れなくとも何かを思う方はいるでしょう。
けれど後世ではきっと美しいだけの物語となっているでしょう。
わたくしの涙は消えてしまっているでしょう。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
16
この作品は感想を受け付けておりません。
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる