『年賀状じまいのお知らせ』掲載 - 25歳の生前葬・他

こうやさい

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25歳の生前葬[喪失感]

(1/1)25歳の生前葬

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 社会人としては情けないことだが、正直葬式の作法というものにはあまり詳しくない。祖父母は物心付く前に亡くなっているし、両親は有り難いことに元気だ。
 けれどこれだけは分かる。
 少なくとも受付を見送られる当人がするのは絶対おかしい。

 始まりは地方新聞に載った小さな文字だけのお知らせだった。
 中学時代の同級生の生前葬を近くの葬祭場でするという内容の。
 一瞬、彼女は余命宣告でもされたのかと思ったが「同窓会感覚でお越し下さい」との言葉で違うと確信する。
 現に受付で友人と無駄話をしている彼女はすこぶる元気そうだ。
 すでにちらほら来ている人もいるが、服装に困ったのかブラックフォーマルは避けたが地味目のスーツ姿がほとんどで、就活のガイダンスを思い起こさせる。う、苦労したから思い出しだけで泣けてきた。けど、生前葬で泣いてると思われたら絶対恥だから我慢だ。来てる人地元なだけあって結構知り合いだし。
 よくよく見ると葬祭場のスタッフも混じっているようだ。なるほどスタッフと分かりやすいように黒ではない地味な制服でそろえてるっぽいが、この状況だと埋没してるないろんな意味で。
 好奇心で生前葬のプランなんて有ったんですねと聞いてみたらお客様のご希望に応じるためには生前に自ら計画を立てて実行していただくのが云々でそのテストケースとして今回の以下略と直訳するとごり押しされたと説明してくれた。
 ついでにくれた真新しいパンフレットはご希望とご予算が強調されていた、やりたくてやってる訳ではないと。それでも今後やりたいと思う人が万一いたら対応しようという方針は出る程度には誠実なところらしい。
 こういうとあれだがこんな田舎の年寄りの葬儀専用みたいなところにしては頑張っていると思う。
 それでも俺が自分の葬儀のために使おうとは思わないがな。

 そして葬儀が始まったわけだが、どう考えても我慢大会だった。
 笑っちゃいけないなんたらいう番組、まともに見たことはないがたぶんこんな状態だろう。
 真面目にお経を唱えられる坊さんをわりと尊敬した。やはり宗教などやってると精神修行が出来ているものなのか? それとも彼女の知り合いじゃないからか?
 これが五十年ぐらい先にあった出来事なら、こっちも老い先短いだろうし会えるうちに皆を集めるために生前葬もいいかなあと思ったかもしれないが、この年でそこまで問題のない状況では本気で笑い事でしかない。
 って、お棺の中真っ先に笑うな!! 分かってても怖いだろっ。

 生前葬だからか、彼女の希望がそうだったからか、葬儀の後は場所を移動してバイキング形式の昼食、その後解散という流れらしい。二次会する? とか彼女そっちのけで話合ってるグループがある辺りマジで同窓会感覚だな。てか次の同窓会のネタだな。
 妙に時間が長く取られてる昼食の時間中彼女はあちこちでいろいろな話をしているようだった。バイキングだし知り合いも多いし時間の潰し様はいくらでもあるからまぁ長くても構わないが。
 久々に会った友人に聞いてみるとここから出て住んでいるので新聞は見なかったが親やこちらにいる知人から連絡が来たので一応来たみたいなのがほとんどだった。
 進学や就職や引っ越しや結婚で距離が開いて、それだけの年月が経てばそうなるのも当然だろう。

 俺のところにも彼女は来た。
 アルコールでも入ってるのかやたらとハイだった。こんな子だっただろうか?
 もっと真面目で大人しい……正直にいえば初恋だった。
 少なくとも生前葬なんて珍しいことをしようとするタイプではなかった気がする。
 またねもさよならも言わず彼女は次に向かう。
 今でも好きな訳ではなかったが、失恋したような気分になった。

 そんな変わった出来事も日常に紛れ始めて思い出さなくなった頃、また彼女が新聞に載った。
 それが死亡欄だったならマジで余命宣告とかされていたのかと思っただろうし、事故や事件に巻き込まれていたなら縁起でもないことをしたからかもと思っただろうし、その結果死んでいたなら何か予感が有ったんだろうと思っただろう。自殺なら盛大な遺書だったのだなと思うと同時に何も出来なかった自分をそれでも責めただろう。

 けれどそれは結婚のニュースだった。

 それだけなら披露宴で同窓会感覚再びなだけの話だが、新聞、しかも全国版に写真付きで載るような結婚なのだからそう簡単な話ではない。
 外国の王族に見初められた上での婚約らしい。
 えーっと、何だっけ? そう、ハーレクインかよ!?
 と、突っ込めればまだ良かったが、王族との結婚が少なくともおとぎ話のように王子さまと結婚しましためでたしめでたしとはいかないことぐらい分かる。
 当然生活はガラッと変わるだろう。
 いわゆる玉の輿というヤツでいい思いをするかもしれない。
 けれど権力に関わるということは、情勢や逆恨みによって当人どころか下手をすれば友人や家族も暗殺や人質に取られる危険性に晒されることもあるかもしれない。
 そこまで行かずとも周りに妬まれたり、マスコミに追い回される可能性もある。
 新聞に書かれた彼女の名前はまだ結婚していないというのに名字が変わっていた。
 恐らくその国と利害関係が一致する、そして警備を雇えるような家に養女に行ったのだろう。
 そしてこちらとの縁を切ったのだろう。
 夜にも鍵を閉めないような危機意識のない田舎を巻き込まないために。

 どんな経緯があったかは分からない。
 望んで結婚するのか、断り切れなくて結婚させられるのかすら。
 それを話せるような人が今の彼女にいるのだろうか?
 俺はそれすら知らなかった。

 やたらと楽しそうに写っていた遺影を思い出す。なのでやっていたことが余計に悪ふざけとしか思えなかった。
 それを見ていたなら今回新聞に載っている笑顔がどれだけ取り繕われたものか分かるだろう。

 どう考えても冗談でやったとしか思えなかった。
 それでもあれは確かに彼女の葬式だった。

 事情をなにも言えなかった彼女が。
 知人に故郷にそしてそれまでの自分自身に別れを告げるための場所だったのだから。
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