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幸せなままいて欲しかった
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少し暑すぎるとはいえ秋らしい色をした空が涙で沈む。
泣き出した後で自分が悲しんでいることを知る。
「ちょっ、どうした!?」
社会科見学で同じ班になった子がぎょっとした声を上げ、それで我に返る。
「目にゴミが入っちゃって……」
ベタすぎるいいわけだがさして親しくもないせいか、それ以上突っ込んでこなかった。
それが心底ありがたい。
この遺跡についての事前学習は当然させられた。
細かい事を省くとこの遺跡の集落は近隣に越してきた部族に攻め込まれて滅ぼされたらしい。
別にテストに出るわけでなし、正直どうでも良かったけれど。
良かったはずなんだけど。
脳裏に浮かぶ顔は現在の価値観から考えると身も蓋もなく百年の恋も冷めそうだったりするけれど。
当時の記憶に引きずられているのか、百年以上たっているからか、ただただ愛しい。
あたしはこの集落の巫女で。
あの人は長の息子だった。
この集落での巫女というのは神の花嫁で、その身に神を降ろすことで予言をする存在だった。
当然、他の人との結婚は望めない。
代々才のある娘を引き取り育て、次代の巫女としていた。
神を降ろすといっても何か薬を飲んでトリップしていたのだろう。
その証拠に巫女は予言をする前に何か得体の知れないものを飲まされたし、晩年は大概狂うかそこまで生きられないかのどちらかだった。
そう思っていたのは実はその頃からで。
己のした予言を何も信じていなかった。
だからあの人に望んでいるであろう結果を告げた。
その結婚が災いをもたらすと出たけれどそれを無視した。
あたしはあの人とは結ばれない。
それでもあの人には幸せでいて欲しかった。
あるいはそれでも早すぎる死は偽の予言をした代償だったのかもしれない。
幸か不幸かあたしが死んだのはその結婚を祝う宴の晩で。
あの人が幸せになれると信じたままだった。
あの人が生きていた時期なのか、死んだ後なのかは分からない。
予言にあった災いがそうであったのかも。
調査の結果に基づく予測であって、真実かどうかも本当の意味では知らない。
けれどここは確かに今は滅んだ場所でしかないから。
ここを好きだと言っていたのに。
守りたいと言っていたのに。
前世の記憶なんて戻らなければ良かった。
戻っても真実なんて知らなければ良かった。
あの人には幸せに、幸せなままいて欲しかった。
あの人が、あるいはその子供や孫が子孫がそんな風に不幸になってしまったなんて知りたくはなかった。
そうしたらあたしも幸せでいられたのに。
一番強い気持ちがそれだったことに今のあたしが絶望する。
分からない。
どうすればあたしは幸せになれるのだろう。
「大丈夫?」
その言葉とともに目の前に見えたのは濡らされたハンカチだった。
知らず知らずにうつむいていた顔を上げるとベタな言い訳をした相手がハンカチを差し出していた。
話を流したのではなく完全に信じていたらしい。
「あり……が……とう」
受け取ったハンカチの冷たさに少し冷静になる。
あれは前世であって今のあたしのすべてではない。
そしてこうやって心配してくれる人もいる。
今までにも幸せなことは有ったし、これからもきっとある。
涙をぬぐった目に映ったものは、さっきとは違って見えた。
泣き出した後で自分が悲しんでいることを知る。
「ちょっ、どうした!?」
社会科見学で同じ班になった子がぎょっとした声を上げ、それで我に返る。
「目にゴミが入っちゃって……」
ベタすぎるいいわけだがさして親しくもないせいか、それ以上突っ込んでこなかった。
それが心底ありがたい。
この遺跡についての事前学習は当然させられた。
細かい事を省くとこの遺跡の集落は近隣に越してきた部族に攻め込まれて滅ぼされたらしい。
別にテストに出るわけでなし、正直どうでも良かったけれど。
良かったはずなんだけど。
脳裏に浮かぶ顔は現在の価値観から考えると身も蓋もなく百年の恋も冷めそうだったりするけれど。
当時の記憶に引きずられているのか、百年以上たっているからか、ただただ愛しい。
あたしはこの集落の巫女で。
あの人は長の息子だった。
この集落での巫女というのは神の花嫁で、その身に神を降ろすことで予言をする存在だった。
当然、他の人との結婚は望めない。
代々才のある娘を引き取り育て、次代の巫女としていた。
神を降ろすといっても何か薬を飲んでトリップしていたのだろう。
その証拠に巫女は予言をする前に何か得体の知れないものを飲まされたし、晩年は大概狂うかそこまで生きられないかのどちらかだった。
そう思っていたのは実はその頃からで。
己のした予言を何も信じていなかった。
だからあの人に望んでいるであろう結果を告げた。
その結婚が災いをもたらすと出たけれどそれを無視した。
あたしはあの人とは結ばれない。
それでもあの人には幸せでいて欲しかった。
あるいはそれでも早すぎる死は偽の予言をした代償だったのかもしれない。
幸か不幸かあたしが死んだのはその結婚を祝う宴の晩で。
あの人が幸せになれると信じたままだった。
あの人が生きていた時期なのか、死んだ後なのかは分からない。
予言にあった災いがそうであったのかも。
調査の結果に基づく予測であって、真実かどうかも本当の意味では知らない。
けれどここは確かに今は滅んだ場所でしかないから。
ここを好きだと言っていたのに。
守りたいと言っていたのに。
前世の記憶なんて戻らなければ良かった。
戻っても真実なんて知らなければ良かった。
あの人には幸せに、幸せなままいて欲しかった。
あの人が、あるいはその子供や孫が子孫がそんな風に不幸になってしまったなんて知りたくはなかった。
そうしたらあたしも幸せでいられたのに。
一番強い気持ちがそれだったことに今のあたしが絶望する。
分からない。
どうすればあたしは幸せになれるのだろう。
「大丈夫?」
その言葉とともに目の前に見えたのは濡らされたハンカチだった。
知らず知らずにうつむいていた顔を上げるとベタな言い訳をした相手がハンカチを差し出していた。
話を流したのではなく完全に信じていたらしい。
「あり……が……とう」
受け取ったハンカチの冷たさに少し冷静になる。
あれは前世であって今のあたしのすべてではない。
そしてこうやって心配してくれる人もいる。
今までにも幸せなことは有ったし、これからもきっとある。
涙をぬぐった目に映ったものは、さっきとは違って見えた。
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