聖女じゃないから祈れない

こうやさい

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聖女じゃないから祈れない

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 それが聖女だとあの方は言いました。
 聖女になる事が出来たなら王子あのかたとの結婚でも叶う可能性があると。

 それは今よりも、自分が思っていた時よりも幼い頃の思い出で。
 一目惚れしたあの方が言った言葉は絶対で。
 単純だったあたしは、それを信じて聖女を目指した。
 教会の孤児院なので比較的身近だったせいもある。

 それが慰問に来た殿下が、たまたま二人っきりになった女児にかけた、特に深い意味のない言葉だったとも気づきもせずに。
 愛されているとすら思っていた。

 幸か不幸か、あたしには聖女となれる素質はあった。
 それで夢から覚めるのが更に遅れてしまった。
 長ずるに従って誰もが分かってくる事実からは意図的に耳をふさいでいた。
 そうやって聖女になった。

 その殿下の結婚が決まった。
 慰問に来たときには既に婚約が決まっていたらしいし。
 それを覆すほどの力を持つ聖女はあたしじゃなくとも現れなかった。
 そもそも聖女は力の強弱はあれど世界に一人だけではない以上、婚約者がいなかったとしてもそれだけで結婚出来る訳ではない。
 だから何の意外性もない当然の結果。

 けれどあたしには世界が終わってしまうかのような衝撃だった。

 反対に殿下の花嫁は血筋をどこまで辿っても継ぐ子供がいない場合でもない限り唯一だ。
 今の花嫁が死んでしまったとしてもそれは変わらない。
 なのになぜ信じてしまえていたのだろう。

 それでも聖女の力があったら花嫁を殺そうとしたかもしれないけれど。
 気がつくとあたしは力を使えなくなっていた。
 いくら祈っても何も起こらない。
 花嫁を殺すどころか、普段やっている基本的な事まで。

 最初は人を呪うような事を願った女に神はお力を貸してくれないのかと思った。
 あるいは花嫁を唯一のものとしてしまった宗教そのものに反発してしまったのかと。
 けれど考えてみればそれまでも無意識だっただけで神を信じ神の教えに従い善行を行ってきたわけではない。
 聖女の力を示すのに善行とされる行為が分かりやすかっただけ……つまりは自分のためだ。
 結果は同じなので外から見れば分からないだろうが、あたしはそれに気づいてしまった。
 そもそも信仰の力だけで成り立つなら素質を問われるはずがない。

 殿下に並び立とうという気持ちは信仰に限りなく近いほどまっすぐだった。
 けれど花嫁を排除したところでその夢は叶わない。
 そうして揺らいでしまったから何の能力ちからも無くなってしまったのだろう。

 こうしてあたしは能力をなくし、その真実を知った。

 それからあたしは住み慣れた教会を出た。
 聖女じゃなくなったあたしを止める人はいなかった。
 力がなくなったことで遠巻きに様子を窺われる事が煩わしくなったせいもあるけど。
 出来うる限り殿下から、その思い出から離れたかった。

 救いが欲しくとももう祈れない。
 自分が今までそれに尽くしていないと知ってしまったから。
 自分がそれにふさわしい存在じゃないと知ってしまったから。

 それでもどこかに救いはあるだろうか?
 それを救いと思える日が来るのだろうか?
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