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前編
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「豪華な花束と共に告白されるのを素敵と思うこともあるわよ。けど、そういう人と長く――結婚してまで付き合えるかが疑問なの」
お貴族様じゃあるまいしまだそこまでかんがえなくていいわよぉ、と返された言葉に彼女は曖昧に微笑んでいた。とりあえず付き合ってみればいいのに、という言葉にも。
それを聞いたのはずいぶんと前の話だ。立ち聞きするつもりはなかったのだが、つい動けなくなった。
確かに貴族の婚約でもあるまいし、大概は知り合ってから相手を選び、告白を受け入れてくれたなら付き合って、その間に双方が結婚してもいいと思ったなら婚約して結婚となる。
お貴族様は下手をすれば知り合う前に婚約で解消となると手続きがややこしいらしいからそれは慎重になるだろう。
我々だってまるでしがらみがないというわけではないが、告白するまでに様子を見る期間が持てる可能性はあるだろうし、告白された方も受け入れるかどうか見極めていない場合猶予を求める事が出来る。その間なら告白した方に心変わりがあったしても大概はそこまでの責任は求められないことが多い。……正確には多少こじれるがまっとうなら周りが仲裁する。
だから気楽にいわゆる「オトモダチから始めましょう」をやれと言っていたのだろうが。
けれど彼女は美しい。
今すぐ王様が馬車で乗り付けてきて生き別れの娘だとか言いだしたら周りはきっと信じるだろう。それくらいこの辺りでは見かけない美人だ。
因みにご両親は健在で、髪の色などは不自然ではないため、遠い昔に滅んだ国の王族の末裔で容姿は先祖返りなんて噂もあった。
本人はごくごく気さくだし、幼い頃から一緒にいるわけだし、普段は知人にまで崇拝されたり距離を取られたりもしていないのだが、彼女を手に入れたいと思っている男達は別だし、それでも他の女性達が見た限りは妬まず多少距離感に差はあれど普通に接しているというのはある意味特別だろう。
この手に入れたい男の中には身近なヤツら以外にも、彼女を見初めた裕福な商人や下級貴族、場合によってはそれ以上も含まれる。貴族の場合正妻に迎えると言われたらだましに来ていると判断するらしいが、上位者相手の上に一見誠実なので断るのに苦労するらしい。
正直どうやって断っているのだろうと噂を聞いた時思ったが、彼女の勤め先の店長が貴族女性にコネがあるとかで……もちろん、詳しくは聞かない。世の中には知らない方がいいこともある。
それはとにかく、当時は知らないが、今彼女は実際に豪華な花束と共に告白や求婚をされたことがある訳で。
けれどそういう相手と付き合えるとは彼女は思っていないのだろう。恐らく贅沢出来るかもしれないが不安定な愛人より、ささやかでも穏やかな生活を望んでいるのだろう。
ならば自分でもと思う輩はそれなりにいたが。
どうしても彼女がされていた豪華な求婚を前提にしてしまい、大事なことを見失いそうになる。
意識するなというのも無理だろうが、その為に結婚や二人での生活のために貯めていた資金まで使い込んでしまっては、その後彼女の望んでいる暮らしを提供出来ない。
なまじ身近なだけにどこかから遺産でも転がって来たのでなければ無理をすればバレる。
過去に、実際にやった輩がいた。
その時彼女はその場ではお断りしなかった。ずいぶんと珍しいことなのでそれだけで何人泣いたことか。
けれどされなかった輩は幸せいっぱいかと思いきや、それ故にその後の食事等でも見栄を張り続けてしまい、どんどんと困窮していった。
そしてしばらく付き合った後、彼女は結局お断りした。
これで金が無くなったからポイ捨てしたのなら彼女が悪女だというだけの話だが。
彼女は最初の求婚時に貰った花束で匂い袋を作り、その売り上げの他の材料費と手間賃以外を男に返したというか渡したらしい。
使った金額より少しだけ多かった。
実際男は借金で首をくくる寸前だったのでそういう意味では助かったのだが。
矜持はズタボロで、失恋したことも相まってしばらく生暖かい目で見られていた。
単純に金を渡されるのも嫌だが、あげたはずの花が形を変えて戻されるなんて、いっそ死なせてやった方がマシとまで言っていたヤツもいた。
それ以来、彼女への求婚は止まった。
それでも彼女に失望したとかいうヤツはなぜかいないのだが。
同じ失敗をしたいというヤツもいない。
だが、無理のない範囲で最大限印象に残る告白とはどんなものだろう。
他の人より早いほうがいいのか、遅い方がいいのか。
手持ちの資産はできる限り結婚やその後の資金の方に回した方がいいのか、それともぎりぎりまで告白のためにつぎ込んだ方がいいのか。
逆に彼女の方に好きな人がいるという話も聞かない。過去でもだ。
まだ勝負がついていないのはいいが、好みも分からない。
堅実な人の方が結婚相手としてはいいのだろうが、そもそも対象に見られなければいくら堅実でも意味はない。
どうすれば彼女に選んでもらえるのだろう?
お貴族様じゃあるまいしまだそこまでかんがえなくていいわよぉ、と返された言葉に彼女は曖昧に微笑んでいた。とりあえず付き合ってみればいいのに、という言葉にも。
それを聞いたのはずいぶんと前の話だ。立ち聞きするつもりはなかったのだが、つい動けなくなった。
確かに貴族の婚約でもあるまいし、大概は知り合ってから相手を選び、告白を受け入れてくれたなら付き合って、その間に双方が結婚してもいいと思ったなら婚約して結婚となる。
お貴族様は下手をすれば知り合う前に婚約で解消となると手続きがややこしいらしいからそれは慎重になるだろう。
我々だってまるでしがらみがないというわけではないが、告白するまでに様子を見る期間が持てる可能性はあるだろうし、告白された方も受け入れるかどうか見極めていない場合猶予を求める事が出来る。その間なら告白した方に心変わりがあったしても大概はそこまでの責任は求められないことが多い。……正確には多少こじれるがまっとうなら周りが仲裁する。
だから気楽にいわゆる「オトモダチから始めましょう」をやれと言っていたのだろうが。
けれど彼女は美しい。
今すぐ王様が馬車で乗り付けてきて生き別れの娘だとか言いだしたら周りはきっと信じるだろう。それくらいこの辺りでは見かけない美人だ。
因みにご両親は健在で、髪の色などは不自然ではないため、遠い昔に滅んだ国の王族の末裔で容姿は先祖返りなんて噂もあった。
本人はごくごく気さくだし、幼い頃から一緒にいるわけだし、普段は知人にまで崇拝されたり距離を取られたりもしていないのだが、彼女を手に入れたいと思っている男達は別だし、それでも他の女性達が見た限りは妬まず多少距離感に差はあれど普通に接しているというのはある意味特別だろう。
この手に入れたい男の中には身近なヤツら以外にも、彼女を見初めた裕福な商人や下級貴族、場合によってはそれ以上も含まれる。貴族の場合正妻に迎えると言われたらだましに来ていると判断するらしいが、上位者相手の上に一見誠実なので断るのに苦労するらしい。
正直どうやって断っているのだろうと噂を聞いた時思ったが、彼女の勤め先の店長が貴族女性にコネがあるとかで……もちろん、詳しくは聞かない。世の中には知らない方がいいこともある。
それはとにかく、当時は知らないが、今彼女は実際に豪華な花束と共に告白や求婚をされたことがある訳で。
けれどそういう相手と付き合えるとは彼女は思っていないのだろう。恐らく贅沢出来るかもしれないが不安定な愛人より、ささやかでも穏やかな生活を望んでいるのだろう。
ならば自分でもと思う輩はそれなりにいたが。
どうしても彼女がされていた豪華な求婚を前提にしてしまい、大事なことを見失いそうになる。
意識するなというのも無理だろうが、その為に結婚や二人での生活のために貯めていた資金まで使い込んでしまっては、その後彼女の望んでいる暮らしを提供出来ない。
なまじ身近なだけにどこかから遺産でも転がって来たのでなければ無理をすればバレる。
過去に、実際にやった輩がいた。
その時彼女はその場ではお断りしなかった。ずいぶんと珍しいことなのでそれだけで何人泣いたことか。
けれどされなかった輩は幸せいっぱいかと思いきや、それ故にその後の食事等でも見栄を張り続けてしまい、どんどんと困窮していった。
そしてしばらく付き合った後、彼女は結局お断りした。
これで金が無くなったからポイ捨てしたのなら彼女が悪女だというだけの話だが。
彼女は最初の求婚時に貰った花束で匂い袋を作り、その売り上げの他の材料費と手間賃以外を男に返したというか渡したらしい。
使った金額より少しだけ多かった。
実際男は借金で首をくくる寸前だったのでそういう意味では助かったのだが。
矜持はズタボロで、失恋したことも相まってしばらく生暖かい目で見られていた。
単純に金を渡されるのも嫌だが、あげたはずの花が形を変えて戻されるなんて、いっそ死なせてやった方がマシとまで言っていたヤツもいた。
それ以来、彼女への求婚は止まった。
それでも彼女に失望したとかいうヤツはなぜかいないのだが。
同じ失敗をしたいというヤツもいない。
だが、無理のない範囲で最大限印象に残る告白とはどんなものだろう。
他の人より早いほうがいいのか、遅い方がいいのか。
手持ちの資産はできる限り結婚やその後の資金の方に回した方がいいのか、それともぎりぎりまで告白のためにつぎ込んだ方がいいのか。
逆に彼女の方に好きな人がいるという話も聞かない。過去でもだ。
まだ勝負がついていないのはいいが、好みも分からない。
堅実な人の方が結婚相手としてはいいのだろうが、そもそも対象に見られなければいくら堅実でも意味はない。
どうすれば彼女に選んでもらえるのだろう?
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