このバグが直るまで

こうやさい

文字の大きさ
2 / 2

後編

しおりを挟む
 設定資料集などで知った分かったところで攻略には何も関係ない情報によると、この令嬢はまだ赤子と言っていい頃に攫われた過去がある。
 当時の侯爵は母方の祖父で、実父ちちは婿養子であり、後継ぎは母方の血を引くものでなければいけないとされていた。
 そして母は令嬢を生んだときに亡くなっており、このまま令嬢が見つからなければ母方の叔母の息子を養子に迎え継がせる事となった。
 そりゃ実父、必死に探す。母方の叔母の息子ということは実父からすれば血のつながりは欠片もない……とは貴族だから言えないかもしれないけど薄い。おまけに保護者がついてくるようなものだから自由度が減る。下手をすれば追い出される。
 一方の令嬢は攫っておきながら逃げるのに邪魔という理由で身ぐるみ剥がされて余所の領地に捨てられていた。金持ちそうだから攫いはしたが、具体的にどこの家の子とは分かってなかったわけだ。名前とかまともに言える年齢じゃなかったし。
 そこを親切な老夫婦が拾ってくれて、その家で娘として五年育てられた。
 とても幸せに暮らしていたのに、実父に見つかってしまう。既に手段を選ばないほど追い詰められた実父に。
 ……多分本当は特徴が似通っただけの別人だったとしても、辻褄が合うなら実娘むすめに仕立て上げていたに違いない。
 実父は娘の養父母を実質人質に取り、本格的な社交が始まるまでにと令嬢としてのすべてをたたき込もうとする。娘が戻ってきても後継ぎにふさわしくないと思われれば結果は変わらないからだ。
 ぎりぎり令嬢としておかしな事を吹き込まれたわけではないが、立派な令嬢にならなければ誰にも愛されないとすり込まれ、実際養父母から離されてしまった以上実父の手配した厳しい人しか周りにいないわけで、まだまだ愛情が欲しい年頃の令嬢は頑張った。そして情操面以外は本当に完璧といっていい令嬢になった。
 で、学校入ったら平民、つまりあのまま養父母に育てられていたら令嬢もこうなったかもしれないというヒロインが普通に周りに好かれている。乙女ゲーだから男性比率高めだけど。

 ……ここでさ、壊れれば悪役ぽいかつゲームしか知らないプレイヤーの同情もある意味では初期から引けたかもしれないけど。
 上手く出来なきゃ親しくしてくれてる人もすぐに離れるともすり込まれていた令嬢は、ヒロインに注意するんだよ、純粋に親切心で。
 ただ、自分が厳しくされすぎていたと気づかず、それをそのままヒロインに向けたものだから、当たりがキツイというかもはやイジメとなったと。
 その上ルートによっては養父母以外まわりで唯一自分を愛してくれていると思っていた婚約者に裏切られるわけだ。婚約者の人気のなさはゲームだけじゃなくその辺の設定も知った人の意見も入ってるんじゃないかと。
 ……考えた人、なんか嫌なことでもあったのか? それとも続編とか裏編とか隠しとかあったのかなぁ、やりたかった。

 きっと彼女は婚約者に断罪されたのがショックだったんだろうなぁ。
 こんな謎の人格呼び出して、自分は殻にとじ込もってしまうほど。これが前世か憑依ならだけど。
 とりあえず逃避したい気持ちはすごいわかる。
 ……けど、ゲームとして考えるとバグでしかないわよね。
 あたしはこのバグが終わるまで付き合わなければならないのだろうか?
 断罪が完了したら実父に捨てられて余所の領地の修道院に追放されることになるはずなんだけど。
 たしかそこまで年齢をとってない養父母が誰かの墓参りをしているイメージイラストがあったから、健康で文化的な生活とか期待できる可能性は低いよね。たぶん実子とはいえ市井で暮らしてた子を無理矢理引き取っておきながら不都合があれば切り捨てるじゃ外聞が悪いというかプレイヤーの対象年齢変わりそうだから幼い頃暮らした土地に帰したといいうことにして、実際はすぐに殺すのだろう。これ以上立場を悪くしないために。むしろ養父母が生きているのが奇跡。
 どのみち文化的は中身があたしじゃ違う意味で難しいと思うけど。

 あいにくとここまで来たら逆転の一手は知りも思い付きもしない。
 仮に思い付いたとしてもバグが直されて修正パッチでも当てられればなかったことにされるのだろう。オンノベだと強制力と言うんだっけ?

 だからあたしに出来るのは一緒に死ぬことだけ。
 しょせん、このバグが直るまでの付き合いだけど。

 そうなったらあたしの存在は消えてしまうのだろう。
 あたし自体はここに墓すら残らない。
 ごめん、あなたが死ぬことよりもそれが悲しい。
 気にしないで幸せに生きて欲しいなんて強がりだった。

 忘れているだけで、前世はちゃんとあたしとして死ねたのだろうか?
 それともこれから目を覚ますのだろうか?
---------------------------------
 お気に入り数で更新。やっぱり読んでつけてるのが少ない感じがする。
しおりを挟む

この作品は感想を受け付けておりません。

あなたにおすすめの小説

ざまぁされるための努力とかしたくない

こうやさい
ファンタジー
 ある日あたしは自分が乙女ゲームの悪役令嬢に転生している事に気付いた。  けどなんか環境違いすぎるんだけど?  例のごとく深く考えないで下さい。ゲーム転生系で前世の記憶が戻った理由自体が強制力とかってあんまなくね? って思いつきから書いただけなので。けど知らないだけであるんだろうな。  作中で「身近な物で代用できますよってその身近がすでにないじゃん的な~」とありますが『俺の知識チートが始まらない』の方が書いたのは後です。これから連想して書きました。  ただいま諸事情で出すべきか否か微妙なので棚上げしてたのとか自サイトの方に上げるべきかどうか悩んでたのとか大昔のとかを放出中です。見直しもあまり出来ないのでいつも以上に誤字脱字等も多いです。ご了承下さい。  恐らく後で消す私信。電話機は通販なのでまだ来てないけどAndroidのBlackBerry買いました、中古の。  中古でもノーパソ買えるだけの値段するやんと思っただろうけど、ノーパソの場合は妥協しての機種だけど、BlackBerryは使ってみたかった機種なので(後で「こんなの使えない」とぶん投げる可能性はあるにしろ)。それに電話機は壊れなくても後二年も経たないうちに強制的に買い換え決まってたので、最低限の覚悟はしてたわけで……もうちょっと壊れるのが遅かったらそれに手をつけてた可能性はあるけど。それにタブレットの調子も最近悪いのでガラケー買ってそっちも別に買い換える可能性を考えると、妥協ノーパソより有意義かなと。妥協して惰性で使い続けるの苦痛だからね。  ……ちなみにパソの調子ですが……なんか無意識に「もう嫌だ」とエンドレスでつぶやいてたらしいくらいの速度です。これだって10動くっていわれてるの買ってハードディスクとか取り替えてもらったりしたんだけどなぁ。

先にわかっているからこそ、用意だけならできたとある婚約破棄騒動

志位斗 茂家波
ファンタジー
調査して準備ができれば、怖くはない。 むしろ、当事者なのに第3者視点でいることができるほどの余裕が持てるのである。 よくある婚約破棄とは言え、のんびり対応できるのだ!! ‥‥‥たまに書きたくなる婚約破棄騒動。 ゲスト、テンプレ入り混じりつつ、お楽しみください。

英雄一家は国を去る【一話完結】

青緑 ネトロア
ファンタジー
婚約者との舞踏会中、火急の知らせにより領地へ帰り、3年かけて魔物大発生を収めたテレジア。3年振りに王都へ戻ったが、国の一大事から護った一家へ言い渡されたのは、テレジアの婚約破棄だった。 - - - - - - - - - - - - - ただいま後日談の加筆を計画中です。 2025/06/22

妹は悪役令嬢ですか?

こうやさい
ファンタジー
 卒業パーティーのさなか、殿下は婚約者に婚約破棄を突きつけた。  その傍らには震えている婚約者の妹の姿があり――。  話の内容より適当な名前考えるのが異様に楽しかった。そういうテンションの時もある。そして名前でネタバレしてしまうこともある(爆)。  本編以外はセルフパロディです。本編のイメージ及び設定を著しく損なう可能性があります。ご了承ください。  冷静考えると恋愛要素がないことに気づいたのでカテゴリを変更します。申し訳ありません。  ただいま諸事情で出すべきか否か微妙なので棚上げしてたのとか自サイトの方に上げるべきかどうか悩んでたのとか大昔のとかを放出中です。見直しもあまり出来ないのでいつも以上に誤字脱字等も多いです。ご了承下さい。  後で消すかもしれない私信。朝の冷え込みがまた強くなった今日この頃、パソコンの冷却ファンが止まらなくなりました(爆)。ファンの方の故障だと思うのですが……考えたら修理から帰ってきたときには既におかしかったからなー、その間に暑くなったせいかとスルーするんじゃなかった。なので修理とか出さずに我慢して使い続けると思うのですが、何かのときは察して下さい(おい)。ちょっとはスマホで何とかなるだろうけど、最近やっとペーストの失敗回数が減ってきたよ。

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

宝箱の中のキラキラ ~悪役令嬢に仕立て上げられそうだけど回避します~

よーこ
ファンタジー
婚約者が男爵家の庶子に篭絡されていることには、前々から気付いていた伯爵令嬢マリアーナ。 しかもなぜか、やってもいない「マリアーナが嫉妬で男爵令嬢をイジメている」との噂が学園中に広まっている。 なんとかしなければならない、婚約者との関係も見直すべきかも、とマリアーナは思っていた。 そしたら婚約者がタイミングよく”あること”をやらかしてくれた。 この機会を逃す手はない! ということで、マリアーナが友人たちの力を借りて婚約者と男爵令嬢にやり返し、幸せを手に入れるお話。 よくある断罪劇からの反撃です。

むしゃくしゃしてやった、後悔はしていないがやばいとは思っている

F.conoe
ファンタジー
婚約者をないがしろにしていい気になってる王子の国とかまじ終わってるよねー

処理中です...