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前編
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ごぶり、と口からあふれたのは単なる血のはずですけれど。
ずっと言えなかった言葉をやっと形に出来た気がいたしました。
わたくしは第一王子殿下の婚約者でした。
いちいち元をつけるのも手間なのでそのまま呼びますけれど、この婚約者さまは、はっきりと言ってしまえばおバカです。
おバカにもいろいろありますが、この方は大きく分ければ精神年齢が成長しない系でしょうか?
自分の好きな事しかやりたがらない反面、身近なことにしか目が向かないので大それた事を自分から意図的にやらかすことはありません。周りの人間は迷惑ですが、重要なところに近付けなければ致命的な事はならないでしょう。婚約者さまはそれでも王子なのにその程度にしか関わらせてはいけないのはどうなのでしょう?
そうね、たとえるなら巷で流行の学園で特待生に一目惚れし違う価値観に感化され婚約者に対して婚約破棄を皆の前で突きつけるような質と言えば、納得して下さる方がそれなりにいそうです。
ちなみにこの手の小説は派生も含めて我が国では発禁になっていますが、言語を同じくする近隣諸国から流れ込んできますの。規制までは致しておりませんので下位貴族や市井の文字の読める女性は大概どれかは読んでらっしゃるでしょう。上位貴族は一部を除き他国の娯楽本を読むなどはしたないという考えをお持ちですけど、結局あらすじは知られているのですから発禁の意味はありませんわね。
ちなみに発禁になったのは婚約者さまがまだお小さい、わたくしとの婚約が整った辺りの時期ですわ。市井ならまだ状況に気づかれない程度の年齢でも王族でしたら問題ということです。
とにかく、そんな感じの婚約者さまですので、上手くなだめて、重要な部分からは遠ざけ、お飾りとしなければ、国を持たせることは出来ないと思われたのでしょう。
そのなだめ役に選ばれたのがわたくし、補佐役に選ばれたのが第二王子殿下です。幸いと言っていいのか悪いのか婚約者さまには弟殿下がいらして、年下ながらも優秀ですの。
そこですっぱりと婚約者さまを切り捨てて第二王子殿下に継がせれば周りの苦労も減ったでしょうに、婚約者さまは良くも悪くもそこまでの問題は起こしませんの。早めに起こして下されば傷は浅くすみますのに。
けれど、それがわたくしが婚約者さまをそそのかした理由ではありません。
件の小説の……派生の方だったかしら? で、後に婚約破棄をする王子が浮気を謳歌していらした頃、その王子の婚約者は王妃教育で忙しくそんな事をする暇もないのに婚約破棄を成立させるために浮気相手を苛めたという冤罪を被せられる話がありまして。仮に本当に悪意を向けていたとしてもその状況なら一方的に罪に問えるものではないでしょうに。
それの更に派生で王子の婚約者の方が先に浮気していたというのもありますの。
政略ですもの、心に別の方への想いを秘めているくらい浮気に入りませんわ……とでもいいたいところですけれど、そんな感情を覚える前に王妃教育漬けの生活に突入しましたので普通は正式に社交を始めるまで出会いなんてないはずですの。正確には護衛や使用人は近くにいるのですけれど、彼らは迂遠に言って恋愛対象ではないと貴族の娘なら淑女教育が始まれば真っ先に教わりますわ、……身につくかどうかは個人に依りますけれど。
けれどわたくしの場合護衛や使用人ではない年の近い殿方と忙しい中にも接触する機会がそれなりにありまして。
そう、弟殿下です。
婚約者さまがいらっしゃるので、長所や好ましいところ、そして抱く感情の種類の違いがはっきり分かりますし、もしかしたら年齢相応だったのかもしれませんけれど、年下といえど大人びていると感じておりました。
そして将来婚約者さまを補佐するに向かって共に努力する相手ですもの。大小種類はあれど好意的な感情を抱いても不思議ではないでしょう?
けれど、わたくしは愛した方を王位につけたいと望んだわけでもありません。
ただ、殿下の瞳に映りたかった、それだけなのです。
ずっと言えなかった言葉をやっと形に出来た気がいたしました。
わたくしは第一王子殿下の婚約者でした。
いちいち元をつけるのも手間なのでそのまま呼びますけれど、この婚約者さまは、はっきりと言ってしまえばおバカです。
おバカにもいろいろありますが、この方は大きく分ければ精神年齢が成長しない系でしょうか?
自分の好きな事しかやりたがらない反面、身近なことにしか目が向かないので大それた事を自分から意図的にやらかすことはありません。周りの人間は迷惑ですが、重要なところに近付けなければ致命的な事はならないでしょう。婚約者さまはそれでも王子なのにその程度にしか関わらせてはいけないのはどうなのでしょう?
そうね、たとえるなら巷で流行の学園で特待生に一目惚れし違う価値観に感化され婚約者に対して婚約破棄を皆の前で突きつけるような質と言えば、納得して下さる方がそれなりにいそうです。
ちなみにこの手の小説は派生も含めて我が国では発禁になっていますが、言語を同じくする近隣諸国から流れ込んできますの。規制までは致しておりませんので下位貴族や市井の文字の読める女性は大概どれかは読んでらっしゃるでしょう。上位貴族は一部を除き他国の娯楽本を読むなどはしたないという考えをお持ちですけど、結局あらすじは知られているのですから発禁の意味はありませんわね。
ちなみに発禁になったのは婚約者さまがまだお小さい、わたくしとの婚約が整った辺りの時期ですわ。市井ならまだ状況に気づかれない程度の年齢でも王族でしたら問題ということです。
とにかく、そんな感じの婚約者さまですので、上手くなだめて、重要な部分からは遠ざけ、お飾りとしなければ、国を持たせることは出来ないと思われたのでしょう。
そのなだめ役に選ばれたのがわたくし、補佐役に選ばれたのが第二王子殿下です。幸いと言っていいのか悪いのか婚約者さまには弟殿下がいらして、年下ながらも優秀ですの。
そこですっぱりと婚約者さまを切り捨てて第二王子殿下に継がせれば周りの苦労も減ったでしょうに、婚約者さまは良くも悪くもそこまでの問題は起こしませんの。早めに起こして下されば傷は浅くすみますのに。
けれど、それがわたくしが婚約者さまをそそのかした理由ではありません。
件の小説の……派生の方だったかしら? で、後に婚約破棄をする王子が浮気を謳歌していらした頃、その王子の婚約者は王妃教育で忙しくそんな事をする暇もないのに婚約破棄を成立させるために浮気相手を苛めたという冤罪を被せられる話がありまして。仮に本当に悪意を向けていたとしてもその状況なら一方的に罪に問えるものではないでしょうに。
それの更に派生で王子の婚約者の方が先に浮気していたというのもありますの。
政略ですもの、心に別の方への想いを秘めているくらい浮気に入りませんわ……とでもいいたいところですけれど、そんな感情を覚える前に王妃教育漬けの生活に突入しましたので普通は正式に社交を始めるまで出会いなんてないはずですの。正確には護衛や使用人は近くにいるのですけれど、彼らは迂遠に言って恋愛対象ではないと貴族の娘なら淑女教育が始まれば真っ先に教わりますわ、……身につくかどうかは個人に依りますけれど。
けれどわたくしの場合護衛や使用人ではない年の近い殿方と忙しい中にも接触する機会がそれなりにありまして。
そう、弟殿下です。
婚約者さまがいらっしゃるので、長所や好ましいところ、そして抱く感情の種類の違いがはっきり分かりますし、もしかしたら年齢相応だったのかもしれませんけれど、年下といえど大人びていると感じておりました。
そして将来婚約者さまを補佐するに向かって共に努力する相手ですもの。大小種類はあれど好意的な感情を抱いても不思議ではないでしょう?
けれど、わたくしは愛した方を王位につけたいと望んだわけでもありません。
ただ、殿下の瞳に映りたかった、それだけなのです。
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