2 / 2
後編
しおりを挟む
「それで、似てるからなんなの?」
影のせいか、泣き止んだはずなのにさっきより暗く見える横顔に向かって尋ねる。
確かに、両方とも母親似で、男の子といえどごつくなる前だったから似ているだろうとは思う。
最近はごつくならない男子も多いけど、運動やってたんだからあのまま生きていればおそらくそうなったはず。あ、太る方の可能性もあったか。
「……カケルの事が忘れられなくて……」
まぁ、こんなところまで来るくらいなのだからそうでしょうね。
「けどご家族とかの顔を見たら成長して好みでなくなったとこを想像できて忘れられるかなって」
まぁ、中学生くらいならごつい大人の第一印象を素敵と思う人は少ないと思うけど、わたしの経験上はだけど。
「それはおあいにく様」
父はそれなりだけど父親似なわけじゃないし、母とわたしは小中学生にはまけるかもしれないけど、男性ではないのでそこまではごつくない。お手軽に好みじゃない成長した姿を想像出来るものを見るのは無理だろう。
これだけじゃ好きなのは顔だけのような言い草だけど、本当にそうならもうとっくに終わっているだろう。わたしを美人と言っていたが、化粧が上手くなっただけで、それで芸能人になれるかと尋ねるとお世辞でなければ明言を避けるであろう程度だ。それに似ている程度の顔ならディスプレイの向こうでも現実でももっとかっこいいのはそれなりにいる。
「片想いだったの?」
こういうとあれだけどこんなかわいい彼女がいたら多分自殺なんてしないだろうし。
「はい。……見てるだけで精一杯で」
わたしもそれでもそんな時代はあった。
妄想に近い想像の中で相手と付き合って名前を呼び合い、現実にもそうなりたかったのに、実際は振られるのが恐いのが半分、理想が壊れるのが嫌なのが半分で、見ているだけでその一歩が踏み出せなかった。
この子は自然に名前を呼んでいるけれど、きっとそれだけ心の中で話しかけていたんだろう。――いなくなった後も。
「そう」
告白してくれていればよかったのに、とは言わない。
あれはわたしたち皆の責任で、この子のせいではない。
それに既に自分を責めているのに追い打ちをかけるほどこの子が憎い訳でもない。
「走る姿が早かったんです」
姿が早いとは妙な表現だけれど、見たことがあるならば理解出来る。
きれいとか整ってるとか動きがとかじゃなく、ただ早い、そう思える。
それだけはきっと死ぬ直前まで変わらなかったと思う。
「目が離せなくなったんです」
こんなに想われていたのに死ぬなんて馬鹿だと思う。
わたし達の想いも負けてなかったと思うけれども、そのせいで逃げ帰れなくなったのだろうからあまりよいものではなかったのだろう。
「そのまま、駆け抜けていってしまったのよ」
いつか母がつぶやいていた言葉を彼女に向ける。
「あなたが見ているのはその残像に過ぎないの」
その気持ちだけを見つめて、他が見えなくなっているのだと思う。
だから空の蒼さに気づけなかったのだろう。
「このままいても、どうにもならないわ」
そんな言葉幾らでもかけられただろうし、わたしもかけられたからと言って即座に立ち直れるものではなかったけれど。
「そう、ですね」
それでも遺族に会ったという出来事が何かの区切りになったのかもしれない。
「あたし、いきますね」
そう言った彼女は。
陽炎のように揺らめいて姿を消した。
誰もいなくなったハンカチの上には、確かに開けるのを確認したはずのペットボトルが未開封で少し汗をかいただけで残っていた。
カケルが自殺をしたのは春休みの前だった。
そして春休み明けに女の子が同じ場所から落ちた。事故なのか自殺なのかは分かっていない。
その子は意識不明になり、連続で同じ場所から人が落ちた学校の不行き届きがずいぶんと叩かれていたのを覚えている。
その女の子がどうなったかまではテレビは言わなかったし、当時子供だったわたしでは調べることも出来なかったけれど。
何時気づいたのかは自分でも分からないけれど、きっとこの子がそうなのだと思った。
彼女は逝ったのだろうか? それとも生きたのだろうか?
ジュースを高いと言った彼女を思い出す。確かにじわじわと値段は上がり続けている。
本当はわたしより年上であろう彼女は、それを知らない。
当時のわたしが分からなくて徐々に理解してきたことを、当時わたしよりすこし大人なだけだった彼女はきっと未だ納得出来ていなかった。
当時のままの姿でおもかげを追ってきてしまうほど。
ペットボトルを持ち上げる。
未開封だし、仏壇にでも供えよう。
間接キスだと揶揄ったら、中学生のままならば真っ赤になって照れるかもしれない。
それが見えないのが少し残念だった。
---------------------------------
お気に入り有り難うございました。確認した時点で通知は来ましたがお気に入り数より少なかったので来たり来なかったりだったようです。何が悪いんだよマジで。
影のせいか、泣き止んだはずなのにさっきより暗く見える横顔に向かって尋ねる。
確かに、両方とも母親似で、男の子といえどごつくなる前だったから似ているだろうとは思う。
最近はごつくならない男子も多いけど、運動やってたんだからあのまま生きていればおそらくそうなったはず。あ、太る方の可能性もあったか。
「……カケルの事が忘れられなくて……」
まぁ、こんなところまで来るくらいなのだからそうでしょうね。
「けどご家族とかの顔を見たら成長して好みでなくなったとこを想像できて忘れられるかなって」
まぁ、中学生くらいならごつい大人の第一印象を素敵と思う人は少ないと思うけど、わたしの経験上はだけど。
「それはおあいにく様」
父はそれなりだけど父親似なわけじゃないし、母とわたしは小中学生にはまけるかもしれないけど、男性ではないのでそこまではごつくない。お手軽に好みじゃない成長した姿を想像出来るものを見るのは無理だろう。
これだけじゃ好きなのは顔だけのような言い草だけど、本当にそうならもうとっくに終わっているだろう。わたしを美人と言っていたが、化粧が上手くなっただけで、それで芸能人になれるかと尋ねるとお世辞でなければ明言を避けるであろう程度だ。それに似ている程度の顔ならディスプレイの向こうでも現実でももっとかっこいいのはそれなりにいる。
「片想いだったの?」
こういうとあれだけどこんなかわいい彼女がいたら多分自殺なんてしないだろうし。
「はい。……見てるだけで精一杯で」
わたしもそれでもそんな時代はあった。
妄想に近い想像の中で相手と付き合って名前を呼び合い、現実にもそうなりたかったのに、実際は振られるのが恐いのが半分、理想が壊れるのが嫌なのが半分で、見ているだけでその一歩が踏み出せなかった。
この子は自然に名前を呼んでいるけれど、きっとそれだけ心の中で話しかけていたんだろう。――いなくなった後も。
「そう」
告白してくれていればよかったのに、とは言わない。
あれはわたしたち皆の責任で、この子のせいではない。
それに既に自分を責めているのに追い打ちをかけるほどこの子が憎い訳でもない。
「走る姿が早かったんです」
姿が早いとは妙な表現だけれど、見たことがあるならば理解出来る。
きれいとか整ってるとか動きがとかじゃなく、ただ早い、そう思える。
それだけはきっと死ぬ直前まで変わらなかったと思う。
「目が離せなくなったんです」
こんなに想われていたのに死ぬなんて馬鹿だと思う。
わたし達の想いも負けてなかったと思うけれども、そのせいで逃げ帰れなくなったのだろうからあまりよいものではなかったのだろう。
「そのまま、駆け抜けていってしまったのよ」
いつか母がつぶやいていた言葉を彼女に向ける。
「あなたが見ているのはその残像に過ぎないの」
その気持ちだけを見つめて、他が見えなくなっているのだと思う。
だから空の蒼さに気づけなかったのだろう。
「このままいても、どうにもならないわ」
そんな言葉幾らでもかけられただろうし、わたしもかけられたからと言って即座に立ち直れるものではなかったけれど。
「そう、ですね」
それでも遺族に会ったという出来事が何かの区切りになったのかもしれない。
「あたし、いきますね」
そう言った彼女は。
陽炎のように揺らめいて姿を消した。
誰もいなくなったハンカチの上には、確かに開けるのを確認したはずのペットボトルが未開封で少し汗をかいただけで残っていた。
カケルが自殺をしたのは春休みの前だった。
そして春休み明けに女の子が同じ場所から落ちた。事故なのか自殺なのかは分かっていない。
その子は意識不明になり、連続で同じ場所から人が落ちた学校の不行き届きがずいぶんと叩かれていたのを覚えている。
その女の子がどうなったかまではテレビは言わなかったし、当時子供だったわたしでは調べることも出来なかったけれど。
何時気づいたのかは自分でも分からないけれど、きっとこの子がそうなのだと思った。
彼女は逝ったのだろうか? それとも生きたのだろうか?
ジュースを高いと言った彼女を思い出す。確かにじわじわと値段は上がり続けている。
本当はわたしより年上であろう彼女は、それを知らない。
当時のわたしが分からなくて徐々に理解してきたことを、当時わたしよりすこし大人なだけだった彼女はきっと未だ納得出来ていなかった。
当時のままの姿でおもかげを追ってきてしまうほど。
ペットボトルを持ち上げる。
未開封だし、仏壇にでも供えよう。
間接キスだと揶揄ったら、中学生のままならば真っ赤になって照れるかもしれない。
それが見えないのが少し残念だった。
---------------------------------
お気に入り有り難うございました。確認した時点で通知は来ましたがお気に入り数より少なかったので来たり来なかったりだったようです。何が悪いんだよマジで。
10
この作品は感想を受け付けておりません。
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました
ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる