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46 食堂

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 私は結局夏の間に実家にも帰ることなく、いつの間にか夏季休校も終わり、課題の提出や履修申告なんかで秋めいて来た大学に出て来ることも多くなった。

「あ」

 久しぶりに食堂に来て、私は一音だけ発してから咄嗟に次の行動をどうしようかと迷ってしまった。

 何故なら付き合い出してから、まだひと月も経っていない出来立てほやほやの彼氏の芹沢くんの姿を見つけてしまったからだ。彼は良く一緒に居る友人であるゆうくんと赤星くんの三人で、食堂に昼ご飯を食べに来たようだった。

 私がまだ彼と付き合っていない時期……そう。夏季休校前の二人の関係性であるなら、この状況では間違いなく駆け寄り挨拶に行っている。

 そして、挨拶のみを返されて一言だけ前に会った時からそれまでに考え抜いた話題を話し、それは無視されても、いつも通りに満足して帰る。

 そんなことが、芹沢くんと会える日の日常だった芹沢ガールの私。

 今の私って、一体何なんだろう……付き合っている今はもう、芹沢くんのファンとは言えなくて。芹沢ガールは一応卒業してるから、芹沢ラバーとか……芹沢ハニーとか、もしかしたらそんな立ち位置に昇格しているのかもしれない。

「……無瀬さん。水無瀬さん? どうしたの? こんな所で立ち止まってボーっとして……今日は、一人なの? 良かったら、俺たちと一緒に食べようよ」

 私が食堂の入口付近で自分が現在なんというカテゴリに居るのかを真剣に考えていたら、向こうからこちらを見つけてくれた様子の芹沢くんが不思議そうな表情で私の顔を覗き込んでいた。

「わ! ごめんなさい。私、ちょっとまた考え事してて……」

 芹沢くんはここで立ち止まって話し出すと人の通行の邪魔になってしまうことも配慮してか、私の腰に手を回して誘導するようにして歩き出した。

「うん。わかってるよ。水無瀬さんは、何か考え事しちゃうと周囲が見えなくなるんだよね。俺もなんか、わかってきた。今回は、何を真剣に考えてたの?」

 芹沢くんはゆうくんと赤星くんの二人が向かいに座っている席に連れて来てくれて、私を自分が座っていた隣の席に座らせた。

「私って……もしかしたら、今は芹沢くんのファンの芹沢ガールじゃなくなったのかなって、思ってて。だから、現在の私の立ち位置的に名前を付けるなら、芹沢ラバーとか芹沢ハニーなのかなって……」

「……そっか。俺は特に口出ししないから、その辺は水無瀬さんの好きにして貰って良いよ……おい。赤星、笑い過ぎだ」

 私が悩んでいた話を聞いて弾けるように大きな声で笑い出したのは、商学部の赤星一馬くんだ。ちなみにゆうくんはこの食堂名物のカレーを食べつつ、感じよく笑って私に手を振ってくれたので釣られて振り返した。

 コミュ力モンスターは、こんな時でも友人の彼女にも配慮を欠かさないのである。

 チキン南蛮を前の机に置いている派手目なイケメンでもある赤星くんは、実はミスター優鷹芹沢くんと同じくらいに学内でもとても有名人。

 私たちのような受験を経て大学から入学した外部生じゃなくて、彼は付属高校の持ち上がりの内部生なんだけど、実はとある大会社の御曹司なんだと噂されていた。

 脱色した金髪で派手な顔つきには似合わないけど、なんでも旧華族の家柄の出とか。けど、彼の父親が経営するとされる会社名は私も知らないし明かされてはいない。

 赤星くんのことを幼い頃から知っているはずの内部生たちは何故か揃って言葉を濁すし、真相はわからないまま。
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