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75 ごめんね
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芹沢くんは私があの場所に来たから、驚いていた訳じゃない。この事件そのものを、私には一切知られたくはなかったんだ。
自分の元カノのことを私が知れば、傷付くだろう。元彼のかっちゃんが私にリベンジポルノを仕掛けていることを知れば、傷付くだろう。
だから、私を傷付くようなことすべてから、守りたかったんだ。本当に優しい人だから。
そう思って、私にはすべてを隠したままにしたかったのに。出来なかったから、そのことが彼にはとてもショックだったんだ。
「ねえ……芹沢くん。私。そんなに弱くないよ。多少傷付いても、すぐに立ち直るよ……けど、芹沢くんが悲しいのは私も嫌だから。私も同じように、思ってるのかな」
私がそう言うと顔を伏せていた芹沢くんは顔を上げて、泣きそうだった。
「水無瀬さん。けど俺は、あんな酷いことが起こったことを絶対に知られたくなかった。何もなくそのまま、俺の隣で幸せなままで、笑っていて居て欲しかった」
「私。十分、幸せだよ。芹沢くんに愛されてるって、もう一生分の幸運を使ってるもん」
「じゃあ、この後は俺の幸運をあげるよ。俺は水無瀬さんが居たら、それだけで良いから」
私は多分この時に、芹沢くんの唇に初めて自分からキスをした。
何故かって? 私たちがそういう雰囲気になったら、いつもスマートな動きを見せる芹沢くんは私の意図なんて全部お見通しで、すぐに事を先へ先へと進めてしまうからだ。
けど、今回は私が彼への愛を伝えたかったので、綺麗なラインを描く頬を両手で掴んで、深いキスを仕掛けた。
芹沢くんはこちらのしたいことを察してくれたのか自分は動かずに、私のされるがままだった。
口中で混ざりあう唾液と、絡み合う互いの熱い舌。ただそれだけの単純な行為なのに、とてつもなく気持ち良く思えてしまうのは、彼が私の世界で一番好きな人だからだ。
入学式で一目惚れをして、何度も何度も数え切れない勇気を出して挨拶をして、そして深夜のコンビニで偶然の棚ボタの出会い。
芹沢くんの持つ素晴らしい容姿で、好きになったんじゃないのか? と聞かれたら、きっと私はイエスと答えるしかない。
けど、それって、単なるきっかけに過ぎない。
最初は単に推しのアイドルを好きになって、直接会ってみたいと思うようなふわふわした気持ちで、会いに行っていただけだった。
けど、芹沢くんは自分が無視をしたというのに、その後の私に気遣うような優しい視線を向けた。
それもこれも何もかも。自分勝手に事実を改変した妄想だと言われてしまえば、そうなんだけど。
こうして、彼と実際に話をするようになって、私の理想を詰め込んだ男性が本当に世界に実在したことを知ってしまった。
どんどん芹沢くんへの想いの深さは、深くなるばかり。今ではマリアナ海溝と、愛の深さでは良い勝負が出来る自信はある。
長いキスのせいで濡れてしまった二つの唇を離して、私たちは見つめ合う。その黒い瞳に、いつも吸い込まれそうになる。
「せりざわくん……」
「何?」
「私。今日、騎乗位してみたい」
「……はっ? きじょういっ?」
芹沢くんは二人の間に流れるこの得も言われぬ甘い空気は、このままラグの上でその先へとなだれ込むだろうと、きっと思っていたはずだ。
けど、私の突然の今回の体位の希望を聞いて、とても驚いたのか。目を丸くして呆気に取られ、ぽかんとした顔になった。
あ。さっきの顔、これまでに見たことないし、写真に撮りたかった。なんで私の目には、スクショ機能が付いてないの?
自分の元カノのことを私が知れば、傷付くだろう。元彼のかっちゃんが私にリベンジポルノを仕掛けていることを知れば、傷付くだろう。
だから、私を傷付くようなことすべてから、守りたかったんだ。本当に優しい人だから。
そう思って、私にはすべてを隠したままにしたかったのに。出来なかったから、そのことが彼にはとてもショックだったんだ。
「ねえ……芹沢くん。私。そんなに弱くないよ。多少傷付いても、すぐに立ち直るよ……けど、芹沢くんが悲しいのは私も嫌だから。私も同じように、思ってるのかな」
私がそう言うと顔を伏せていた芹沢くんは顔を上げて、泣きそうだった。
「水無瀬さん。けど俺は、あんな酷いことが起こったことを絶対に知られたくなかった。何もなくそのまま、俺の隣で幸せなままで、笑っていて居て欲しかった」
「私。十分、幸せだよ。芹沢くんに愛されてるって、もう一生分の幸運を使ってるもん」
「じゃあ、この後は俺の幸運をあげるよ。俺は水無瀬さんが居たら、それだけで良いから」
私は多分この時に、芹沢くんの唇に初めて自分からキスをした。
何故かって? 私たちがそういう雰囲気になったら、いつもスマートな動きを見せる芹沢くんは私の意図なんて全部お見通しで、すぐに事を先へ先へと進めてしまうからだ。
けど、今回は私が彼への愛を伝えたかったので、綺麗なラインを描く頬を両手で掴んで、深いキスを仕掛けた。
芹沢くんはこちらのしたいことを察してくれたのか自分は動かずに、私のされるがままだった。
口中で混ざりあう唾液と、絡み合う互いの熱い舌。ただそれだけの単純な行為なのに、とてつもなく気持ち良く思えてしまうのは、彼が私の世界で一番好きな人だからだ。
入学式で一目惚れをして、何度も何度も数え切れない勇気を出して挨拶をして、そして深夜のコンビニで偶然の棚ボタの出会い。
芹沢くんの持つ素晴らしい容姿で、好きになったんじゃないのか? と聞かれたら、きっと私はイエスと答えるしかない。
けど、それって、単なるきっかけに過ぎない。
最初は単に推しのアイドルを好きになって、直接会ってみたいと思うようなふわふわした気持ちで、会いに行っていただけだった。
けど、芹沢くんは自分が無視をしたというのに、その後の私に気遣うような優しい視線を向けた。
それもこれも何もかも。自分勝手に事実を改変した妄想だと言われてしまえば、そうなんだけど。
こうして、彼と実際に話をするようになって、私の理想を詰め込んだ男性が本当に世界に実在したことを知ってしまった。
どんどん芹沢くんへの想いの深さは、深くなるばかり。今ではマリアナ海溝と、愛の深さでは良い勝負が出来る自信はある。
長いキスのせいで濡れてしまった二つの唇を離して、私たちは見つめ合う。その黒い瞳に、いつも吸い込まれそうになる。
「せりざわくん……」
「何?」
「私。今日、騎乗位してみたい」
「……はっ? きじょういっ?」
芹沢くんは二人の間に流れるこの得も言われぬ甘い空気は、このままラグの上でその先へとなだれ込むだろうと、きっと思っていたはずだ。
けど、私の突然の今回の体位の希望を聞いて、とても驚いたのか。目を丸くして呆気に取られ、ぽかんとした顔になった。
あ。さっきの顔、これまでに見たことないし、写真に撮りたかった。なんで私の目には、スクショ機能が付いてないの?
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