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07 足音
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私が慌てて入った部屋の前を大きな足音が通り抜けて、近くで立ち止まった。
「おい! そこのお前!」
「……はい? どうか致しましたか、レイジブル様」
近くの使用人らしき人が彼の名前を呼んだ声がして、私は身が竦む思いだった。ジュルジュ・レイジブルは、ユーザーから人気も高かったワイルド系騎士様だ。
彼は出会ったばかりには荒っぽい態度なんだけど、好感度が上がるにつれ対応に糖度が高まると言う、いわゆるギャップ萌えを楽しむ人も多かった。
「ルメッツァーネ公爵令嬢は、見なかったか? 先ほど、裏門から城に入られたと連絡があったのだが……」
「申し訳ありません。私はレイラ様は、本日お見かけしておりません」
私は彼らの会話を聞きながら、遠くから荒っぽい足音が迫ってくるのを聞いて、身を隠した選択は間違っていなかったとホッと安心した。
良かった。ジョルジュって好感度が高くなり過ぎると、執着のあまりヤンデレのような行動を取るようになるのよね。
きっと、私が城へ来れば、知らせるように言っていたに違いない。
荒っぽい足音は近くから去っていって、私は心から安堵した。
「……レイラ。久しぶりだね」
扉の向こう側に集中していた私は、背後から聞こえた声に、私は信じられない思いだった。一難去ってまた一難。
「ギャビン……」
なんでここに居るのと続けて言いかけて、私は言葉を片手で口を覆って止めた。
ここはギャビンが住んでいる宮で、そこへトリスタンに会う目的でやって来たのは私なんだった。
「ずっと、会いたかった。レイラ。君に謝りたくて。今日の朝、君に急ぎで手紙を送ったんだけど、ここに来たということは読んでくれたの?」
私を見る切なげな眼差しも、本来であればクロエに向けられるべきものだ。私はもう既に隠しヒーローと結ばれている彼女の代わり。
そうでしかない役割のはずなのに、胸の辺りがズキンとひどく傷んだ。
朝、ギャビンが私へ送ったという手紙は、クロエへの気持ちが私にすり替わってしまったからなんだろう。
きっと、彼は大きな勘違いをしている。私のことなんて本当は好きではないのに、好きになっていると。
「……謝ることなんて、ありません。ギャビン殿下が私に謝る必要なんて、何もないんです。あの、ごめんなさい。ノックもなく入ってきてしまって……どうか、お許しください」
出来るだけ素っ気なくそう言った私に、ギャビンは整った顔を歪めた。
「どうやら、レイラは僕の手紙を読んで、その話をしにここまで来てくれたと言う訳では……なさそうだね」
王族への最高の敬意を表す礼をした私を見て、ギャビンは寂しそうに笑った。
「ええ。申し訳ありません。私。実は今急いでいるんです! 話なら、別の機会にしてください」
さっき廊下で私を探していたらしいジョルジュも、今では姿が見えない遠くに行っているはずだと思い扉を開こうとしたら、ギャビンが駆け寄って手を引いた。
「待ってくれ。レイラ……僕が悪かった。あの時は誰かに操られるようにして、おかしくなっていたんだ。婚約者の君から心変わりをして、何の段階も踏まずに別の女性を傍に置けば君が怒るのは当然だ。僕が、おかしかったんだ。悪かった。どうか、許して欲しい……」
ついこの前まで、ヒロインクロエを好きだ愛していると恥ずかしげもなく口にしていたギャビンは、どうやら今は婚約解消した私のことを本当に好きになってしまっているらしい。
「……ギャビン殿下……あの、ギャビン。それって、偽物の感情なんです。私の事、あの……好きな訳じゃなくて……それは、違うんです……」
自他ともに認める器用ではない私は、つい咄嗟に嘘をつくことも出来ずに、何も知らないギャビンを訳もわからず困らせるようなことを言ってしまった。
「嘘の感情? 待ってくれ。レイラ……君は、何を言ってるんだ?」
「その……あの……ギャビン殿下は、私のこと好きではないんです。本当に違んです」
思っても見なかったことを、言われたのか。ギャビンはその時、本当に不思議そうなポカンとした顔をしていた。
それもそうだと思う。私だって彼と同じ立場で、そんなことを言われたらそう思うだろう。
どう、上手く説明するべきか……ここは乙女ゲームの世界なんだと、中世風の魔法のある世界の住人に説明するのは、とても難しい。
「いいや……待ってくれ。僕も何か良く分からない呪いにかけられていたかのように、自分の意識が自分ではないものに操られているという感覚はあった。レイラ。勘違いしないでくれ。幼いころから婚約して大事にしていた君への想いは、本物なんだ……ちゃんと時間を掛けて順を追って話せば、わかってくれるはずだ」
本当に、駄目。こんな完璧な容姿を持つ王子様のギャビンに真剣な眼差しで愛を囁かれて……恋に落ちないというのは、とても難しい。
とてもわかりやすい普通の女の子の例としては、この私。甘い言葉に押されてしまっている。今しも、簡単に彼に落ちてしまいそう。
「待って。ギャビン……それは、だから」
その時に私が追い詰められていた扉がドンドンと乱暴に叩かれて、胸が大きく跳ねた。
「おい! そこのお前!」
「……はい? どうか致しましたか、レイジブル様」
近くの使用人らしき人が彼の名前を呼んだ声がして、私は身が竦む思いだった。ジュルジュ・レイジブルは、ユーザーから人気も高かったワイルド系騎士様だ。
彼は出会ったばかりには荒っぽい態度なんだけど、好感度が上がるにつれ対応に糖度が高まると言う、いわゆるギャップ萌えを楽しむ人も多かった。
「ルメッツァーネ公爵令嬢は、見なかったか? 先ほど、裏門から城に入られたと連絡があったのだが……」
「申し訳ありません。私はレイラ様は、本日お見かけしておりません」
私は彼らの会話を聞きながら、遠くから荒っぽい足音が迫ってくるのを聞いて、身を隠した選択は間違っていなかったとホッと安心した。
良かった。ジョルジュって好感度が高くなり過ぎると、執着のあまりヤンデレのような行動を取るようになるのよね。
きっと、私が城へ来れば、知らせるように言っていたに違いない。
荒っぽい足音は近くから去っていって、私は心から安堵した。
「……レイラ。久しぶりだね」
扉の向こう側に集中していた私は、背後から聞こえた声に、私は信じられない思いだった。一難去ってまた一難。
「ギャビン……」
なんでここに居るのと続けて言いかけて、私は言葉を片手で口を覆って止めた。
ここはギャビンが住んでいる宮で、そこへトリスタンに会う目的でやって来たのは私なんだった。
「ずっと、会いたかった。レイラ。君に謝りたくて。今日の朝、君に急ぎで手紙を送ったんだけど、ここに来たということは読んでくれたの?」
私を見る切なげな眼差しも、本来であればクロエに向けられるべきものだ。私はもう既に隠しヒーローと結ばれている彼女の代わり。
そうでしかない役割のはずなのに、胸の辺りがズキンとひどく傷んだ。
朝、ギャビンが私へ送ったという手紙は、クロエへの気持ちが私にすり替わってしまったからなんだろう。
きっと、彼は大きな勘違いをしている。私のことなんて本当は好きではないのに、好きになっていると。
「……謝ることなんて、ありません。ギャビン殿下が私に謝る必要なんて、何もないんです。あの、ごめんなさい。ノックもなく入ってきてしまって……どうか、お許しください」
出来るだけ素っ気なくそう言った私に、ギャビンは整った顔を歪めた。
「どうやら、レイラは僕の手紙を読んで、その話をしにここまで来てくれたと言う訳では……なさそうだね」
王族への最高の敬意を表す礼をした私を見て、ギャビンは寂しそうに笑った。
「ええ。申し訳ありません。私。実は今急いでいるんです! 話なら、別の機会にしてください」
さっき廊下で私を探していたらしいジョルジュも、今では姿が見えない遠くに行っているはずだと思い扉を開こうとしたら、ギャビンが駆け寄って手を引いた。
「待ってくれ。レイラ……僕が悪かった。あの時は誰かに操られるようにして、おかしくなっていたんだ。婚約者の君から心変わりをして、何の段階も踏まずに別の女性を傍に置けば君が怒るのは当然だ。僕が、おかしかったんだ。悪かった。どうか、許して欲しい……」
ついこの前まで、ヒロインクロエを好きだ愛していると恥ずかしげもなく口にしていたギャビンは、どうやら今は婚約解消した私のことを本当に好きになってしまっているらしい。
「……ギャビン殿下……あの、ギャビン。それって、偽物の感情なんです。私の事、あの……好きな訳じゃなくて……それは、違うんです……」
自他ともに認める器用ではない私は、つい咄嗟に嘘をつくことも出来ずに、何も知らないギャビンを訳もわからず困らせるようなことを言ってしまった。
「嘘の感情? 待ってくれ。レイラ……君は、何を言ってるんだ?」
「その……あの……ギャビン殿下は、私のこと好きではないんです。本当に違んです」
思っても見なかったことを、言われたのか。ギャビンはその時、本当に不思議そうなポカンとした顔をしていた。
それもそうだと思う。私だって彼と同じ立場で、そんなことを言われたらそう思うだろう。
どう、上手く説明するべきか……ここは乙女ゲームの世界なんだと、中世風の魔法のある世界の住人に説明するのは、とても難しい。
「いいや……待ってくれ。僕も何か良く分からない呪いにかけられていたかのように、自分の意識が自分ではないものに操られているという感覚はあった。レイラ。勘違いしないでくれ。幼いころから婚約して大事にしていた君への想いは、本物なんだ……ちゃんと時間を掛けて順を追って話せば、わかってくれるはずだ」
本当に、駄目。こんな完璧な容姿を持つ王子様のギャビンに真剣な眼差しで愛を囁かれて……恋に落ちないというのは、とても難しい。
とてもわかりやすい普通の女の子の例としては、この私。甘い言葉に押されてしまっている。今しも、簡単に彼に落ちてしまいそう。
「待って。ギャビン……それは、だから」
その時に私が追い詰められていた扉がドンドンと乱暴に叩かれて、胸が大きく跳ねた。
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