重いと言われても、止められないこの想い。~素敵過ぎる黒獅子騎士団長様への言い尽くせぬ愛~

待鳥園子

文字の大きさ
51 / 73

51 爪①

しおりを挟む
「姫、凄いっすね。なんか噂に聞くところによると、正妃様もこれを見て凄く姫を褒めていたらしいっすよ」

「まあ……とんでもないわ。私は単に案を出しただけだもの。こうして整理整頓することが出来たのは、寝る間を惜しんで書庫整理に協力してくれた皆のおかげよ」

 私の隣で手放しで褒めてくれるデュークにやついてしまう口元を、ここは人前だったわとはっと思い返し、慌てて引き締めた。

 ついこの前に、将来を約束してくれたデュークは、王族の私に対して人前では敬語を使う。

 私は別にどちらでも良いと思ってしまうけれど、彼の身分を考えれば、それは仕方ないことなのだ。

 だから、私と二人きりの時のみ、本当のデュークの姿を見ることが出来るのだ。つまり、私だけしか本当の彼を知らない。

 そういったちょっとしたことだとしても特別な感情を抱いてしまうのは、何もかもデュークが素敵過ぎるせい。

 現在、私たち二人の目の前にあるのは、以前からどうにかならないかと思っていた城にある保管書庫だ。

 つい、何日か前まで何が何処にあるかわからないごちゃごちゃした状態で、本当に酷かった。書庫担当の文官が何人かすぐに辞めていってしまったせいで、どんどん酷くなってしまったらしい。

 けど、今は見事なまでにすっきりと片付けられ、種類毎に綺麗に分類されて記号と数字を合わせた書類番号まで、それぞれに付けられていた。

 実は私はこれまでに他国では、もっとわかりやすい分類方法が使われているのにどうして使わないのかしらと、心ひそかにずっと思っていた。

 離宮からの帰り道。

 同じ馬車で帰ることになったデュークが「書庫で必要な書類を見つけるだけで、長く時間が掛かる。おかげで、帰る時間が遅くなる」と愚痴を言っていた。

 デュークがそんなことを言うのは珍しいし、話を聞けば不満に思うのは仕方ないことだと思った。

 それを聞いた私が実はこういう良い方法もあってと切り出せば、きらんと目を光らせた彼がすぐに書類管理をする責任者に提案して、私が言って居た分類方法を取り入れてもらおうと言う流れになった。

「姫って、本当に優秀なんすね。自慢の姫なの、わかります」

 周囲を見渡したデュークは「これでわかりやすくなった」と手放しで喜んで、目を細めていた。彼がこんなに喜んでくれるなら、もっと早くに言った方が良かったかもしれない。

「それは、大袈裟よ。偶然、その関係の書籍を以前に読んでいただけだわ」

 そうは言っても、自分の知識を役立てて、こうしていろんな人から感謝されて喜ばれる事は、とても嬉しい。

 誰かの役に立つことが出来たと言うなんとも例えがたい、晴れ晴れとした充足感があった。

「あの……姫。俺が前に言ったこと、覚えてるっすか」

「え?」

「姫は能ある鷹は爪を隠すと前に言いましたけど、別に出来ることを隠す必要なんかどこにもないんじゃないすか。優秀な頭脳を持っている身分のある方は、存分に役立てるべきっすよ。それに姫自身が心配しているほど、周囲はあまり姫のことを気にしてなかったりするもんすよ」

「私が、自意識過剰だってこと……?」

 正直に言えば、とても衝撃的な事実だ。私を気にしているのは私だけと言うのなら、そういうことになってしまう。

 私が衝撃を受けたことが伝わったのか、デュークは慌てて手を振っていた。

「いやいや。そうは言いません。言いませんけど、何も出来ない可愛いだけのお姫様より、いろんなことが出来る姫の方が、国民は多分好きっすよ。姫は城の中に居る、良くわからないプライドを持った権威主義のおっさん連中に、可愛い可愛い言われるだけの人形のような人生で良いって言うんなら、俺は何も言わないっすよ。けど、姫が望んでいる事は実は違うんじゃないすか」

 優しい目をしたデュークはまるで、私の心の中に書かれていた誰かに言って欲しいことを読んでいるかのようだ。

 物心つく頃には優秀だと言われる兄が三人既に居て、末っ子の私まで優秀であることは、ユンカナン王国の重臣は誰も望まなかったと思う。

 いずれ、王族から出ていく女は、ただ黙って着飾り美しくあれさえすれば良いと、私は彼らから幼い頃から無言の圧力を感じていたのだ。

 だから、何かを思いつき名案だと考えたとしても、これまでに誰にも言わなかった。それを喜ばない誰かがこの城の中に複数いる事を、私は知っていたからだ。

 王太子であるラインハルトお兄様は、妹の私が思って居ることの半分も言えていない現状を知れば、そんなことはないなんだってお前の好きなようにやれば良いと言うだろう。

 けど、私は血の繋がった兄からの溢れるような無償の愛に甘えることには、強い抵抗があった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【完結】タジタジ騎士公爵様は妖精を溺愛する

雨香
恋愛
【完結済】美醜の感覚のズレた異世界に落ちたリリがスパダリイケメン達に溺愛されていく。 ヒーロー大好きな主人公と、どう受け止めていいかわからないヒーローのもだもだ話です。  「シェイド様、大好き!!」 「〜〜〜〜っっっ!!???」 逆ハーレム風の過保護な溺愛を楽しんで頂ければ。

【完結】2番目の番とどうぞお幸せに〜聖女は竜人に溺愛される〜

雨香
恋愛
美しく優しい狼獣人の彼に自分とは違うもう一人の番が現れる。 彼と同じ獣人である彼女は、自ら身を引くと言う。 自ら身を引くと言ってくれた2番目の番に心を砕く狼の彼。 「辛い選択をさせてしまった彼女の最後の願いを叶えてやりたい。彼女は、私との思い出が欲しいそうだ」 異世界に召喚されて狼獣人の番になった主人公の溺愛逆ハーレム風話です。 異世界激甘溺愛ばなしをお楽しみいただければ。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

【完結】たれ耳うさぎの伯爵令嬢は、王宮魔術師様のお気に入り

楠結衣
恋愛
華やかな卒業パーティーのホール、一人ため息を飲み込むソフィア。 たれ耳うさぎ獣人であり、伯爵家令嬢のソフィアは、学園の噂に悩まされていた。 婚約者のアレックスは、聖女と呼ばれる美少女と婚約をするという。そんな中、見せつけるように、揃いの色のドレスを身につけた聖女がアレックスにエスコートされてやってくる。 しかし、ソフィアがアレックスに対して不満を言うことはなかった。 なぜなら、アレックスが聖女と結婚を誓う魔術を使っているのを偶然見てしまったから。 せめて、婚約破棄される瞬間は、アレックスのお気に入りだったたれ耳が、可愛く見えるように願うソフィア。 「ソフィーの耳は、ふわふわで気持ちいいね」 「ソフィーはどれだけ僕を夢中にさせたいのかな……」 かつて掛けられた甘い言葉の数々が、ソフィアの胸を締め付ける。 執着していたアレックスの真意とは?ソフィアの初恋の行方は?! 見た目に自信のない伯爵令嬢と、伯爵令嬢のたれ耳をこよなく愛する見た目は余裕のある大人、中身はちょっぴり変態な先生兼、王宮魔術師の溺愛ハッピーエンドストーリーです。 *全16話+番外編の予定です *あまあです(ざまあはありません) *2023.2.9ホットランキング4位 ありがとうございます♪

【完結】勤労令嬢、街へ行く〜令嬢なのに下働きさせられていた私を養女にしてくれた侯爵様が溺愛してくれるので、国いちばんのレディを目指します〜

鈴木 桜
恋愛
貧乏男爵の妾の子である8歳のジリアンは、使用人ゼロの家で勤労の日々を送っていた。 誰よりも早く起きて畑を耕し、家族の食事を準備し、屋敷を隅々まで掃除し……。 幸いジリアンは【魔法】が使えたので、一人でも仕事をこなすことができていた。 ある夏の日、彼女の運命を大きく変える出来事が起こる。 一人の客人をもてなしたのだ。 その客人は戦争の英雄クリフォード・マクリーン侯爵の使いであり、ジリアンが【魔法の天才】であることに気づくのだった。 【魔法】が『武器』ではなく『生活』のために使われるようになる時代の転換期に、ジリアンは戦争の英雄の養女として迎えられることになる。 彼女は「働かせてください」と訴え続けた。そうしなければ、追い出されると思ったから。 そんな彼女に、周囲の大人たちは目一杯の愛情を注ぎ続けた。 そして、ジリアンは少しずつ子供らしさを取り戻していく。 やがてジリアンは17歳に成長し、新しく設立された王立魔法学院に入学することに。 ところが、マクリーン侯爵は渋い顔で、 「男子生徒と目を合わせるな。微笑みかけるな」と言うのだった。 学院には幼馴染の謎の少年アレンや、かつてジリアンをこき使っていた腹違いの姉もいて──。 ☆第2部完結しました☆

【完結】モブのメイドが腹黒公爵様に捕まりました

ベル
恋愛
皆さまお久しぶりです。メイドAです。 名前をつけられもしなかった私が主人公になるなんて誰が思ったでしょうか。 ええ。私は今非常に困惑しております。 私はザーグ公爵家に仕えるメイド。そして奥様のソフィア様のもと、楽しく時に生温かい微笑みを浮かべながら日々仕事に励んでおり、平和な生活を送らせていただいておりました。 ...あの腹黒が現れるまでは。 『無口な旦那様は妻が可愛くて仕方ない』のサイドストーリーです。 個人的に好きだった二人を今回は主役にしてみました。

ちょっと不運な私を助けてくれた騎士様が溺愛してきます

五珠 izumi
恋愛
城の下働きとして働いていた私。 ある日、開かれた姫様達のお見合いパーティー会場に何故か魔獣が現れて、運悪く通りかかった私は切られてしまった。 ああ、死んだな、そう思った私の目に見えるのは、私を助けようと手を伸ばす銀髪の美少年だった。 竜獣人の美少年に溺愛されるちょっと不運な女の子のお話。 *魔獣、獣人、魔法など、何でもありの世界です。 *お気に入り登録、しおり等、ありがとうございます。 *本編は完結しています。  番外編は不定期になります。  次話を投稿する迄、完結設定にさせていただきます。

次期騎士団長の秘密を知ってしまったら、迫られ捕まってしまいました

Karamimi
恋愛
侯爵令嬢で貴族学院2年のルミナスは、元騎士団長だった父親を8歳の時に魔物討伐で亡くした。一家の大黒柱だった父を亡くしたことで、次期騎士団長と期待されていた兄は騎士団を辞め、12歳という若さで侯爵を継いだ。 そんな兄を支えていたルミナスは、ある日貴族学院3年、公爵令息カルロスの意外な姿を見てしまった。学院卒院後は騎士団長になる事も決まっているうえ、容姿端麗で勉学、武術も優れているまさに完璧公爵令息の彼とはあまりにも違う姿に、笑いが止まらない。 お兄様の夢だった騎士団長の座を奪ったと、一方的にカルロスを嫌っていたルミナスだが、さすがにこの秘密は墓場まで持って行こう。そう決めていたのだが、翌日カルロスに捕まり、鼻息荒く迫って来る姿にドン引きのルミナス。 挙句の果てに“ルミタン”だなんて呼ぶ始末。もうあの男に関わるのはやめよう、そう思っていたのに… 意地っ張りで素直になれない令嬢、ルミナスと、ちょっと気持ち悪いがルミナスを誰よりも愛している次期騎士団長、カルロスが幸せになるまでのお話しです。 よろしくお願いしますm(__)m

処理中です...