婚約者は妹のような幼馴染みを何より大切にしているので、お飾り妻予定な令嬢は幸せになることを諦めた……はずでした。

待鳥園子

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06 助け

 そろそろ夜の紫が混じり始めた茜色の空を見て、私は帰ろうと思った。

 こんな場所に少しだけ逃げてきたって、帰るべき場所はリンスコット伯爵邸だ。

 そうでなければいけない。

 だって、私は何も持たぬ無力な貴族令嬢で、貴族として生きていく以外の道を知らないのだから。

 落ち着いた私はとりあえず、兄が乗っていた馬車がある場所へ行こうと思った。

 甘えていると言われようが、リンスコット伯爵家の面々が、逃げた私を探して居ないわけがない。

 だから、あの衝動的に逃げ出した場所に戻れば、どうにかなるのではないかと考えたのだ。

 そうして、日が暮れる手前の街を歩いていたら、私はいきなり乱暴に腕を掴まれた。

「……! 何を」

「……おい! 貴族令嬢がこんな場所で何をしている? なんだぁ? お付きの者も近くに居ないのか?」

 荒々しい言葉を放つ男性は、顔に傷がありいかにも荒くれ者といった風情で、私のことをまるで品定めするように下から舐めるように見た。

 背筋にはゾッとした寒気が走った。

「……離してください!! 離しなさい!」

 私はなけなしの勇気を出して声を出したけど、彼はにやにやと下卑た笑いを顔に浮かべ、より強く腕を引っ張った。

 そして、私の腕にあるドレスの手触りを確かめるように触った。嫌な手つきで不快さが増し肌が粟立った。

「ははは! 本当だ。これは、上質なドレス……本物の、貴族令嬢だ!」

「やめて。離して……! 誰か、誰か、助けてください!」

 私は助けを求めて周囲を見渡したけれど、皆目を合わせないように視線を伏せて通り過ぎて行く。

 そんな……ああ。誰かの揉め事に巻き込まれるなんて、それは嫌かもしれない。

 どうしよう……そうよ。近くに治安維持のために見回りをしている兵士か誰か、そういう人が近くに居てくれれば……そうよ。悲鳴をあげればなんとかなるかもしれない。

「助けて……! 助けて! 誰か! 助けてください!!」

 私が必死で悲鳴をあげれば、口を手で塞ごうとした目の前の男は呆気なく崩れ落ちた。

 ……なっ……何? え。何があったの?

 私は助かったことをすぐには理解出来なかった。だって、こんな男性に連れて行かれれば、どうなってしまうかわからない。

「……アイリーン。一体、何をしている」

 あ。セシル。

 私は驚いた。そこに居たのは、私を蔑ろにする婚約者で……その筈なのに、私の声を聞き必死に走って来たのか息荒く肩が上下していた。

 セシルは彼の姿を見付けて呆然とした私を睨み付け、地に伏した男の身体を一度踏みつけた。

 おそらくは、何か打撃を与えてこの乱暴者を一撃で沈めたようだけど、私には何がどうなったのかわからなかった。

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