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10 家庭教師
◇◆◇
「まあ……そんなことがあったのですか」
誰にでも言って良い出来事ではないとわかりつつ、どうしても我慢出来なかった私は、貴族としての作法を教えてくれる家庭教師(ガヴァネス)のエリンに昨日あった出来事を話した。
エリンはとても聡明な女性だ。
元々は男爵令嬢で嫁いだ男性がすぐに戦死を遂げてしまい、未亡人になった。けれど、彼を愛しているのですぐに再婚には踏み切れず、こうして自ら働いて生計を立てているのだ。
彼女は私を尊重してくれつつも、教育には手を抜かなかった。家庭教師としての職務を全うしているとも言える。
私がもうそろそろ嫁ぐ年齢になり、彼女が求める『貴族女性』になれたせいか、エリンの中で自分が教育する存在から、対等に話せる存在へと変わっていたことを最近感じていた。
特徴的な大きな眼鏡をくいっと上げたエリンは、しばし考えた後で隣の椅子に座ったままの私へ言った。
「まずは……敵を知りましょう。アイリーン様。聞くところ、妹のような幼馴染みで貴族ではない平民女性ということしかわかりませんが、公爵家でそのような扱いをされている理由が私には理解しかねます」
「あら……エリン。それは、確かにそうね」
デイジーは跡取り息子であるセシルへべったりとはりつき、まるで恋人同士のように振る舞う。
けれど、セシルは無表情でデイジーへもあまり感情を出すこともない。勝手を許してはいるけれど、愛情を感じさせる振る舞いはない。
……そこは、私にも気になっているところだったのだ。
「セシル様の周囲もその女性を受け入れていて、クレイヴン公爵家でのお茶会でも、そのような不埒な振る舞いを? もちろん家長であるクレイヴン公爵や公爵夫人は預かり知らぬことだとは思いますが、私に言わせると周囲もおかしいと思います。何か……私たちには想像のつかぬような事情があって、その女性を持ち上げているように思えてならないのです」
エリンは顎に手を当てて、そう言った。私は彼女の言い分を聞いて、確かにそれはそうかもしれないと頷いた。
私はセシルの婚約者だ。
それなのに、あのデイジーが優先されていても、周囲から許される状況とは何なのかしら。
あくまで私は……他の誰かがそんな状況にあったなら、眉を顰めて軽蔑してしまうわね。一緒になって面白がるなど……とても考えられない。
「まあ……そんなことがあったのですか」
誰にでも言って良い出来事ではないとわかりつつ、どうしても我慢出来なかった私は、貴族としての作法を教えてくれる家庭教師(ガヴァネス)のエリンに昨日あった出来事を話した。
エリンはとても聡明な女性だ。
元々は男爵令嬢で嫁いだ男性がすぐに戦死を遂げてしまい、未亡人になった。けれど、彼を愛しているのですぐに再婚には踏み切れず、こうして自ら働いて生計を立てているのだ。
彼女は私を尊重してくれつつも、教育には手を抜かなかった。家庭教師としての職務を全うしているとも言える。
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特徴的な大きな眼鏡をくいっと上げたエリンは、しばし考えた後で隣の椅子に座ったままの私へ言った。
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「あら……エリン。それは、確かにそうね」
デイジーは跡取り息子であるセシルへべったりとはりつき、まるで恋人同士のように振る舞う。
けれど、セシルは無表情でデイジーへもあまり感情を出すこともない。勝手を許してはいるけれど、愛情を感じさせる振る舞いはない。
……そこは、私にも気になっているところだったのだ。
「セシル様の周囲もその女性を受け入れていて、クレイヴン公爵家でのお茶会でも、そのような不埒な振る舞いを? もちろん家長であるクレイヴン公爵や公爵夫人は預かり知らぬことだとは思いますが、私に言わせると周囲もおかしいと思います。何か……私たちには想像のつかぬような事情があって、その女性を持ち上げているように思えてならないのです」
エリンは顎に手を当てて、そう言った。私は彼女の言い分を聞いて、確かにそれはそうかもしれないと頷いた。
私はセシルの婚約者だ。
それなのに、あのデイジーが優先されていても、周囲から許される状況とは何なのかしら。
あくまで私は……他の誰かがそんな状況にあったなら、眉を顰めて軽蔑してしまうわね。一緒になって面白がるなど……とても考えられない。
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