婚約者は妹のような幼馴染みを何より大切にしているので、お飾り妻予定な令嬢は幸せになることを諦めた……はずでした。

待鳥園子

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13 対決

◇◆◇


「……あら。アイリーン様。どうなさったの?」

 クレイヴン公爵邸の庭園に居たデイジーは私を見て微笑みかけ、彼女を睨み付けていることに驚いたようだった。

 ……そうでしょうね。私は貴女のことを、ただの人だと思っていたから、とっても怖かったの。

 大好きな婚約者を愛する人を取られてしまう……そう思って、目の前の女性のことを、とてもおそろしい存在に思えていた。

 けれど、今は違うわ……私には、自分にならどうにか出来る魔物でしかない。

「今すぐこの場から去れ、魔物ティアニー。今から百年の眠りにつけ」

 私は定められた言葉を言った。

 これは、次期クレイヴン公爵となるセシルが、婚約者である私を『愛しているから』効果のある言葉なのだ。

 愛らしい顔はどんどん歪み、彼女の中から肌を破り出て来たのは、どす黒い獅子だった。けれど、魔物は私には手を出せないそういう『契約』だからだ。

「どうして……どうして、わかったんだ。誰も話していないはずだ。それなのに」

 魔物ティアニーは私が彼女が魔物であることを知ったことを、未だに信じられないようだった。

 おそらくは、クレイヴン公爵家もリンスコット伯爵家の面々も、これを誰も私に明かすことは禁じられていた。

 セシルが愛する私と結婚する前に明かせば、私を殺すという契約だったから。

 こんな契約内容に何故したかというと、セシルの苦しみと悲しみを、私の身体を傷つけたりせずに味わい尽くすには、これが一番に良い方法だったからだ。

 魔物ティアニーの好物は、苦しみや悲しみ。クレイヴン公爵家の跡取りは、成年するまでにこれを与える義務がある。

 魔物ティアニーがこの方法を選んだことからわかるとおり、セシルは婚約者である私を愛している。

 愛しているがゆえに選ばれて、私も傷つき彼が一番に傷つく方法を取らされていたのだ。

「……魔物ティアニー、貴女の様子は、あまりにもおかしかったわよ。セシルは私に何も言っていないし、家族たちだってそうよ。私が調べ物をするという自由を与えてくれて、ありがとう……」

 私はセシルと魔物ティアニーの契約の『鍵』だ。

 魔物ティアニーはあまりに力が強く、建国の際に犠牲になることを選んだクレイヴン公爵家の当主に取り憑いていた。

 二十歳になれば彼らは契約通りに大人しくなるけれど、それまでは当主となる人物の苦しみや悲しみを餌にすることが許されている。

 けれど、特殊な契約条件で『鍵』となる人物にそれを知られて、あの言葉を使われれば、魔物ティアニーはこれから眠るしかないのだ。

 今から、百年ほど。

「ぐぐぐぐぐ……なんということだ。もう少し……もう少し、楽しむ時間はあったというのに……」

 魔物ティアニーの身体は地中へと落ち、私はその様子をじっと見て居た。

 妹のように愛らしい幼馴染みデイジーの正体は、クレイヴン公爵家に取り付く魔物ティアニー。

 何も知らされるはずもない私だけが、この魔物を封じる権利を持っていた。

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