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12 美しい白馬①
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「……それでですね。こちらが、エクレール様の愛馬ミストラルです。見事な白馬でしょう……アーヴィングは軍馬の産地としても知られていてですね。ミストラルはその中でも、一番に上等な……いえ。今ある馬の中で一番の存在とも、言っても過言ではないかもしれません」
「……はあ」
私は厩舎での案内を引き受けてくれた使用人ヘルムートの熱のこもった説明を聞いて、見事な白馬を見上げた。
戦う際に使われる軍馬というだけあって、身体は異様に大きく、割れた筋肉が身体中に巻き付いているような逞しい馬だった。
超一級品の軍馬と言われても、戦いに縁遠い私にはいまいち価値がわからずに、じっと見上げるだけだ。
白馬ミストラルは私やヘルムートのことなど全く意に介することもなく、もぐもぐと口にくわえていた飼い葉を咀嚼していた。
「ミストラルは本当に素晴らしい馬なんですが、少々気が荒いのが難点で……いえね! 頭が良いし身体能力も高いんですが、性格が……荒々しいんです。主人であるエクレール様にしか乗れないくらいに問題児ではあるので、セシリー様も姿が単に美しいからと近付くことはお控えください……」
「……はあ」
私はヘルムートに申し訳なさそうに注意されても、どう言って良いかわからずに気のない返事をしてしまった。
そうは言われても、私は馬なんて全く興味もない。
ただ、アーヴィング地方での主な特産物として知られているのが軍馬で、その説明を受けている時に『エクレール様の愛馬は、本当に凄い軍馬なのです!』と、興奮したソフィーに厩舎に連れて来られてしまうことになってしまったのだ。
ミストラルは気位の高い馬のようで、私やヘルムートのことなど視界に入っていないらしい。さっきは気が荒いと聞いたけれど、全くそのような気配なんて……なさそうだわ。
「とは言いましても、エクレール様の言うことなら忠犬のように聞きますのでね……これからミストラルへ相乗りされることも多くあると思いますが、遠出された際にもお気を付けください。特に! お尻を触られることが嫌いなので、絶対に触らないでくださいね……!」
「……はあ。わかりました」
私はヘルムートに押されて頷き、彼は満足そうに何度か頷いた。
遠出なんてしない……と、言いたいところだけど、アーヴィング辺境伯領邸に到着したあの夜、暗殺に失敗してしまってからというもの、私は普通にここに嫁入り前提でやって来た男爵令嬢としての生活を送っていた。
貴族の慣例として、もうすぐ私たち二人の婚約を発表して、その一年後に結婚式を。
辺境伯は特殊な役割を持つため、彼自身は王都での盛大な結婚式を望まず、この辺境の地でひっそりと結婚式をすることを望んでいるらしい。
私の希望も聞かれたけれど、どう答えて良いかわからず『どちらでも』と無難な答えを返すしかなかった。
だって、私は暗殺するためにここに送り込まれただけで、彼と本当に結婚するつもりなんて、一切なかったもの。
……一切なかった……はずなんだけど……。
「……はあ」
私は厩舎での案内を引き受けてくれた使用人ヘルムートの熱のこもった説明を聞いて、見事な白馬を見上げた。
戦う際に使われる軍馬というだけあって、身体は異様に大きく、割れた筋肉が身体中に巻き付いているような逞しい馬だった。
超一級品の軍馬と言われても、戦いに縁遠い私にはいまいち価値がわからずに、じっと見上げるだけだ。
白馬ミストラルは私やヘルムートのことなど全く意に介することもなく、もぐもぐと口にくわえていた飼い葉を咀嚼していた。
「ミストラルは本当に素晴らしい馬なんですが、少々気が荒いのが難点で……いえね! 頭が良いし身体能力も高いんですが、性格が……荒々しいんです。主人であるエクレール様にしか乗れないくらいに問題児ではあるので、セシリー様も姿が単に美しいからと近付くことはお控えください……」
「……はあ」
私はヘルムートに申し訳なさそうに注意されても、どう言って良いかわからずに気のない返事をしてしまった。
そうは言われても、私は馬なんて全く興味もない。
ただ、アーヴィング地方での主な特産物として知られているのが軍馬で、その説明を受けている時に『エクレール様の愛馬は、本当に凄い軍馬なのです!』と、興奮したソフィーに厩舎に連れて来られてしまうことになってしまったのだ。
ミストラルは気位の高い馬のようで、私やヘルムートのことなど視界に入っていないらしい。さっきは気が荒いと聞いたけれど、全くそのような気配なんて……なさそうだわ。
「とは言いましても、エクレール様の言うことなら忠犬のように聞きますのでね……これからミストラルへ相乗りされることも多くあると思いますが、遠出された際にもお気を付けください。特に! お尻を触られることが嫌いなので、絶対に触らないでくださいね……!」
「……はあ。わかりました」
私はヘルムートに押されて頷き、彼は満足そうに何度か頷いた。
遠出なんてしない……と、言いたいところだけど、アーヴィング辺境伯領邸に到着したあの夜、暗殺に失敗してしまってからというもの、私は普通にここに嫁入り前提でやって来た男爵令嬢としての生活を送っていた。
貴族の慣例として、もうすぐ私たち二人の婚約を発表して、その一年後に結婚式を。
辺境伯は特殊な役割を持つため、彼自身は王都での盛大な結婚式を望まず、この辺境の地でひっそりと結婚式をすることを望んでいるらしい。
私の希望も聞かれたけれど、どう答えて良いかわからず『どちらでも』と無難な答えを返すしかなかった。
だって、私は暗殺するためにここに送り込まれただけで、彼と本当に結婚するつもりなんて、一切なかったもの。
……一切なかった……はずなんだけど……。
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